同じ幸せ
今回は「次の幸せ」の過去編を書きました。
一小説企画中です。
「涼しい夜だね」
ベランダに出て涼んでいると、彼が隣に来て言った。
「そうだね」
彼の言う通り、本当にとても涼しかった。エアコンも買えていないから、この夏にこんな涼しい時間があるのは嬉しい。
「去年まで、こんなに夏の夜が涼しいなんて、知らなかった」
「……私も、知らなかった」
夜は寒くてうるさい。そんなマイナスな印象しかなかった。
「ははは。だって、夜遊びなんてしなかったもんな」
彼は笑いながら言った。つられて私も笑う。
私達がバイト先で知り合った頃は、お互い生活や目標のために働いていたから、遊びにお金を使う余裕なんてなかった。少し前までのことなのに、随分と懐かしい。
「そんな僕らが、駆け落ちか」
彼も私と同じようにバイトしていた頃を思い出していたのか、どこか懐かしむような声で言った。
「これから、どうなるのかな」
不安を口にする。
同棲するための家を用意してくれたのは彼だけど、駆け落ちを実行したのはおそらく突発的。ここから始まった生活が、果たしてそううまくいくのだろうか。
「どうとでもなるさ」
「そんないい加減な……」
思ったより考えがなさそうで驚く。そんな私の様子を見て、彼は面白そうに笑った。
「本当にどうにでもなるよ。実際、ここ数日もどうにかなっただろう?」
「それはそうだけど……」
「それに、僕たちは一人じゃない」
そう言って、彼は私の手を握ってきた。
「……うん」
彼の手を握り返す。
これからのことは全く想像もつかないけれど、彼と二人なら何でもできる気がした。
「それにさ。僕、上司に結構気に入られてるんだよね。同僚もいい奴らばっかりだから、困った時はきっと助けてくれると思うよ」
「そっか、それなら安心だね」
彼の人柄は、まさしく太陽だ。きっと、私が思っているより多くの人に好かれているのだろう。
少し前まではそれが不安だったけど、今は誇らしく思う。
「幸せに、なろうね」
「当たり前だよ。そのために駆け落ちしたんだから」
彼を見ると、彼は自信に満ちた様子で夜空を見上げていた。
私も夜空を見上げる。
__綺麗な星空。
こんなに美しい星空があるだなんて、知らなかった。
「綺麗……」
思わず言葉を零す。
「……こんなに綺麗な星空は、見たことないよ」
彼も、感動したように言った。
「これからも、一緒に見ようね。星空」
何年経っても、彼と同じ星空を見ていたい。本気でそう思った。
「勿論だよ」
優しい彼の声を聞いて、その気持ちは彼も同じだったのだと知り嬉しくなった。
幸せでいよう。どこまでも二人で__
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