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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第6話 梟の巣団全滅事件 後編
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リュウジの過去

「おや、目が覚めたかい?」

 

視界に入ってきたのはしなやかな肉食獣のような雰囲気の若い男。黒く長い髪を一つにまとめて後ろへ流している。わざとまとめていない前髪の半分で左半分の顔が隠されている。

 そして背中には細くて長い剣を背負っている。トゥーハンデッドソードでもなく、長いレイピアの類でもなさそうだ。


(うっ……)


 痛みが襲ってきた。化け物とかしたブライトンと戦い、自分は死んでしまうほどのダメージを受けた。しかし、あと一歩のところでブライトンを倒すことができず、魂を食われてしまうところであった。


「まだ動かない方がいいよ。ポーションを使ったから痛みは緩和してるけれど、完治したわけじゃない。僕は術者じゃないからね。回復魔法は使えないんだ」

「あ、あなたは……」


 苦しい息をしながらリュウジはそう質問した。

 目の前の若い男は、あの無敵に思えたブライトンを一瞬で葬り去った。

 恐らくうわさに聞くSランク冒険者なのであろうと想像した。


「僕はクロウ。クゲを狩るサムライだよ」

(クゲ……サムライ……!?)


 リュウジは混乱した。ケガの痛みもあるがあの常人でないブライトンの変わり果てた姿とその能力。寧々たちが命を落としたデーモンも自らをクゲと名乗っていた。


「クゲを狩るには、特別な技術と武器がいるからね。そう考えると君の持っているその2つの短剣はおもしろいね。クゲの防御壁を破る魔力と奴の死点を破壊できる魔力が宿っているようだ……。なるほど、この短剣のおかげであそこまで追い詰めることができたようだね」


 クロウと名乗った若い男はそう言って、横たわっているリュウジの傍らに転がっている2つの短剣を拾い上げた。

 丁寧にそれを取り出した布で泥をぬぐうと鞘に入れてリュウジの傍に置いた。


「で、君は死点が見えるの?」

「死点?」

「奴らの体にある1~7つの赤く光るところさ。それを破壊しないと奴らは倒せない。奴らにはとんでもない再生力があるからね」


 リュウジは思い出そうとした。しかし、ブライトンとの戦いでそんな光る点を見た記憶がない。


「ない……見えなかった」

「あ、やっぱりそう。そうだよね。改造しないのに見えるはずがないよね」


 リュウジはここで気づいた。クロウと名乗る若い男の長い髪で隠れた左目が赤いことを。それは血のような鮮やかな赤い色。紅玉でできているかのようであった。


「幸運にも防御壁を破ることのできる魔力が宿った短剣で、刺したところが死点だったということ。君は運がいいよ」

「……」


 リュウジは沈黙した。考えがだんだんとまとまってきた。

 ブライトンはクゲとかいう特殊な化け物になった。その化け物は防御壁で守られ、魔法攻撃や直接打撃を防ぐことができる。さらに与えられたダメージはすぐに治る再生力を備えている。


(そしてこの男はそんなクゲを倒すノウハウを持っている……)


「もう少しすればギルドから救援部隊が来るよ。そうすれば町で手当てできる」

「お、俺も……」


 この言葉を言ってしまうと自分が大きな変化の中に入っていくような恐怖を感じた。しかし、その瞬に寧々の顔を思い出した。リュウジは思い切って続けた。


「俺もあなたのようなサムライになりたい……クゲを狩りたい……」

「……そうか。君ならその資格はありそうだ。ノウハウもなく、奴にダメージを与えたからね。いいでしょう。ケガが治ったらここへ来るといい」


 そういうとクロウは取り出した紙にメモを残した。


「今日倒したクゲはまだ人間の魂をほとんど捧げていない最下層の奴。位の高い奴はもっと手強い。君は命を失うかもしれないけど、後悔はしないよね」


 やがて洞窟に人の話し声がかすかに聞こえてきた。

 クロウが言っていたギルドからの救出部隊が近づいているようであった。


「クゲの話をしても信じてはくれないと思うよ。奴らに出会うのは極めて稀だからね。どこかの冒険者が全滅してもそのほとんどは、彼らの失敗のせい。だけど、その中にクゲにやられたケースが混じっている……。じゃあ、君とはここで分かれるよ。君がサムライになれれば、いつか会うことがあるかもしれない」


