気がつくとそこは闇の中 3
「はぁ……」
作者からすると次に考えていた大きな展開があったのかもしれないけど……どうなんだろうか。12巻も続けて尚そういった展開の為の設定を出さなかったのだとしたら、それはそれでカルピスを極限まで薄められているみたいで嫌な感じがするし、かといって僕がそんな設定をつけ足して物語を上手く進める足掛かりにしちゃったら、本当に別の物語というか同人臭くなってしまう。
どうしよう……。
耳に被った髪を手で覆うと、キュッと引っ張った。やっぱり何をどう考えても続きなんて本人にしか書き様が無い。
……。
僕が本当に好きでラノベにはまったのは異世界モノで、純粋なファンタジーは専門外だ。
どちらも同じ様に思ってる人は沢山いるかもしれないけれど厳密には、剣と魔法のファンタジー、異世界系は似て非なる物。
物語を作る上での難解さで言えば、バックボーンが真っ白の異世界モノは作り込む余地が多くいい加減になりがちで、だからこそ突っ込み所が多くなって、良いモノに仕上げようとする程整合性があやふやになっていくし、故に良い物に中々巡り合えなくて辛い。
ああ、じゃあいっそのこと、続きなんて言わず異世界モノに変えちゃえばどうだろう。なんて言葉が頭の斜め上を過った。
要するにやけっぱち。さっき言った整合性が正に取れなくなってしまい、お話や世界観が一気に崩壊しちゃうアレ。
締め切りに追われたとか不人気で切られたとか、まあ知らないけれどたまにプロの人もやっちゃって、続いたとしても後で収拾がつかなくなって、しどろもどろになったり無かった事にされたりするヤツだ。
「いや、でもなぁ……」
そう悩みながらペンをサラサラと泳がせてみた。
――このままでは彼女を救うことが不可能だと思った俺は、別の世界へ行って助けとなる仲間を集める決意をした。
なんだこれ、と自分で書いた1行を鼻で笑う。すると丁度その時、一時間目終了ののチャイムが鳴り響く。
「どうだ、なんかいい案浮かんだか」
「え!?」
後ろの席から早速日野君の催促を受けた。案の定ともいえるけど、それにしたって50分でどこまで書けたかなんて聞く担当が世界のどこにいる?
とは言えないのが僕だ。仕方が無いと思い体を横に向けて、1行しか書いてない紙を渡す。
彼は黙ってそれを受け取った。
「……」
「これだけしか書けなかったよ」
「……」
「や、まだ続きは考えてあるんだけどね。授業の終わり頃に沢山アイディアが出てきて」
彼の沈黙に思わず口が滑る。何も考えてないのに墓穴を掘る様な真似をして、一体何がしたいんだ僕は。
「うん、なんかいいな。じゃあ続けて書こうぜ」
「え?」
思ってもいない反応に僕の声が1オクターブ上がって出る。
日野君は何を思ったのか、たった1行しか書いていない僕の小説を褒めてくれた。
「続きは考えてあるんだろ? 早く書いて読ませてくれよ」
「ああ、うん」
笑顔の彼から紙を返してもらうと、僕は正面を向き直してたった1行しか書いてない文章をじっと見つめる。
どう見ても正直何が面白いか僕には判断がつかない。なので彼の言葉は疑問だらけだ。いや、書けと言っておいて読めばつまらないとバッサリ切ってしまうのもかなり失礼な奴だとは思うけど、というかむしろ僕の印象ではそんな反応しか想像してなかった。
だけど……この程度で良いんだと心のつっかえみたいなのが取れた気もしていた。