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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第6話 梟の巣団全滅事件 後編
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団長の裏切り

「これはどういうことだ?」

 ローランドの迷宮の隠し部屋に突入した梟の巣のメンバーは、そこにたたずむ白い影に立ちすくんだ。

 見た目は恐ろしくない。ゴーストの類なのであろうが、人間型のやせた男の形をしたもの。格好は変わっていて、後に衣袍いほうと呼ばれた黒色の着物を着ている。顔は異様なほど白く表情はない。赤い唇が異様である。


「我は正三位中納言である」


 そう甲高い声でそのものは語った。


「ゴーストかデーモンだな」


 ラノンはそう言って神官のリリーゼを見る。リリーゼは頷いた。そういった生物でないものを攻撃できるようにする魔法をパーティメンバーの武器に付与するのだ。


「魔法攻撃の効果はどうかな!」


 クルーベは電撃の魔法の詠唱にかかる。魔法を無効化する魔物もいるが、電撃魔法を無力化するものは少ない。


「リュウジ……団長がいないにゃ」


 目の前にいる不気味なモンスターを見ながら、寧音はそう小声でリュウジに言った。リュウジも気づいていた。この危機的な状況で団長のブライトンが姿を消しているのだ。


(この隠し部屋に入った時には確かにいた……どうやって消えた?)


 だが、今はそんなことを考える暇はない。目の前の得体のしれないモンスターは、一歩間違えれば自分たちを破滅させるのに十分な不気味な威圧感を与えているからだ。

 リュウジも寧音も最初から全力で行くと決めた。それは戦士ラノンも大魔法使いクルーベも神官リリーゼも同じであった。

 薬師のテルーは少し下がって回復役に勤める。今までどんな敵にもこのメンバーで勝ってきた。今回も間違いないと誰もが信じたかった。


 だが……。


 最初のクルーベが放った電撃魔法は効いたかに見えた。すぐさま、ラノンとリュウジの剣による攻撃。これは見えない壁に阻まれた。しかし、それに動じる2人ではない。すぐさま、寧音とスイッチ。寧々の爪攻撃が得体の知れないモンスターの体を引き裂く。

 しかし、白いモンスターは動じない。血も出ないし、たじろぎもしない。確かに体は切り裂かれたように見える。


「おりゃあああああっ!」

「くおおおおおっ!」


 ラノンの大剣が横一直線に胴体をとらえる。それは胴体の半分以上に食い込み、あと少しで切断するまでの大ダメージ。さらにリュウジの袈裟斬りは左肩から胸まで一直線した。

 どちらも致命傷の一撃である。


「浅かったか!」

「いや、会心の一撃だぜ!」


 すぐさま、剣を抜いて後方へ下がるラノンとリュウジ。白い人型の化け物は、2か所同時攻撃の前に、胴体がちぎれそうになっている。

 しかし、反応がない。能面のような凍りついた表情。異様に赤い唇がかすかに上がったのみ。


(おかしい……手ごたえでいけば完全に切断したはず)


 リュウジもラノンもそう心の中に違和感を覚えた。だが、さらにクルーベの2撃目の雷撃魔法が炸裂する。


「勝ったな」

「見掛け倒しだったようだ……」


 ラノンとリュウジがそう口にしたとき、化け物のターンが始まった。


「ひれ伏せ、下賤のものよ」


 そう甲高い声がした。クルーベの高レベル魔法が弾かれた。そして、ちぎれんばかりであった胴体がみるみる治っていく。


「馬鹿な……超回復だと!」


 ありえない回復力に雷撃を放ったクルーベは驚愕した。しかし、その瞬間、意識が途切れた。


「クルーベ卿、どうした!」


 リュウジが異変を感じてそう叫んだ。白目をむいたクルーベは立ったまま、意識を失ったようである。


「リュウジ、ラノンの様子もおかしいにゃ!」


 寧音がそう叫んだ。ラノンもいつの間にか同じようにふらふらと立ち尽くしている。


「我の下僕よ、排除せよ」


 甲高い声がそう命じた。

 クルーベとラノンの意識が戻った。

 クルーベは立って続けに攻撃魔法を使った。その対象は後方で回復支援をしていた薬師のテルー。ラノンは神官リリーゼに襲い掛かった。


「馬鹿な!」

「なぜにゃ!」


 不意を突かれた2人は絶命する。

 さらに襲い掛かってくるクルーベとラノン。寧音とリュウジは戦うしかなかった。

 パーティの中でも力の差はない2人との戦いは激闘を極めた。

 片膝をついてリュウジは荒い呼吸をした。その右前方ではクルーベの心臓を貫いた寧音が血みどろで立っている。

 敵に支配され、リュウジと寧音を殺そうとした2人を殺すしかなかった。しかし、それは一時しのぎにしかならなかった。

 なぜなら、操っていた張本人である白い人型の化け物は、その様子を笑みを浮かべてみていただけだったのだ。

 

