アリバイの行方
「これをやったのはローデッドのリーダー、ジェーソン……あなただ」
リュウジはそう言ってジェーソンを指さした。みんなの視線が注がれる。驚いたのはローデッドのメンバー。みんな信じられないという表情だ。
「あ、あの……クエスト調査官様……リーダーが犯人と言いましたが、リーダーは我々と行動を共にしていました。それは我々メンバーが証言します。20km離れた、しかも砂漠の中。とても犯行現場を往復するなんてことは……」
そうローデッドのメンバーの一人が話した。他のメンバーも頷く。犯人と決めつけられたジェーソンは、リュウジに向かって抗議する。
「そうだ、俺はみんなと行動していたのだ。アリバイがある。これはどう説明するのだ!」
「一緒にいたと言っても、夜中、一緒にいたわけではあるまい。夜中はどのような行動をしていたのだ?」
リュウジはそうメンバーに尋ねた。それでメンバーの一人がハッと何かに気が付いたような表情をした。
「夜中の12時までは交代で見張り番。12時からリーダーが行いました。他のメンバーは寝ていました」
「交代したのは?」
「朝の4時頃でした。3時間交代するはずでしたが、リーダーが起こしに来たのが5時だったので、夜中はリーダーが見張り番を……」
「つまり、12時から朝の4時までアリバイは誰も証明できないと……」
リュウジの言葉にアオイが疑問を投げかけた。
「リュウジさん、確かにその4時間は空白ですが、20km先の犯行現場に移動して帰るのは難しいのではないですか?」
往復で40kmである。人間は歩いて時速4kmと言われる。夜とはいえ、砂漠地帯はかなり歩きにくい。時速は3km維持できるかどうか。どう考えても4時間で行って帰ってこれる距離ではない。
「これだよ……」
リュウジはその謎を解いていた。合図をするとギルド職員が運んできたのは大きな布。それはふわりとした生地でかなりの大きさだ。周りを紐で縛られ、それが一つにまとめられている。まるでパラシュートのような形状である。
「砂漠を疾走する風のヨット……これで移動したんだよ。この男は」
夜中の12時。南西にある岩場地帯に向かって風が吹いていた。それをこのパラシュートで風を受ける。すさまじい力で体は引きずられる。
その時速は40kmに達した。あお向けで寝転がり、パラシュートを操ったジェーソンは、岩場地帯へと移動する。到着したのは夜中の2時。
そしてそこで斥候のメンバーに出会った。寝ていたその男を殺す。死体は砂漠に放っておけば、大砂蟲が食べてしまう。証拠は残らない。
爆発の魔法を封じられた魔法玉を起動。岩場の水は下流へと流され、ヘイゾウたちは命を落とす。
「この地帯の風は朝方には逆方向へ変わるのだ。3時過ぎに風が変わってからキャンプ地へ戻る。あとは寝ているメンバーを起こして見張り番を代わってもらったと言うわけだ」
リュウジは魔法玉の購入先も調べてあった。確かにジェーソンは町でそれを仕入れていた。そしてそれはギルドの、持ち物リストには報告されていない。パラシュートの布もだ。きれいに折りたためば、仲間にもばれない。帰りは砂に埋めてしまえば証拠も残らない。
「誤算は殺した斥候の男のタグが落ちたのに気付かなかったこと。夜中の暗さじゃ、落ちても気が付かないのは仕方がない」
リュウジの指摘に声も出せず、青ざめた顔で黙ったジェーソン。そして諦めたように口を開いた。
「俺にヘイゾウたちを殺す動機があるわけない……と突っぱねても、クエスト調査官はすでに調査済みなんだろなあ……はははっ……」
力なく笑ったジェーソンはヘイゾウたち……正確にはヘイゾウを殺した動機を話し始めた。
ジェーソンは過去にヘイゾウとパーティを組んでいた。その時に一緒にパーティを組んでいたアディという女性がいた。
ジェーソンはその女性が好きだった。しかし、アディはヘイゾウが好きだったのだ。ヘイゾウとジェーソンが別れ、別々のパーティを組んだ時、アディはヘイゾウに付いて行った。
