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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第6話 梟の巣団全滅事件 後編
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そして男は帰って来る

「リュウジさん……寧音さんに出会えたの?」

 

町の小さな酒場でサバの塩焼きをつまみながら、アオイはそうリュウジに聞いた。ギルドの調査が終わり、一人で酒を飲みに行こうとしたリュウジに同行したのだ。

 断られると思って軽い気持ちで同行を申し出たのだが、予想外に許可が出た。アオイは胸をドキドキさせながら、この小さな酒場で一緒に酒を飲んでいる。

 焼き立てのサバは塩味が効いており、口の中で脂がじゅわっと広がり、思わずにんまりとしてしまう。そしてすぐに冷えた白ワインで口の中を洗い流す。

 リセットされた口はサバの身を要求する。それを口に運ぶ。


(う~、たまらないわ……)


 リュウジのことを忘れて酒と魚を楽しんでいたアオイは、リュウジがぽつぽつと昔話をし始めたので、耳を傾けた。

 その話はギルドの受付嬢として数々の不思議な話を聞いてきたアオイでさえ、信じられない話であった。


「俺がサムライになり15年が経った時に遭遇した……」


 リュウジはグッと白ワインを飲み干した。アオイは空になったグラスにワインを注ぐ。


(15年……ということは、リュウジさんの年齢は30後半か40代前半)


 そんなことをアオイは考えた。リュウジがクゲと遭遇して仲間を失ったのが20代半ばとすると年を食っていても40代前半くらいだろう。

 目の前の鍛えられた体はどう見ても30代前半にしか見えないが。

 40代前半なら十分に「あり」だろう。

 何が「あり」なのかアオイには説明できないが、とにかく「あり」だ。


「ブライトンが言っていたとおりだった。寧音はニョウゴとなっていた」

「ニョウゴ?」


 アオイは先ほどから出てきている単語を繰り返した。ニョウゴとは、クゲの親玉であるミカドの妻。いや、妻と言うより妾なのであろうが、クゲの中では高貴な身分なのであろう。下級のクゲをはるかに凌駕する力を備えていた。


「その……ニョウゴとなった寧音さんをリュウジさんは殺したってことですか?」


 思い切ってアオイはそう聞いてみた。

 これは推測の域を出ないことだが、アオイにはかなり確信をもった質問であった。


「……ああ……俺はニョウゴとなった寧音を殺した……いや、解放した」


リュウジは解放と言う言葉を使った。

 寧音は3位の位階をもつ高位のクゲによって殺された。その魂は食われるところであったが、ネコマタという珍しい種族であった寧音はミカドに献上された。

 そしてミカドの興味を得て、ニョウゴになった。数多くいる妻の一人である。

 ニョウゴもクゲと同様に人の魂を食ってその力を維持する。ニョウゴとなった寧音は現世に顕現しては、冒険者の魂を喰らうこととなった。

 そんな時にリュウジと遭遇したのだ。

「リュウジ……にゃ……」

「寧音……」


 透き通るような体。高位のクゲと同じである。

 何枚も重ねた着物姿で寧音は現れた。

 白い顔であったが猫耳はそのまま。寧音そのものであった。

 違うのは彼女はクゲとなり、人を喰らう存在。

 リュウジはクエスト調査官であり、クゲを狩るサムライであった。


「リュウジ、知り合いか?」


 隣で長剣を構えるクロウはそう質問した。リュウジはゆっくりと頷く。

 クロウとは偶然にこの場に出くわした。この15年で2度ほど共闘したことがある同じ侍だ。リュウジにクゲの存在を知らせ、サムライになる道を付けてくれた恩人でもある。

 クロウは手練れのサムライで、腕も確か。これまで数多くのクゲを狩ってきた。

 そのクロウの顔から汗が滴り落ちていた。

 目の前がそれだけ強敵ということだ。


「ニョウゴの力は昇殿を許されるクギョウより上だ。奴らはミカドの寵愛を得て、その寝所に出入りする。それだけミカドから力を与えられている……」


 そうクロウは話す。それはリュウジも感じていた。クゲとなった寧音からすさまじいプレッシャーを受ける。

 だが、倒さねばならない。

 それが寧音を助けるということだ。異形のものになった寧音を安らかに眠らせたい。リュウジの願いはそれだけだ。


「寧音……待ってろ。今、助けてやる。人間に戻してやる……」


 リュウジは両手に握ったバゼラードとソードブレイカーに魔力を込める。


「じゃあ、僕もそれに加担しましょう。命をかけて……」



「寧音との戦いは死闘だった……。クロウも瀕死の重傷を負った。そして俺も……。だが、俺たちにとどめをさそうとした時に寧音が戻ったのだ……まだ、人としての魂が残っていたのだ」