 クロウは手を挙げて立ち去った。


 リュウジは目を閉じた。まるで夢をみているかのような出来事であった。


 リュウジのケガは重傷であった。

 傷が癒えるまで3か月。そしてリハビリして元のように動けるまでさらに3か月。

 まだ、戦えるほどの体力は戻っていないが、リュウジは養生をしたギルドのある町を後にした。

 目指したのは北の辺境地ルクルト。そこからさらに北に行ったウルド山麓にある忘れられた神殿、ベルダンディ神殿が目的の地であった。

 2か月かけてたどり着いたその場所は、人ひとり歩いていないさびれた場所であった。

 しかし、神殿の扉を叩くと妙齢の修道女が出てきた。

 リュウジがクロウの紹介で来たと伝えると、その修道女は頷き、リュウジを神殿に案内した。

 神殿の中央の祭壇には剣をもった武神が置かれている。リュウジはそれが東方の神であると自分の記憶をたどった。

 その祭壇にうずくまるようにして祈りを捧げている男がいる。

 頭は見事に禿げ上がり、老人のようであるが体は老人とは思わせない筋骨隆々としている。


「来たか……。遅かったな」


 そう老人はリュウジに視線を送ることなく聞いた。


「動けるようになるまで時間がかかったのです……」


 リュウジはそう言って片膝を着き、そして頭を下げた。


「お前のことはクロウから聞いている。わしはベンケ。クゲを狩るサムライの棟梁……。お前に聞くが孤独は好きか?」


 リュウジに向かってそう老人は振り返った。眼光が鋭く、そして左目は異様な赤い光を放っていた。

 突然の質問にリュウジは言葉に詰まった。しかし、自然と口角が上がった。


「孤独が好きか……ですと……。人は死ぬときは一人。孤独とは必然です」

「くくく……いい答えだ。気に入った。サムライでもないのにクゲにダメージを与えるとは、お主も修羅場をくぐってきたのであろう」


「はい……。大事な女を失いました」


 リュウジは寧々のことを話した。全滅したパーティのことも。ベンケは目を閉じてずっとリュウジの話を聞いた。


「俺は奴らが憎い……。ブライトンは寧々がニョウゴになったと言っていた。もしかしたら、寧々は生きているのかもしれない。ならば、俺は彼女を救いたい」

「救う……。まあ、魂の救済はある意味救うと言うのかもしれない。だが、ニョウゴとなればその力は絶大。クギョウを殺すよりも困難が伴う」


 ベンケはそう言った。リュウジには理解できない。ニョウゴの意味もクギョウの意味も分かっていない。ただ、それがクゲよりも強大な敵の名であることは理解できた。


「お前はその女のために孤独を友とするか?」

「寧々を救えるのなら、どんな犠牲も払います」

「いいだろう。では、ここで3年。サムライになるために修行を行う」


 ベンケと名乗った老人はリュウジに向かって指を差した。

 途端にリュウジの体から力が抜けた。


(麻痺の呪文……?)


 床に崩れ落ちたリュウジを見下ろし、ベンケはこうこともなげに言った。


「お前の左目を武神アシュラに捧げる。かなりの激痛を伴うが、それもクゲを呪う力となろう」

「ううう……」


 リュウジはベンケが左手にあの赤く光る石をもっているのに気付いた。いつの間にか修道女が包帯やらお湯の入ったたらい等を運び込んでいる。


「それでは進めよう」


 ベンケは刀身がうねった短剣を取り出した。それはクリスナイフと呼ばれる儀式で使う短剣である。

 ベンケは迷いなく、それをリュウジの左目に突き立てた。


「ぐおおおおおおっ……」


 焼けるような痛みが全身を襲う。だが、リュウジは耐えた。寧々を殺した奴に復習できるのなら、ベンケはリュウジの左目をえぐり出す。

 あまりの激痛にリュウジは気を失った。

 ベンケはリュウジの左目に紅玉を埋め込む手術をしたのだ。それはクゲの死点を見る目。


「クゲは死点を破壊しなければ倒せない。もっとも位の低いものは1つ。多くは3つある。ミカドに昇殿を許されているクギョウレベルになると、それは5つ以上となる」


 目の手術を終え、痛みが取れた1か月後からベンケの修行は始まった。

 それはクゲに対する知識の伝授。クゲを倒す技、魔力の練り方等、多種に渡った。


「よいか。奴らは人間を手駒にする。奴らと対峙する時は絶対に仲間を連れてはダメだ。必ず一人で戦うこと。同じサムライならば共闘はできるが、それでも確実ではない」

「サムライでもですか?」

「そうだ。訓練されたサムライとて、いつ狡猾な奴らに心を侵食されるか分からない。クゲ退治は必ず一人で行うことだ。だが、人は一人では生きていけないもの。必ず、関わりは生まれる。それを捨て去らねば、奴らは倒せぬ」

「……孤独が武器ということでしょうか?」

「くくく……。まあ、戦場以外は孤独でなくてもよいがのう。サムライの中には妻を娶り子もいる者もいる。だが、クゲに付け込まれた時、それらを滅する気持ちがなければ滅びるのは己ぞ」


 ベンケの厳しい修行は3年続いた。

 リュウジは耐えた。寧々を救えると思えば、どんな苦行にも耐えることができた。

 3年を終えた時、ベンケはリュウジの持っている短剣に字を刻んだ。

 それは魔力を増幅させる神聖文字。


「お前の2つの短剣は形見なのであろう。こういうものは得てしてクゲを倒す武器となる。奴らを倒すためには、奴らの防御壁を破り、そして死点を突き刺して破壊せねばならない。

 防御壁を破るには負の魔力。死点を破壊するには正の魔力が必要。お前は片方の短剣に負の魔力を込め、もう一つには正の魔力を帯びさせ、クゲを狩る。リュウジよ、旅立つがよい。そしてクゲどもを滅ぼせ」


 そう言ってベンケはリュウジを送り出した。

 リュウジはギルドに戻るとクエスト調査官になる道を選んだ。

 クエスト調査官は全滅した冒険者を調査する仕事である。全滅した冒険者はクゲと遭遇した可能性がある。クエスト調査官はクゲと遭遇するためには便利な仕事であったのだ。

 リュウジはクエスト調査官になる訓練を受け、100人に一人しか合格しない過酷な試験を突破した。

 クエスト調査官になって、10体のクゲと遭遇。それらを葬った。


(全部従5位以下の位階の低い奴らだった……)


 滅多に位階の高いクゲとは遭遇しないとはいえ、リュウジは幸運であったかもしれない。

 十分な経験を積む前に、高位のクゲと遭遇し命を落とすサムライも少なくはなかったからだ。


(そして俺は出会った……)


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