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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第6話 梟の巣団全滅事件 後編
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寧音の力 リュウジの力

魔法攻撃の80%を無効化。加えて物理攻撃100%の常時展開バリア。触るだけで生物の生体エネルギーを吸い取ることができる。どうだ、この素晴らしい体を……。寿命は無限。永遠の命をもつ究極の生物……それが俺だ」


「……ブライトン、貴様、悪魔に魂を売ったか!」


 不気味なくらい真っ白な肌。顔は白い布が多い、それには地文字のような気持ち悪い赤で模様が描かれている。

 そして最初は真っ白な衣袍であったが徐々に浅緑に変わっていく。


「悪魔に魂だと……。無礼なことを言うな。主上は神ぞ。そして俺が仕えるお方はテンジョウビト」

「ただの邪悪なデーモンだろうが!」


 リュウジは背中に背負ったロングボウで射た。矢じりは銀製。そして聖水で清められた対デーモン、ゴースト仕様の武器だ。


「無駄だ」


 矢はもろくも弾かれた。ブライトンの肌を囲むように見えない障壁が覆っているかのようだ。


「俺は位を賜った。100人の人間の魂を捧げ、その功により、従7位近衛将曹なり。人など俺に傷一つ付けることはかなわぬ」

「そうかな!」


 リュウジは腰に付けられたカバンから、スクロールを取り出した。各地を放浪中に買い求めた魔法具である。


「マジックミサイル百連」


 光の矢がブライトンめがけて飛ぶ。魔法無効化80%であるから、100本の光の矢のうち、20本近くが浅緑の袍衣を貫いた。


「ぐおおおおおっ……」

「人間に傷つけられないのではなかったか!」

「き、貴様~。殺す。手足をもいで芋虫にしてやる、その後じっくり刻んで痛みを味合わせ、魂を喰らってやる」


 布で顔が見えないがブライトンの声はもはや人の声ではなかった。


「やれるものなら、やってみろ。仲間の仇、寧音の仇を取る」


 リュウジは剣を抜いた。デーモンに効果がある魔法剣である。『ハースニール』と名付けられたそれは、魔神族に効果があるとされる。邪悪な障壁を消し去り、そしてその体を削り取る。


「死ね、クロススラッシュ!」


 右肩からの袈裟切り、そして回転させてからの左肩からの袈裟切り。Vの字型に斬られて消滅させる技。


 しかし、最初の右肩で弾かれた。


「うっ!」

「無駄だ~っ。俺には物理攻撃無効化がある。それにそれはデーモンスレーヤーだろ。魔神でない俺に効果があるはずがないだろう」


 ブライトンが右手の平を突き出した。空気の圧力がリュウジの腹にあたる。それは10mも飛び、リュウジをそこまで飛ばした。


「ぐっ……」


 10m飛ばされ、地面に叩きつけられ、さらに20mも転がるリュウジ。頭への衝撃で気を失いそうになる。


 それでもフラフラと立ち上がろうとする。口から血を吐く。


「まだまだ……」


 30m先にいたブライトンが瞬時のうちにリュウジの前に現れる。


「くそ!」


 リュウジは渾身の力を込めて脳天めがけて剣を振る。

 が……。ブライトンの頭にあたる寸前で阻まれる。


「ぐぐぐぐ……」


 それでもリュウジは力を込める。徐々に頭へと近づく剣。


「無駄だだああ~」


 ピキ……。剣にヒビがわずかに入る音がする。

 そしてヒビは複雑化し、折れて地面へと落ちる。


「ば、ばかな……。魔法で強化した魔法剣が折れるなんて……」


 リュウジは目の前で起きたことが、信じられない。


「これが力だ。人間では手に入らない、クゲの力だ」


 またブライトンは右手を突き出す。左肩骨が折れてリュウジは壁に叩きつけられた。


「次は右肩だ。徐々に痛めつけてやろう」

「くっ……」


 激痛に顔がゆがむリュウジ。しかし、闘志の火は消えていなかった。腰のカバンに右手を伸ばす。

近づいてくるブライトンめがけて、右手で握ったもの。それは寧音の形見の短剣。

ソードブレイカーと呼ばれる相手の剣を交わす武器だ。


「なんだ、それは。俺は剣など持ってないぞ。ソードブレイカーなど役に立たぬ……。ハハハ……。それはあのネコマタ女の武器ではないか。泣かせるなあ……。亡き恋人の武器で敵討ちか……。人間とは感情に支配される下等生物。無意味なことをしながら死ぬがいい」


