車に轢かれる様に 2
……。
さっきから彼の事をやたら「DQN」と呼称しているが、実は僕自身彼の事を友達だと思ってはいない。
たまたま前後の席が同じだったのがきっかけで、一番後ろの席を譲れと場所を交換させられたり、僕の持っていたライトノベルに興味を持って貸せと要求したり、なっちゃんとのデートをセッティングさせようとする。そういう何につけても強引で威圧的、僕にしてみればそんな人物でしかなかった。暴力を振られた事は一度も無い、というだけでやっかい者であることには変わりない。
……それが僕の中にある彼に対しての印象だ。
「そういや前に貸して貰ったヤツの続きは? 魔法学校の先生で能力ゼロなのに無茶苦茶強いって主人公のアレ。俺アレ好きなんだよなぁ」
日野君が開いていた本を閉じて机の上に置いた。どうやら今渡した本はあまり気に入らなかったらしい、それでも結局読破してしまうのだろうけど。
実際彼がとても気に入った本、例えば今聞いてきたラノベなんかを読んでいた時はとても集中していた。話しかけても全く応じないし、視線は本に置いたまま全力の表情で相手に邪魔だと訴える。きっと彼は本の虫なのだ。僕と違って色々なジャンルを分け隔てなく読むし、ラノベが好きなんじゃなくて本という媒体そのものが好きなんだろう。
「“ZEROdevice”ね。アレで終わりだよ。作者の人は別の小説書いてるけど、そっちも全然進んでない」
「はぁ!? 書きかけの終わらしてから次の書けってんだ! 桜花ちゃん攫われたまんまじゃん!?」
日野君が眉をゆがめ不満をぶつけてきた。思わず僕は彼から目線を外す。
――知らないって。大体終わらせるも何も続きなんてもう二年も出ていない。要するに飽きたから放置されてるパターンってやつだ。
「トモも気になんねぇの? 好きだから12巻も集めてんじゃ」
「いや、別に……」
僕の冷めた答えに静寂が通り過ぎた。釣られたのか彼からも熱が引いていく。
「……ふーん、まあいいけど。つうかお前が続き書けば?」
「へ?」
何を唐突に言い出すんだ。彼の思い付きで出た言葉に思わず声が変に裏返って出る。これだからDQNは。
「へじゃないって、書けよ。書けるだろ?」
「いや、僕の作品じゃないから」
「お前俺にめちゃめちゃ本貸せるぐらい持ってんじゃん。そんだけ好きならすぐサッと書けるって」
「えー……っと」
彼の強引さに僕はとうとう参ってしまった。
なぜそこまで思考が飛躍するのか。何一つ話が繋がってなくて説得力が無い言葉に、僕はどう返して良いのか悩んで黙り込む。
「ホームルーム始めるぞー」
丁度その時チャイムが鳴って、同時に先生が入って来た。ナイスなタイミングにホッと胸を撫で下ろす。僕は先生の話に集中するよう視線をじっと前に向けつつ、内心ではどうしたものかとぐるぐる考えを巡らせていた。
この手の人間は、自分が言った事が絶対だと思う人も多い。
「俺がこう言ったんだからやってないのはおかしい」と後からキレられるのは面倒だから、何とか良い言い訳を考えてうまく切り返す言葉を考えておこう。