思いを告げられなかったジェーソンであったが、ヘイゾウのパーティとは同じ任務を共同でこなしたり、酒場で親交を深めたりすることが多くあったために、アディを密かに想っていた。
ヘイゾウはアディの想いに気づいていなく、また、気づいてもアディとは付き合わないとジェーソンは思っていた。なぜなら、ヘイゾウにはかつて妻がおり、その妻は病死していた。妻を深く愛していたヘイゾウは、他の女性には目もくれない態度だったからだ。
「ずっと待っていれば、アディは振り向いてくれると思っていた。それまで俺は待つつもりだった……それを奴は……ヘイゾウは彼女を見殺しにしたのだ!」
ジェーソンはそう怒鳴った。ヘイゾウのパーティはあるクエストで、大変な危機に陥った。
それはパーティが全滅する可能性があったほどの危機。だが、ヘイゾウはその危機を乗り越えた。アディの尊い犠牲のおかげであった。
「冒険者ギルドへの報告では、ダンジョン最深部からの帰り道、上級のデーモンと遭遇。リーダーのヘイゾウは戦わず、最初から逃亡を選択。おかげでパーティのほとんどは脱出できたが、ウィザードのアディは逃げ切れず犠牲となった」
「そうだ、ヘイゾウはアディにレスキューの魔法を使わせたのだ。その魔法はパティ全体を脱出させるが、術者はその場に残る。奴はアディを犠牲にしたのだ」
そうジェーソンは叫んだ。愛するものを殺された悲しみと殺した相手への憎しみが入り混じっている。
「ジェーソンさん、それは違います」
そう否定したのはアオイ。彼女はリュウジに言われて、この事件を再調査していたのだ。
「これを見てください」
アオイが取り出したのは1冊の日記。それはアディの日記であった。
ジェーソンはそれを手に取り、付箋が貼ってあるページに目をやった。
「う、うそだ……」
ジェーソンは呆然とそう呟いた。
そこにはアディの筆跡で、冒険が終わったらヘイゾウと結婚することが書かれてあった。やっと自分の思いが通じたうれしさに満ち溢れていた。
「そしてこれは婚姻届け。この日記にはさまっていました。本当に冒険後にそれを役場に提出する予定だったのでしょう。ヘイゾウさんとアディさんのサインが書かれてあります」
「奴はアディとの結婚を承諾したくせに、彼女を残して逃げたのか!」
「いえ、違います。ヘイゾウさんはアディさんと残ったのです。彼ら2人以外のメンバーは傷つき戦える状態ではなかったのです。だから、退却させた」
アオイはそう述べると、それを裏付ける他メンバーの証言を書いた書類を見せた。
「嘘だ……じゃあ、奴は上級デーモンと戦ったのか……」
「そうだ。2人で戦い見事に撃退した。だが、アディは力尽きて死亡。ヘイゾウは瀕死の状態で救出部隊に助けられた」
「嘘だ……そんなことは聞いてないぞ……奴が見殺しにしたんだ」
「恐らく、冒険者ギルドが隠蔽したのだろう。上級デーモンが現れるという情報はなかったからな。ギルドの情報収集ミスになる」
アオイはリュウジの言葉に視線を落とした。この事件は5年前のことだ。アオイはまだギルドに入ったばかりで、雑用をしていたからこの事件のことはほとんど知らない。
アオイが知る由もなかったが、同じギルド職員として、いたたまれない気持ちになったのだ。
「この事件後、ヘイゾウはより慎重にクエストに臨むようになった。彼のパーティの死傷率は0%だ。安全マージンを十分に取り、危険を回避することに神経を使うようになった。彼自身もアディを失って悲しみ、それ以後、人が変わったようになったのは誰もが知っていることだ」
リュウジはそう言い、ギルドの職員に目で合図した。
放心状態のジェーソンをギルド職員が拘束し、連れて行く。行先は裁判所。同じ冒険者を殺した罪で裁かれるのだ。
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今回投稿分で毎日投稿は終わります。今後は続きが書け次第、不定期に投稿していきます。




