異世界を見た 2
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「……で、何で行きたくなかったの?」
「いや、夢の話だからねこれ」
幼馴染である夏見 夏々(なつみ かげ)は、僕が話をし終えて尚責め立てるように、刺さるような眼差しで意地悪く問い詰める。彼女はそれがワザとであると此方に伝える為に、ニヤリ口元に笑みを込め見せ付けていた。
「ねぇ、なんでなんで? だってラノベ好きじゃん。本当は俺tueeeee! ってしたかったんでしょ?」
「……夢で異世界に誘われたのに断りました、って話にそこまで食いつく?」
迫り出す彼女の体から身を引きつつ、その肩に手をかける。
僕こと真柄 智重は、彼女の1つ下で同じ高校の一年生。粘着質な彼女に付きまとわれながら今日も登校中だった。
「どうせ夢って事なら余計行けばいいじゃん。何でも思い通りなんでしょ? 全部ぶっ壊した後に気に入らなかったら、それも夢って事にすればさぁ!」
国道に沿った建物の裏を沿うわき道は荷物の搬入口となる大事な道なので、車線は無いがそれでも決して細くはない。なのに僕は彼女に気圧されてどんどん道の端へ端へと追い込まれていく。
「ちょっ、顔が近い」
「それとも気に入らないモノの中に自分も入ってるのかなぁ? どうなのかなぁ!?」
「な、何言ってんのさ!」
「それこそぶっ壊しちゃおうよ! ねえ私も手伝うよ!? どうする!? どうする!?」
彼女の眼に映った僕が見えた。とても小さくて、暗い。
「やっ、止めろ!!」
僕はいつものように彼女を強く押し返す。
「……お、強いじゃん。男の子だねぇ」
彼女は一瞬ふらっと体をよろめかせた後すぐ立て直して、僕を艶やかな目で学校に着くまでじっと眺めていた。
いつもこんな感じだ。というかまだこんなのは序の口で、時には「そんなに強く押して強姦でもする気?」とにやけ顔で返されたことさえある。
ツンとした毛先のボブカットが刺々しい。彼女には下衆なまでのサディズムと、環境が壊れて欲しいというマゾヒズムな欲求が混在していて、まるで夢と現実の境界みたいな人だった。
時々……もしかするとここも夢の中なんじゃあないだろうか、なんて風に考える。
でも、もしこの世界が夢だったら。
きっと異世界の様に全て自分の思うが儘になる場所の筈なんだ。