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第九頁 来咲蜜花の証言

「再度確認させてもらうけど君は佐伯宥子の友人で合っているんだよね」

「くどいです。何度も言わせないでください」

「ごめんね、探偵と言うのは情報に関して貪欲なんだ、依頼者のことならなおさらね」


 クスリ、と司書が微笑んで紅茶を飲むのを見た蜜花が異性なのか同性なのか決めかねていた。中性的な声、というのもあるし見た目も少年のような格好なのもある。

 スーツ姿、といってもホットパンツだし……見ようによって、女にも見える。

 なんだか、心理学でどこぞのカリギュラ効果だかカリギュラ現象だか、そんな単語が過ってくるタイプの人物。

 探偵に恋愛感情を抱いた、なんて乙女思考通り越してスイーツ脳になった覚えはない。

 ただ、それだけ目の前にいる探偵は、人形のようにしか見えなかった。

 ……という、彼女の思考を長年の勘を脳内で勝手に把握するエルエスだが、ことりと一口飲んだカップをソーサーに置く。


「まず、彼女が保育園の頃にセクハラをした相手と今回のいじめの主犯格の子のことは知っているかな」

「……いじめの主犯は味園義男(みそのよしお)です、セクハラしてきた男子は知らないですけど」


 重々しく、蜜花は口にした。

 ……うん、クリードの情報とも一致しているようだね。

 司書は彼女の内情を察しながら、仕事として彼女に問いかける。


「君は、その加害者の子とは面識は?」

「ユウちゃんとは中学の時に一緒になったから、詳しくは知らないです。でもユウちゃんがいじめられているってことは知ってます!」

「……そうか」

「ユウちゃんが、何をしたの……? 何も、何もしてないのにっ!!」


 苦虫を噛み潰すように、蜜花は涙が頬に零れ落ちる。 

 エルエスは蜜花に違和感を持たれないように机に肘をついたように見える状態で自分の耳に触れる。まあ、被害者だった人物が第三者と共犯でいじめを行う、なんて復讐譚らしい話だけど。

 

 ――――クリード、聞いてもいいかな? 


『なんだ?』


 念話でエルエスはクリードに情報を求めた。

 来咲蜜花は、依頼者のいじめられているきっかけになった射越只広の存在は知っているの?


『親友には話していないそうだ、聞かれて裏切られるのが怖いと』


 まだこの世界がパラレルワールドなのかどうかまではわからなくても今の西暦は平成の前半のようだから、ツンデレという概念自体、そこまで理解されている可能性もないな。

 少なくとも……暴力を振るったことがあるって言っていたから、その点を聞かれたらってことなんだろうね。


『おそらくは』


 僕は違和感のないように紅茶を口にする。


「……そうだよね、きっと彼女は辛い思いをしているはずだよね」

「そうですよね!? なのに、ユウちゃんは、『平気だよ、ダイジョブ』って、笑うんですよ!? 体育倉庫で、裸にさせられて股にマジックで正の字が書かれて倒れてるユウちゃんを見た時は本気で殺してやると思いました!!」


 うわぁ、そこまでしてるのか。

 どこぞの知り合いの作家なら『どんなエロ同人展開!? 詳しく! 詳しく!!』と聞き爛々と迫ってきそうで不安になるが、現場を見たことがあるというのは情報としても助かる。


「証拠として写真は撮った?」

「私もそう思ったんですけど撮ってないです、ユウちゃんが撮らないでって言われたし……でも私、ある日聞いたんですよ!」

「何をだい?」

「たまたま義男がお昼休みの中庭で「写真撮って脅したら犯しても抵抗しなくておもろかったわー」ってなんて言ってて!! ……アイツらマジ殺す!!」

「ヨカッタナー、殺人事件がまだ勃発してなくて」


 コトリと、司書は音を鳴らせながらソーサーにカップを置いた。

 司書の言葉を聞いた来咲は涙を袖で拭った。

 ダン!! と思いっきり来咲はテーブルを両手で台を強く叩く。

  

「だから、貴方が探偵だって聞いた時、ちょっと嬉しかったんです……ようやく、アイツのいじめが社会的に公開されて、社会的にアイツは死ぬんだって!!」

「……そうか」


 彼女の瞳にあるのは、親友を守るための敵への憤怒だ。

 激しく燃えている蜂蜜色の瞳は、まっすぐにその憎悪の捌け口を探しているようだった。


「アイツを、社会的に殺す手伝いをしてください!! アタシも、全力で協力します!!」

「うん。けど、僕がするのはいじめとしての証拠を掴むことだよ。彼女も君が巻き込まれて傷つくのは避けたいはずだ……それはわかるね?」

「友達が困ってることを巻き込まれたって、助けたいって思うのは普通じゃないですか!!」


 来咲蜜花は席を立ち、大声で叫んだ。

 他の客は気にはしない、いつも通り普通にしている。


「社会的に殺したい……か。もしそうしたいなら、情報が物を言うんだと覚えた方がいい」

「情報……?」

「そう、大人はね証拠があればあるほど動きやすいんだ。探偵でも警察でもね。それが大人としての戦い方なんだ」

「……?」

「君は子供だから、子供なりの情報の集め方はできるだろうけどね。だから、君が彼女のことを思うなら……僕を利用して二人の情報を調べ上げればいい」

「……交渉成立、ってことでいいですか?」

「とりあえず、君から聞ける情報の全てを聞いてから君には協力者になってもらうよ。君もそれで問題ないね?」

「はい!!」


 来咲蜜花は満面の笑みを見せる。


「それじゃ、よろしくね。来咲蜜花さん」

「堅苦しいのはやめてください、蜜花って呼んでください」

「わかった、蜜花ちゃん。今後ともよろしくね」


 僕と蜜花は固い握手を交わした。

 僕の従者は、いいのか? と溜息を零すのに僕は空気を読もうね? クリード、と、心の中で諭した。


「ちなみに、エルエスさんは女性なんですか? 男性なんですか?」

「ふふ、秘密だよ。探偵はミステリアスな方が人気があるのさ」


 僕は人差し指を口元に当てて、くすりと微笑んだ。

 蜜花はそのミステリアスな探偵に、少しだけ心をときめかせた。

 司書は冴島宥子の情報を教えてくれた少女、来咲蜜花と別れた。

 とりあえず、今日はもう一旦の調査は終了しておこう。


「クリード、ホテルに戻るよ」

『ああ』


 司書はスマホを耳に当てながら、通話するフリをする。

 来咲蜜花に聞けた情報はなかなかのものだった。

 だが、情報としては大いに収穫だった、が。


「……まだまだ足りないなぁ」

『どうした? エル』

「ううん、こっちの話」


 ……ただ、射越只広と味園義男が冴島宥子に行ったいじめの内容としては、大きな収穫だ。できる限り、彼女を追いこんだ輩はまだ別にいる可能性もある……探偵だからこそ、可能性の視野は広くいないと。


「ねえ、クリード。お願いしてもいいかな?」

「?」

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