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第4話 少女リーチェ

 その、くるくる頭の女の子は、じーっと俺を見ている。

 だが、一言も喋らないので、俺は声をかけてあげることにした。


「どうしたの、こんなところに地上人がいるなんて! あ、もしかしたら、魔王に無理矢理さらわれて、監禁されてるとかじゃ……」


 そのとき、その女の子が口を開いた。


「ば・あ・か」


 そう、一文字ずつ、綺麗に発音してから、秒でドアを閉める。


 俺は、最初、ぽかーんとして、次にそのドアをドンドンと叩いた。


「うわああああああん!! 馬鹿って言ったな馬鹿って!! そんなん俺も重々承知なんだよこのガキ!!

出てこいコラ、そのぐにぐに伸びそうなほっぺ思いっきり引っ張ってやるぞこのガキ!! うわあああああああああん!! 」


 叩くだけでは飽き足らず、足でも蹴る。

 悔し涙が出てしまうのは、仕方ないだろう。俺だって、自分がちょっとだけ足りない頭をしていることは自覚している。

 だからこそ、腹が立つのだ!!


 その次の瞬間、ぽん、と後ろから肩を叩かれる。


「どうしたの、メア……ってふぎい! 」

「これは今の傷ついた俺の分!! 」


 やべ。反射的に顔を殴ってしまった。

 魔王じゃなかったらどうしよう、と思ったのだが、やはりそこには殴られた頬をさするニーヤンしかいなかった。

 

 よかった、ニーヤンで。

 こいつなら、多少のことは許してくれる。


「ニーヤン! このドアの向こうにいるガキはなんだよ!? いきなり暴言を吐かれたぞ暴言を!! 」

「ああ……リーチェか。彼女は、まあ、特殊でね」


 ふん、と俺は鼻息を荒げる。

 リーチェでもエリザベスでも何でも良いから、ここにいるガキに一発食らわせることしか考えられない。


「彼女はね、軍医だったんだ」

「軍医……ヒーラーか。あんなに小さい子がねえ。へー」


 俺は、大抵のヒーラーのイメージを思い浮かべた。

 戦場に身を置かない人間からすると、ヒーラー=儚げな美人で大人しいお姉さん というイメージを持つと思うが、実は数多の職の中でも、ヒーラーは最も厳しい人間でないと務まらない。

 戦場において、ヒーラーは頭を使い、戦術に優れた者とも言える。


 だから、冒険者の中では、「ヒーラー詐欺」という言葉が横行している。

 どんなに外見は儚げな女の子であっても、戦場では鬼になるからだ。


 実際、うちのパーティでも、ヒーラーは筋肉もりもりの変態マッチョマンである。


 しかし、パーティ内では重要な「軍医」という役割を持っており、なくてはならない存在だからこそ、俺たち冒険者はヒーラーの後機嫌を常に伺っているわけだが。


「しかし、彼女は見た通り、医療魔法以外はただの女の子だ。だから、君たちとの戦いの場に連れて行かなかったんだけど、どうやらそれが彼女のプライドに障ったらしくてね。今は、完全に引きこもってるんだけど、珍しいな、君には顔を見せたの? 」

「顔を見せた……つーか、あっちから接触してきた、みたいな? てか、このエナジードリンクなんだけど、地上のものだよな? あの子、地上人なのか? 」

「ん、いや……」


 そこで、ニーヤンは口ごもった。

 そして、少し考えたかと思うと、渋々と言うように口を開く。


「実は、つい3日前に、魔界と地上との貿易が決まったんだ」

「へ!? 」


 俺は、驚いて口をあんぐりと開ける。

 魔王は、腕組みをして、続けた。


「魔王であるオレと、勇者である君が行方不明になったことで、魔界と地上は一時休戦。そして、地上の商人と魔界の商人が勝手にホットラインを作っててね。いわゆる、『宅配サービス』が始まったんだ。おそらく、リーチェの持っていたそのドリンクの缶も、そこから仕入れたんだろうね」

「な、なんつー迅速な……やっぱ商人って怖ええな」


 俺は、あごが地面に付きそうなくらい、ぽかんとしてから、そう言った。

 商人というのは、金になればどんなことでもすると聞いてはいたが、まさか魔界にまで商魂を見せるとは……。


「ちなみにそれって、国王とか魔王は関わってんの? 」

「関わってるわけないだろ。オレはあくまで行方不明なんだから。商人が勝手に始めてるだけだよ。……まあ、あんまり目に余るようだったら、オレが出て行って止めざるを得ないだろうね」


 俺は、それから、ふと視線を感じて、閉められていたドアに目を向けた。

 すると、あの子が、またすごい顔で俺をにらんでいる。


「出てきやがったなこのガキ!! 俺のダブル頭ぐりぐりを食らえ!! 」

「や、止めてあげてメア……大人げない……」

「俺はまだ18だっつーの!! ふはははは! まだ大人じゃないから大丈夫なのだ!! 」

「…………」


 リーチェは、毛を逆立てる子猫のような顔をしていたが、ふと、こんなことを言った。


「あたし、知ってるよ」

「ん? 」


 俺は、リーチェに耳を貸す気になる。

 しかし、魔王は何故か慌てているようだ。


「あたし、『珠の枝』の直し方、知ってるよ」

「り、リーチェ? そのことは今言わなくても良いんじゃないかなあ? ねっ、後で聞くからさ」

「とっとと元に戻って、あんた、ここを出て行ってよね」


 そう言われたが、魔王はバン! とリーチェの部屋のドアを閉めた。


「へ、変なこと言ってたね! あははははは! 忘れてね! 」

「…………」


 俺は、黙ってニーヤンに疑問の視線を向ける。

 

 知ってて、黙っていたのか? こいつは。

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