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第5話 老獪なる幼女

「メア~~!! メアちゃん!! どこだ~~~? 」


 バタバタと、魔王が俺を探している音が聞こえる。

 でも、俺はそこに出ては行かない。


(なんとか、あの子……リーチェに近づかないと……。お、俺は……俺は、男に戻れない!! 『勇者・メア』に戻れない!! )


 そう思いつつ、さらさらと肩からこぼれ落ちてきた、長い髪をそっと、撫でる。

 今の俺の髪。亜麻色の長い髪。

 もちろん、女の髪なんて、扱ったことがないので手入れは全て、ニーヤンがしている。


 俺の姿は、水色のツーピースをコルセットで固めた、女物の服である。

 その姿を、さっきからリーチェの部屋の前まで来ているのだが、いかんせんニーヤンがあちこち探し回っているため、うかつに出て行けないのだった。


(こんな、苦労知らずの貴族の娘みたいな上等な格好をして……。俺は、勇者だぞ!? 情けない……)


 女の姿になってから、俺の勇者としてのプライドはボロボロだった。

 水商売女の中でも、セックスにこぎつけるまでの駆け引きだけを楽しむ商売があるようだが、俺とニーヤンとの関係は、それとさほど変わらないように思った。


 すると、わずかな隙をついて、リーチェの部屋の扉がキイっと開いた。


「早く来て」


 言葉少なに、リーチェが手招きをする。

 俺は、ずっと膝を抱えて置物の陰に座っていたため、固まってしまった関節をバキバキに動かすと、慌ててリーチェの部屋にと転がり込んだ。




――

 リーチェの部屋には……大きな、箱のような家具が何個も鎮座している。

 そして、床を這うのはケーブルの束。

 意外にも、リーチェは俺の今の姿の身長ほどもある、マザーコンピュータのキーを軽く叩くと、俺に向き直った。


「さて……あなたとは、二度目ましてになるのよね」

「……」


 こ、こいつ、喋るぞ!?

 いやいや、確かに「バカ」とも言われたし、喋らないとは思ってはいなかったが、ちゃんと文章を喋れるんだな!?

 と、俺は軽く感動していた。


「私はリーチェ。気軽に呼び捨てにして貰っても良いわよ」

「わかった、リーチェ。俺は、メア。勇者メアだ」

「ふん、町娘みたいな名前」

「こっのっ……!! 」


 俺は、急速に頭に血が上るのを感じた。

 元々、俺の名前は、母さんが最初に身ごもり、腹の中で亡くしてしまった姉ちゃんの名前をそのまま貰ったのだと聞いている。

 かなり、センシティブな名前なのだ。

 だから、俺も、名前を馬鹿にされると、まるで姉ちゃんごと嘲笑われているような気になるのだ。


「冗談よ。そんなに顔に出すほど怒らなくても良いじゃない」


 そう言って、リーチェはまた、キーボードのキーを軽く指先で叩いた。

 俺は、ぐっと怒りを飲み込む。

 

「リーチェ。俺と、君の目的は同じだと、思ってる」

「そうね。私はあなたに、早く出て行って欲しいと思う。あなたは、早く元の姿に戻りたいと思ってる。利害は一致してるわ」


 リーチェは、そこで、俺の目をようやく正面から見据える。

 ……なんだろう。10代前半の少女じみた姿なのに、まるで村の長老婆さんを相手にしているような気分になる。


「じゃあ、『珠の枝』を直せるってことも……」

「そう。わざわざ天界に行ったり、あなたたちがしたように地上に落ちてきたものを探したりする必要はない。ここ、魔界で、珠の枝を直すことができる」


 俺は、ぱあっと表情を明るくした。

 光明あり……! とは、まさにこのことだ。

 

 しかし、リーチェは、はあっとため息をついた。


「珠の枝を直すには、魔界の『鳥居』をくぐることが必要。でも、それは簡単にはうまくはいかない」

「そう……なのか? あ、でも、距離が問題だって話なら、俺、一応旅をしてたんだし、慣れてるっていうか……」

「そうではない。魔界の王はニーヤデル様ただ一人。だけど、一枚岩ではない」


 そう言って、リーチェは、今度は若干強めに、タン! とキーを叩く。

 さっきから何をしているのだろう? と、俺は疑問に思う。


「ああ、これ? 今、ニーヤデル様の様子をカメラに追跡してもらって、確認しているのよ。私と勇者メア、あなたとの接点ができてしまったから、この部屋に探しにくるってね」

「じゃあ、早く、俺が何したらいいのか教えてくれ! 理屈は後で良い! 何をすれば、男に戻れるか! 」

「……それだけじゃないでしょう。あなたは、魔界から脱出する必要がある。つまり、最低2つの鳥居をくぐって、珠の枝の力を取り戻すことが重要」


 そして、ぐっと言葉に詰まる俺に、こうも付け加える。


「しかし、珠の枝の力が戻せるのは、その珠の枝に付いている宝玉全ての力を戻さなければ、発揮されない。つまり、鳥居4つが必要ね」

「そんな! 」


 俺は、つい、そう小さく叫んだ。

 ニーヤンが言っていた、「宝玉の数が4つの枝は、超超レアアイテム」というのが、ここにきて足を引っ張るなんて。


「……ちなみに、珠の枝は、今どこに? 」

「あ、俺の部屋にある、はず……。多分、だけど……」


「お探しのものはこれかな? 」


 はっと、俺とリーチェがドアの方を向く。

 すると、そこには、灰色のセメントをかけたように輝きをなくした宝玉が4つ、ついた枝……。

『珠の枝』を持って、ぜえはあと息を切らしているニーヤンが立っていた。

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