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第12話 長老、企む

「どういう、ことだ? 」


 俺は、息を呑んで、言う。

 あの熊さんたちが、俺らを騙した?


「そもそも、おかしいと思わないのか? 熊というのは、群れでは生活しない。俺たち蚊遣り熊もそれは同じだ。熊のテリトリーは単独なんだよ」

「へ、へえ? 」


 俺は、そんなことも知らなかったので、とりあえず相づちを打った。


「群れで生活した方が良いと、最初に言い出したのは誰だと思う? 」

「それは……大抵のところは、お上だよな」

「そう。群れを支配する者にとっては、群れを大きくすることは自分の立場にも関係するからな」


 俺は、余計なことを言わないよう、それから、エンキを激怒させないように、震える体をなんとか戒める。

 ……本当に、寒いんだ。山って標高高くなるごとに寒くなるんだよ!!


 そして、ようやく気付く。


「……ってことは、長老熊……あいつか! 」

「そういうことだ。お前も聞かされたんじゃないか? 最初に群れを作ったのが長老で、地上遠征にかり出されたのが俺を含む熊たち、そして、また覇権は長老が握っている」

「あ……そういうことか……。俺、最後は聞かされてなかったけど、エンキが地上遠征でボスになったのなら、どうしてまた長老熊がリーダーになっているのかってことだよな」

「そう。長老が、でまかせを言っていることの証明になる」


 俺は、考えた。

 そんなこと言って、エンキの方がでまかせを言っていることもあるからだ。


 エンキは、そうしてから、俺の縛られている手の方に行って、鎖を外し始めた。


「長老にとって、俺のように一匹で行動し、しかも地上遠征で成果を上げた熊は、目の上のたんこぶというやつだ」

「でも……お前、生け贄を求めたって……」

「それは、人間たちが勝手に始めた事だ。俺は一切関与していない。生け贄にされた女は、こうして戒めをほどいてやって帰した。そこからどうなったかはわからん」


 そして、じゃらりと最後の音を立てて、鎖がほどけた。

 俺は、両手首をさすりながら、問う。


「じゃあ、俺を助けて、それからどうするつもりだ? 」

「……お前には関係ない」

「もしかして、一匹で、蚊遣り熊の群れに突っ込んでいくつもりじゃないだろうな!? 」

「関係ない」


 とりつくしまもないエンキに、俺は呆然とした。

 こいつは、やるつもりだ。

 背中を向けてしまったせいで見えるオーラが、明らかに怒っている。


 エンキは、もう、こんな愚かな風習が繰り返されるのは、我慢がならないと言っているのだ。

 俺は、ちらりと魔王のしゃがんでいるであろう場所に視線を向ける。

 俺が説得できなくとも、ニーヤンなら……と思ったのだ。


 しかし、ニーヤンに動きはない。

 そもそも、インビジブルの効果は、靴音などは殺すことができない。

 このような山道では、移動するだけで枯れ葉がこすれ、音がしてしまうだろう。


「エンキ……」

「お前は、すぐに下山しろ、人間の女。もうすぐここは戦場になる」

「そ、そんなこと言ったって! お前が何もかもの責任を被って、死んだりしたら……! 」

「俺の責任だ」


 エンキは、そう、きっぱりと言い放った。


 ……と、そこで、「あああああ」と上の方から声が聞こえる。


「魔界人の男の匂い……誰だ!? 」


 と、その瞬間、山の尾根から、ばさっと、細長い男の姿が宙を舞った。

 そのまま、俺とエンキの足下に落下する。


「ニーヤン!? 」


 俺は驚いたが、よく考えればそれもそうだ。

 ニーヤンは、空を飛ぶことができるのだ。

 枯れ葉を踏まなくとも、音なく飛び上がることだってできるのだろう。


「……いやあ、ついつい足を踏み外しちゃったよ。で、この熊がエンキさん? 」

「……ふんふん。さっきまでこの女と一緒にいた男の匂いがするな。一旦逃げて、それでも戻ってきたのか? 」


 エンキは、鼻を鳴らしてそう言う。

 ニーヤンは、「てへへ」と、どじっ子のような、気色悪い笑みを浮かべた。


「何しに行ったんだよ、ニーヤン? 」

「いやあ、ちょっと君たちを驚かせたくてね。意味はないんだ。すまない」


 俺が肘で突っつくと、ニーヤンはでれっと笑った。

 ……本当に、変なところでエンターティナーだ、この男は。

 じゃなければ、魔王なんてやってられないのかもしれないが。


「俺は、ニーヤン。ただの無職の魔界人だ。よろしく、暴れ熊エンキ」

「ふん? 暴れ熊……? まさかお前、地上遠征の時にいた男か? 」


 エンキは、ニーヤンと真っ正面で話しても、魔王だと気付いていないらしい。

 つまり、エンキとしては、ただ単に戦友に会ったようなものである。


「そうか……遠征にいたのか……では、お前の二つ名はなんだ? 」

「残念ながら、俺は大した武勲を上げられなかったものでね。ただの魔界人Aくんだ」


 出た。「魔王隠し作戦」。

 このニーヤンは、自分が魔王だとバレるのが、よっぽど嫌らしい。

 まあ、俺も、今の女の自分が『勇者メア』であることがバレるのは嫌なので、隠しているのだが。


 しかし、エンキのことは、俺たち勇者パーティも聞いたことがないので、おそらく違うパーティが交戦した蚊遣り熊なのだろう。

 地上では、冒険者はそれほどありふれた職業なのだ。

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