 余裕を見せるブライトン。しかし、その余裕は1秒後に失われる。


「ソードブレイカーのディープスキル解放!」

「な、なんだ!」


 リュウジがそう叫んだと同時にソードブレイカーが青白く光った。


「障壁無効化だ」

「障壁無効化だと……。俺の障壁は魔法によるものではない。破壊など不可能」


 ブライトンはそう言ったが、その言葉とは逆にソードブレイカーはブライトンの衣袍を破る。


「貴様たちの障壁は何だろうが、寧音のソードブレイカーの潜在能力には関係ない。これは遮る力の負の力を加える。どんな力も同等の負の力を加えれば、それは0となる」


「ば、馬鹿な!」

「そしてこれはもう一つの寧音の形見。バゼラード……秘められた力を解放」


 リュウジは右手でソードブレイカーからバゼラードへと持ち替えた。


「この短剣の力は敵の急所を的確にとらえる。どこが急所だろうが、剣がそこを自動的に突く」


 リュウジが突き刺した場所から赤い光が八方に飛び出した。


「死点を突くとは……ぐほっ……」


 ピキピキとブライトンの体にひびが入る。視点を破壊されたクゲは消滅するのだ。


「どうだ、ブライトン」

「……に、人間ごときが……この俺を……」

(寧音……やったぞ。お前の仇を取った……。障壁破壊も急所破壊もお前のおかげ……。10年以上ため込んだお前の魔力のおかげ……)


「ぐふっ……」


 体が半ば崩壊した状態でブライトンは地面に膝をつく。だが、リュウジはとどめの攻撃ができない。


 ソードブレイカーとバゼラードの特殊能力解放は、1度しか使えないのだ。それには膨大な魔力が必要なのだ。

 寧音がずっとため込んだ魔力によって解放されたのだ。


「くくく……なんだ、その攻撃は打ち止めか……残念だな……。俺の急所を破壊したようだが、死点は1つだけではない」


 ブライトンは立ち上がった。相当なダメージであるが、倒すには至っていない。同じ攻撃をすることができれば、リュウジの勝ちは疑いなかった。しかし、寧音が残した魔法剣の効果は1度のみ。

 物理攻撃を受け付けないクゲと化したブライトンを殺すことができない。


「物理攻撃ができないことは計算していたさ。だから、俺はこれを大量に買ったのだ」


 リュウジは腰のカバンからスクロールを取り出した。それは全部で10。全てマジックミサイルのスクロールである。1枚で100本の光の矢を放つ。


「散れ、1000本の光の矢に撃ち抜かれろ!」


ブライトンの周りに光の矢が現れる。それは一斉にブライトンの体を貫いた。全方向から雨のように降り注ぐ光の矢。ブライトンの回復した障壁が阻むが、20%は体に刺さる。

 障壁を破り、ブライトンの体を貫いた光の矢は200あまり。ハリネズミのように突き刺せば、死点とやらも破壊できる。


「ぐはあああああっ……ばかな……位階をもつクゲがただの人間に……」


 体が徐々に粉々になっていく。

 ブライトンは悲痛な叫び声を上げながら、消える体を見るしかなかった。


「うそだああああっ……」


 リュウジは勝利を確信した。寧音や梟の巣団のみんなの仇を討ったと思った。


「ああああああ~……ま、間に合った~」


 ブライトンの声の質が変わった。それは絶望から救われた安堵の声。崩れかけた体から光があふれ出る。

 リュウジは思わず右腕で目を隠した。すさまじい光は目を傷める。


「ふふふ……皮肉なものだ。あのネコマタの女の武器で滅びるはずであったのが、その女のおかげで命拾いをした」


 リュウジが腕を退けた時、そこには傷一つなく、空中浮かんでいるブライトンの姿があった。浅緑色の衣袍が緑色に変わっている。


「あのネコマタの女がお上の女御になった。そのおかげで俺は4階級特進。従5位下。少納言に任じられた。もはや、人には俺を殺すことはできない」

「ね、寧音が女御だと……死んでいないのか?」

「死んでいない。その魂は主上の慰み者となり、今は位を与えられた。高貴なるクゲの姫となられた。喜ぶがいい」


 ブライトンはそう言うとリュウジを指さした。


「雷獣の怒り」

「ぐあああああああああっ……」


 電撃がリュウジの体を貫く。全身黒コゲになり即死する魔法である。

 しかし、辛うじて即死は免れた。

 リュウジは念のため、魔法防御のポーションを体全体に降りかけておいたのだ。効果は全ダメージの3分の1軽減。

 それでも重症である。地面に倒れるリュウジ。指一本も動かせない。


(俺はここで死ぬのか……ごめん……寧音……俺はここまでだ……)


 とどめを刺そうとゆっくりと空中を浮遊して向かって来るブライトン。クゲとかいう人間にならざるものになった男。


 勝利の笑みを浮かべ、リュウジに近づいてくる。


「な、なんだ……貴様は!」


 急に声のトーンが変わる。


「ただの人間にやられかけるようじゃ、私には勝てないよ。新米のクゲ君」


 薄れゆく意識の中でリュウジは、やってきた人物が苦も無くブライトンに引導を渡し、その存在を粉々にしたのを見た。


(誰かが……助けに来たのか?)


 リュウジはそのまま意識を失った。


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