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第6話 ジープで行こう!!

 ブルンブルンブルン!!


 エンジン音が激しく鳴り響く。

 俺は、座っている椅子に、必死でしがみついた。


「大丈夫だよ、メア。そんなに怖がらなくても……」

「だって! こんなの乗ったことないし!! 旅に使ってたのは馬車だったから、すげーゆっくりだったし!! 」

「案外臆病なのね」


 俺と、運転しているニーヤンが横並び。

 そして、後部座席から声をかけてきたのが、リーチェである。


「なんなんだよ、この機械? っていうか、メカ? っていうか……」

「ジープだよ。荒れ地も走れる車。……地上には車って概念もまだないのか……油を使って、それを燃やして走る。オレらは、それに乗って、こうやって運転していれば良いってわけ」

「こええ! 早すぎてこええ! 」


 ぎゃーぎゃー騒いでいる俺に、リーチェがぼそっと呟いた。


「うるさいわね。あなた、本当に勇者メアなの? そんなへなちょこ勇者、女になって正解よ。今のあんたの姿なら、許されるもの」

「誰がへなちょこだこのロリババア!! 」

「あーもう。君ら、本当に相性悪いよね」


 ハンドルを握って、最初こそ真面目に運転していた魔王ニーヤンは、ハンドルを離して、そこに足を乗っけて、ぎしっと後ろに倒れ込むような姿勢で腕を組む。


「……手、離して大丈夫なのかよニーヤン? なんか、めっちゃ怖いんだけど……」

「オレの身体能力をよく知ってるのはメアだろ? だーいじょーぶ、岩に激突するようなへまはしないよ」

「だといいんだけど」


 俺は、そっと、窓の外に顔を出す。

 そっちの方が、車内で高速で通り過ぎていく景色を見ているよりはマシだ。


「ふぎゃ~~~!! めっちゃ景色流れるの早い!! こええ!! 」

「顔出してると、飛んできた砂なんかで怪我するよ。気をつけて」

「あ、でも、中にいるよりは、だいぶ楽……って、わお!! 」


 早速、巻き上げられた砂が、俺の顔を襲う。

 俺は、顔を出すのを止めて、慌てて車内に引っ込んだ。


「ぺっぺっ、口の中に入っちゃった……」

「だから言ったでしょ。怖いなら大人しく、中にいなよ。髪、砂だらけになるよ? 」

「でもさあ、なんか、怖いけど、それを克服したら、新しい景色が見れるような気がしねえ? 」

「……冒険者気質っていうのも、厄介なものだよね」


 全くもってその通りだと思うので、俺は反論するのを止めた。

 まだ見たことのないもの・超がつくほどのレアアイテム。

 そういうものに惹かれてしまうのは、冒険者ならではだ。


 そっと振り向くと、リーチェは後部座席に、自分の持ってきたブランケットを腹に掛けて、ごろんと寝転がっている。

 さっきまで、何か機械をいじっていたのに、と思うと、リーチェの背がゆっくり動いた。


「……吐きそう」

「えっ、えっ、リーチェ、吐くなら窓の外にな! 」

「……だから、リーチェはあちこち連れて行きたくないんだよ」


 そうぼやくニーヤンだったが、俺は、はらはらと後部座席を見ていた。




――

「んーーーー! なんか、足が棒になった気分……歩いてもいねーのにな」


 夜、道なき道を走っていたジープから解放され、俺たちはたき火を起こしていた。

 真っ青な顔をしていたリーチェが、ふらふらと火の元にやってきて、腰掛ける。


「魔界人は丈夫だから。でも、人間はあんまり丈夫じゃないんだよね。ごめん。エコノミークラス症候群って話もあるし」

「? なんだそれ? 」

「ずっと同じ体勢で座っていると、血液中に血栓ができて、それが原因で死亡することもあるんだ。わかるかな? 血が固まって、心臓や脳にいくと危ないって話」

「ふーん。そうなのか。でも、それこそリーチェに治して貰えばいいんじゃねえの? 」


 俺は、さらさらとサイドに流れてしまう亜麻色の髪を、耳にかけながら言う。

 ニーヤンは、ちらりとリーチェを見た。


「……あの状態のリーチェに? 」

「……だよな」


 リーチェはすっかりグロッキーで、俺に憎まれ口を叩く元気すらない。

 俺は、疑問だったことをニーヤンにぶつけることにした。


「なあ、ニーヤン。もしかして、俺らが行こうとしてる『鳥居』って、空から行った方が楽じゃねえ? 」


 そう聞くと、ニーヤンは「うーん」と腕を組む。


「移動距離としては、楽だよ? でも、空を飛べない君と、リーチェを抱きかかえておんぶしながら、オレが飛ぶの? それに、最初に行こうとしている『鳥居』は、山の中にある」

「山だと、飛べねえの? 」

「まあね。飛べないっていうか、近づけないってことかな? メアは、山の風を受けたことはあるかな? 」


 俺は、首を横に振った。

 魔王を倒すために、様々な場所に行ったが、そういえば山には登ったことがない。

 その俺の思考を読んだかのように、ニーヤンがため息をつく。


「あ! そういえばニーヤン、俺が外に出るのめちゃくちゃ嫌がってたじゃん! 瘴気がどうとか……」

「うん、まあね。でも、君たちが勝手に魔界に出て、うろちょろするよりはマシだよ。リーチェは確かに賢いけど、それは経験に基づくものじゃない。つまり、君たち、魔界のペーペーが歩いて行くのは、すっごく危険だってことだよ」


 俺は、そのニーヤンの言葉を、ゆっくりと頭の中で反芻した。

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