 本当の敵はこの白い化け物。

 しかし、これを倒すのは不可能であった。剣による直接攻撃は効果なし。 

 魔法もかなりの確率で無効化する。逃げ出すにもこの隠し部屋の扉は消えている。

 恐らく、この部屋の主である目の前の白い化け物を倒さない限り、ここから逃げることはできないのであろう。


「活きのいい贄である。気に入った。4人の魂は既に我が食ったが、お前たち2人は我の奴隷としてやろうぞ。お前たちを手引きした男のように……」

「なんだと……」

 

 リュウジは絶句した。この部屋にいない梟の巣団の団長ブライトン。彼がいない理由が分かる。この圧倒的な魔物に自分たちを差し出したということだ。


「お前は何なんにゃ!」


 猫の爪で攻撃態勢を取りつつ、寧音がそう詰問した。白い化け物は表情を変えない。それは一層不気味に思えた。


「下賤の者の殿上人に対する無礼な言葉、通常なら手打ちといたすところだが、我は上等な魂を食して気分がよい。いいだろう。答えてやる……我はクゲである」

「クゲ?」


 初めて聞く名前である。そんなモンスターの名前は初耳である。


「クゲの中でも位が高い、より高貴な身分。主上にまみえる資格があるクギョウである。ひれ伏すがよい。そして我を崇めよ」


 リュウジと寧音はクギョウが言い終わると同時に示したように襲い掛かった。一撃必殺の攻撃である。

 リュウジは剣を十文字に切り裂き、寧音の長い爪はクギョウの腹を突き破った。


「やったか!」

「やったにゃ!」


 手ごたえあり。2人がそう思った時、無表情だったクギョウは右手に持った扇子を開き、少しだけ浮かべた笑みを隠した。


「くくく……効かぬ。お前たちの力では我に傷一つ付けられぬ」


 その言葉と同時にリュウジと寧音は吹き飛ばされ、壁に激突した。骨が何本か折れる音がしたが、ショックで痛みが来ない。リュウジは死を覚悟した。

 恐らく寧々も同じ状況であろう。一瞬で戦闘力を奪われた。立つことすらできない。


「男よ、お前は望み通り殺してやろう。女の方はネコマタ族だな。めずらしい。女は我がもらい、主上の慰み者として献上しようぞ」


 そうクギョウは言った。リュウジは手を伸ばした。隣で倒れている寧音の体を触る。


「リ、リュウジ……」


 寧音が苦痛に顔をゆがめながら顔をリュウジの方へ向けた。そして首から猫の形をした木の彫り物のネックレスを外した。


「あいつの言う通りなら、うちの命は助かるにゃ……だから、これを使って逃げるにゃ」

「それは……」

「この首飾りにはテレポートの魔法が込められているにゃ。この閉ざされた部屋からも脱出できるにゃ……」

「だったら、お前が使え」


 寧音は笑みを浮かべた。


「それだとリュウジが殺されるにゃ……」


 寧音は片手で首飾りを握り、それをリュウジの動かない左手に絡ませた。


「やめろ……俺はここでお前と一緒に……」

「リュウジ、無事逃げたらうちを探し出して……そして助け出して欲しいにゃ」


 左手が光った。


「やめろ、寧音!」

「約束だにゃ……リュウジが助けてくれるのを待っているにゃ……」


 リュウジは叫んだ。寧音の名を。

 体が光に包まれ、やがて消えて行く。

 テレポートの魔法の解放である。


 気がつくとリュウジは森の中に倒れていた。

 どうやら、あの部屋から脱出できたらしい。

 意識はあるが体が動かない。

 しかし、悲しみの涙はとめどなくあふれてきた。


 (寧音……)


 「うああああああああっ……」

 

 リュウジは泣いた。

 重傷で動けなかったリュウジは、冒険者ギルドから派遣されてきた救出部隊に発見され、一命は取りとめた。

 パーティの全滅の理由を聞かれたが、詳しく話す気にはなれなかった。到底信じてもらえないし、信じてもらったところで人間にどうこうすることができるとは思えなかったのだ。


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