 リュウジはそう言って思い出した。

 リュウジを殺そうとした瞬間、寧音は昔を思い出した。

 そしてリュウジにこう言ったのだ。


「うちを……殺して……これ以上……奴らから恥辱は受けたくない…にゃ」


 両手を広げて体をさらけ出した。

 まだ破壊していない死点が3つ。

 全部で7つあった死点はクロウと自分で4つ破壊した。どうしても分厚い防御壁で破壊できない死点が現れたのだ。


「寧音……。安らかに眠れ……」


 リュウジは渾身の力を振り絞り、寧音の死点を3連撃で破壊した。

 寧音は体が崩れ、消えて行く刹那に微笑んだ。


「ありがとうにゃ……」


 そう口が動いた。


 寧音を倒して魂を解放したリュウジは今もサムライを続けている。

 寧音をニョウゴにしたクギョウを見つけ、復讐するためだ。

 アオイはリュウジから全ての話を聞いて、目の前のワインをグッと飲み干した。

 グラスをテーブルに置く。


(この人……見かけによらず……かわいそうな人だわ……)


 自分がこの中年男に惹かれる理由がなんとなくわかった。

 背負っているものが違う。

 そして生きてる意味が違う。

 目の前の男は愛する者のためだけに生きている。

 そしてクゲ退治などという危険な行いに進んで身を投じている。

 捜しているクゲは位階の高い強敵である。

 リュウジが倒せる相手ではない。

 だが、止めてもリュウジは続けるだろう。

 それがリュウジの生きる目的なのだから。


(でも……せめて……)


 アオイはリュウジの肩をポンポン叩いてこう話した。


「リュウジさん、大丈夫ですよ。私がいるじゃないですか?」

「は? 何をいっているのだお前は?」


 リュウジはきょとんとした顔をしている。もうワインを5杯も飲んでいるから珍しく酔っている。今まで自分のことをこんなに詳しく話した相手はいない。

 なぜ、ギルド職員のアオイに話してしまったのかはリュウジ自身にも分からない。こんなに自分に接近してきた人間はいなかったせいでもあるが、もう15年以上も一人酒をして飽きてしまったのかもしれない。

 アオイはただふんふんと話を聞くだけで、面毒臭くなかったのも原因だろう。


「帰って来た時に一緒にお酒を飲める人間がいることは、戦いの糧になりますよ。寧音さんの代わりは私が務めます」

「……意味がわからん」

「分からなくてもいいですよ。付き合ってあげますから」


 そういうとアオイは目の前の白ワインを飲み干した。

 アオイも5杯目だ。

 今まで思っていても口の出さなかったことをペラペラと話すことができているのは、きっと酒のせいだ。


(お酒は人生を狂わせるというけれど……)


 アオイは一歩踏み出す勇気が自分の人生を大きく変えるということを自覚していた。

 数か月後。

 リュウジは冒険者ギルドでアオイから依頼を受けていた。

 ギルドの初期調査の報告をつぶさに読んだリュウジの顔は険しいが、どことなく笑っているようにも見えた。アオイには、ついにリュウジの標的に出くわしたかもしれない予感があった。


「アオイ……この案件は……臭うな」

「A級冒険者の全滅案件です。クエスト調査官に本部からの依頼です。状況から察するに理由は高位のクゲが関わっているかと……」

「だろうな……」


 高位でなくとも通常の冒険者ではクゲは倒せない。しかし、A級ならば全滅するまではいかない。逃げに徹すれば全滅まではしない。

 考えられるとすれば、高位のクゲ。クギョウと呼ばれる3位以上のクゲだ。奴らの中に寧音の敵がいる。


「アオイ……行って来る」

「はい……ま、待ってますから……。リュウジさん、因縁を断ち切ってください。そして必ず生きて帰ってきてください」


 リュウジは片手を挙げた。

 了解の意志である。

 猫の首飾りがリュウジに話した。


「リュウジ、何だか前よりも強くなったにゃ」

「……俺にもわからない。だが、前は奴らと刺し違える覚悟で戦っていた。今は帰ってアオイと酒を飲むのが楽しい」

「にゃ~。焼けるにゃ。それこそ愛にゃ。愛は人を強くするにゃ」

「お前は何を言っている?」

「この冒険から帰ったら、うちは消えるにゃ。完全に成仏できそうにゃ」

「そうなるといいがな」


 リュウジの後姿を見送りながら、アオイはそっとお腹に手をあてた。


(帰って来た時に教えよう……)


 そして1週間後。

 ボロボロな体になりながらもリュウジは帰って来た。

 目的を果たした満足げな笑顔を浮かべて。


 (完)


120名のブクマしてくれた読者様。

愛読ありがとうございました。


令和3年度。また新作で頑張ります。

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[良い点] 面白かったです。次回作も期待しております。 主人公が渋くてカッコ良かった。 終わり方もいい終わり方をしていて良かった。全くダレていない。
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