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いつから俺は異世界にいる  作者: seesaw
◆光◆
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異世界を見た 1

「貴方の思うが儘に力を授けましょう」

 純白の衣に乳白色の肌。

 ウェーブのかかった長い金色の髪。

 背中に翼の生えた姿の女神様が僕にそう答えた。

「本当に……本当に何でもいいの?」

「ええ、何でもおっしゃて下さい」

 辺りは真っ白で何もない。

 でもそんなのに構っていられない程、伝えられた言葉は甘美で魅惑的だ。

「いくつ頼んでもいいの?」

「はい、なので願いを百個に増やせなんてお願いをしなくても大丈夫です」

 僕は少し悩んで、その後こう答える。

「それじゃあ……貴方が欲しい、とかは?」

「はい、結構ですよ。共に参りましょう」

 彼女は顔を崩さず即答した。

 思うがままの能力が授けられるなら、いっそ僕について来て貰って逐一叶えてくれれば良い……なんて、そう思って言ったんだけど本当に大丈夫なんだろうか。言葉の意図は伝わってるんだろうか。

 と疑いながらも、女神様の言葉がふと引っかかる。

「共に参る……どこに行くんでしょうか?」

 すると女神様はこの世のものと思えぬ程の祝福を笑みで表し、僕を迎え入れる様手を差し出して、遠い彼方に輝かしい未来を馳せる様言い放った。

「勿論異世界です。貴方はそう望んだからこそ此処に立っている、違いますか?」

 ……そうだ。彼女の言葉で思い出したが、僕は異世界に行きたいんだった。

「いや、その通りだ。一緒に冒険の旅へ出よう、そこで俺の力になってくれ」

 彼女の手を取ると、光が瞬く。

 背中の羽が輝きを放ち、大きくゆっくりと羽ばたいていく。

「では、貴方の物語を紡ぎましょう。きっと皆さんも待っていますよ」

 2人の体が宙に浮いた。

「皆が待っている……?」

 声さえも白みを増す中、僕はまた彼女の言葉が気になり言葉を零す。

 するともうすぐ光の中に溶け込もうかという中、辛うじて返事が耳に届いた。

「ええ、あなたが残す物語を待つ読み手達が――」

「待って!」

 途端に僕は声を張り上げる。

 急に辺りは暗くなって、足はいつの間にか地面についていた。

「はい? 如何しましたか」

「読み手って何?」

「はい、書籍の購入者の事です」

「それって、僕の冒険が本になるって事?」

「そうです、物語は多くの方に読まれなければ伝説には成り得ません」

 彼女の最後の言葉に僕は合点がいった。

 色々都合が良すぎると思ったけど、成る程そういう事か。

「つまり僕に冒険をさせて、その物語を売ろうって訳?」

「はい、でも心配には及びませんよ。売れればその分はペイ致しますから」

「冗談じゃない……」

 チート能力、女神の加護、無双、ハーレム、英雄譚。

 楽しむ分には大歓迎だが、それが本になるっていうなら話は別だ。ましてや僕の物語だって?

「売るって事はそれ相応のクオリティを要求される筈だ、その辺はどうするの?」

「それは物語の紡ぎ手である貴方が考えることで、私は一切干渉致しませんが?」

 女神は相変わらず笑顔でしれっと答える。

「それって要するに変な能力の使い方を指摘されたり、頭の悪さを露呈する羽目になっても全部あなたの性ですよ、って事ですよね?」

 女神は何も言わずにニコニコとこちらを見ているだけだった。

「……行かない」

 少し悩んで、僕は答える。

「そうですか、残念です」

 すると彼女はそう言葉にしつつも一切顔に出さず、手に取っていた僕の手を何の躊躇も無く離した。

「……っ!」

 途端に僕は下へ下へと物凄い速度で落ちていく。

 ――これで良かったんだ。

 凡作だ何だと言われる程度ならまだ大丈夫かもしれないけれど、低い評価なんかつけられた日にはもう耐えられない。

 体感にして僅か3秒から4秒の間、僕は自分が選んだ道への後悔を押さえる様、心に言い聞かせる。

 しかし、朝になってもその後悔はなかなか消えなかった。


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