気がつくとそこは闇の中 1
肩が落ちて息が漏れた。
朝に貰った悩みの種はすぐ頭から発芽して僕に絡まり、思考を縛っている。おかげで先生の授業は半分も入ってこない。
こんがらがった頭の中身を外に出す様に、僕は思いついた言葉をノートに書きだす。
課題に忙しくて、思いつきませんでした、一週間待って、君が自分で書けよ……どれも彼を説得できるほどの決定打には欠けている。
ああ、面倒だなもう。
どうすれは僕が続きを書けばいいなんて発想になるのかさっぱり分からない。
例え作者が続きを書かなかったとしても、その後を作者でない僕が書いたって、それは何か別の出来損ない程度にしかならないだろう。そもそも僕は小説なんか1度も書いたことが無いのに。
……例えばこれがだ、1から話を作れというならまだ分かる。
でもこの“続き”っていうのはきっと皆が想像する「多分こうなるだろうな」って話と「作者だったらこう書く」を汲み取って書かなきゃいかないってことだ。なら、それこそ経験の無い僕には到底不可能というものだ。
彼が期待するものなんか作れない。だから僕が書いて続きになる訳が無いんだ。
……なんて言ってもきっと聞く耳を持たないだろう。
書いても駄目、書かなくても駄目。どっちにしたって地獄だ。
言い訳の言葉が綴られたページを、苛立ちを排出するかのように破り取り、裏側を向けて左上に小さくペンを走らせる。
〼、〼、〼……。
ラノベをいっぱい持ってたら書ける――か。
そもそも僕がラノベをいっぱい持ってるのは、好き嫌いがハッキリしていて欲求を満たしたいから、当たるまでただただ買い漁っているだけだった。
だから持っていたって気に入らないものは沢山あって、その中から日野君に貸していただけ。最近ではそれすらネタ切れになっていよいよ何を貸せばいいのか難しくなってきたんだけど。
とにかく宝探しをする経過で色々読んだというだけで、ラノベという大きな枠そのものに対する興味じゃあない。むしろそれだけ拘りの強い僕だからこそ、小説を創作する難しさを自身の拘りから察していた。
罫線の1行目にペンを落とし、トントンとノックする。
……まず冒頭の3行、ここが本当に一番悩むところだと思う。
いくら凄い話が出来たとしても、読み手に何かを期待させるような言葉を置いて、物語を最後まで読破させる力を与えられるは、最初のわずか数行にしかない。
厳密に言うならタイトルとか表紙とかも読ませる力に係わる大きな要因なんだけれど、続きを書けというならタイトルなんてもう決まってるし、作中の絵だって用意するのは不可能だ。
だからまずは最初の3行で読み手をぐっと自分の世界に引き込む。というかむしろその力が無ければ興味は落ちて途端に読者の手も離れてしまう。そして一度つまらないと思われたら、どんなに良い結末が待っていたとしても、話のロジックが素晴らしくても、そこまで辿り着かないのだから意味がない。
つまり、書く人にとって何が大事なのかという話だ。勿論それは「読んでもらう事」で、自分が楽しいと思える話の部分まで読者を押す力だと思う。
だから最初の3行にはその力が求められる。名作と呼ばれる書物の多くは最初の数行で読者の気分を高揚させた上で物語の広がりを見せるものも多い。
後は勿論物語だけど、物語を構成する文章にはSTRタイプとかINTタイプとかがあって、圧倒的な描写力で引き込んだり、ロジックに基づいて物語が進んだり……そういえば、純粋に作家性だけで引き込むタイプはラノベにおいてあまり見たことが無い。
……ともかく、それだけの文章力を求められた上で、さらに物語を考えなきゃあいけないわけだ。
読者をあっと驚かせて、手に汗握る展開を作り、読む為のモチベーションを伸ばす。
前半は何か事件が起きて、後半では溜め込んでおいた伏線がドドドと物語を押し、話が解決。
こんなの、プロでもない僕にどうして思い付けというんだ。ましてやラノベなんて日本には腐る程あるじゃあないか。ネット内で執筆している人だっている。
物語は正に飽和状態。何を書いたってどうせパクリにしかならないし、どこかで見たことのある話だなあって言われるのに決まっている。一生懸命知恵を絞ったってそれぐらいの評価がオチだ。