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水を得る方法

 翌朝になった。

 中から入り口の岩を取り除き、リュウジは大岩の隙間から這い出た。日が昇り始めた頃で、まだ気温は上がっていない。


「おっ……」


 カサカサという音をリュウジは逃さない。岩の上にサソリを見つけたのだ。猛毒をもつ種類だ。

 それを短剣の先で抑え込んだ。もう一つの短剣を抜くと尻尾を切り落とす。サソリはこの尻尾の先に毒針があるのだ。


「毒針を落とせば、この手のサソリは食料になる」


 口を開けてバリバリと噛む。


「リュウジ、うまいにゃ?」

「……最悪だ」


 そう言いながらもリュウジは飲み込んだ。砂漠地帯ではカロリーの消費も大きい。少しでも食べてエネルギー補給をしないといけない。


「今日は岩場地帯から離れて、砂地帯へ移動しよう」

「大丈夫にゃ、ここから遠くないにゃ?」

「大丈夫だ。俺の予想なら、この場所から砂地帯は近いはずだ」


 リュウジが今いる場所は、雨で水が蓄えられた砂漠の岩場。ここに大量に水が溜まっていた。その自然のため池が壊れ、その水が下流に流されて鉄砲水になったのだ。


 パーティが全滅した場所はここから1キロ下流である。そしてリュウジの仮説なら、砂地帯はここからならすぐのはずだ。


「その前に水の確保だな」


 リュウジは水が溜まっていた場所を見渡す。ここ数日でカラカラに乾いており、どこにも水はない。


「こういう岩陰の土を掘ると水がある場合がある」


 そういうと岩陰の土を掘り始めた。最初は乾いた砂しか出てこなかったが、その砂色がだんだんと茶色に変わっていく。


「リュウジ、水はさすがにないにゃ」

「……無理か。だが、この湿った土なら水分が補給できる」


 そういうとリュウジは湿った土を靴下に入れ始めた。


「どうするにゃ?」


 寧音がそう尋ねる。そんな湿った土を靴下に詰めてどうするのだろう。靴下は土でパンパンに膨らんでいる。


「こうして水分を絞り出す」


 リュウジは膨らんだ靴下をギュッと絞った。じわじわと土の中の水分が表面へと伝わる。そこへ口を付けてリュウジは吸った。


「50mlとまではいかないが、これで水分が取れる」


 土に含まれた水は濾過されている。砂は靴下の布で取り除かれるから、これで安全な水が飲めるというわけだ。だが、十分ではない。


「急いで移動しよう。また、水がある場所が見つかるかもしれない」


 リュウジは移動を開始した。


 1時間も歩かないうちにリュウジは岩場から砂地が広がる場所へと出た。見渡す限り、砂で覆われた砂漠である。

 そしてその場所で見つけたものがある。小さな銀色のプレートで鎖につながっているアクセサリー。冒険者の鑑識票と呼ばれるものである。

 冒険者が死んでしまった時に遺体が誰なのかを知る時に使うものだ。冒険者ギルドで登録すると発行されるのだ。


「認識番号2098563……誰のものかは予想がつくが、ギルドに帰ってから確認するとしよう。そしてもう一つ、気になるのがこの岩に巻き付けていたとロープの切れ端……」


 捜索隊が見逃したのも無理もない。そのロープは岩の陰に捨てられていたのだ。ロープはまだ風化しておらず新しい。そしてロープの切り口はナイフで切ったように思われた。


「リュウジ、風が強いにゃ」

「砂漠だからな。これが強風になると砂嵐になる。砂嵐に遭遇したら、生き残る確率は大幅に下がる」


 リュウジは少し思案する。今の時間は風は岩場方向から砂漠の方。東方向へ向かって吹いている。昨晩はその逆であった。


(風の方向……これも確認する必要があるな)

「大体、分かった。本部に帰るとするか……その前に水を探さないと死ぬがな」


 昨日、岩場の濡れた砂から水を吸いだしただけで、ずっと水を飲んでいない。このままでは帰る前に死んでしまう。

 岩場地帯を帰るにしても、1日かかってしまうのだ。


「このままじゃ、水を探し回っているうちに干上がってしまうにゃ……」

「ああ、でもそうでもないぞ」


 リュウジは岩場に猿が顔を出しているのを見つけた。好奇心旺盛な子ザルのようだ。この岩場地帯の生息するロックバブーンの子供のようだ。

 リュウジはおもむろに地面を掘る。入り口は猿の腕がやっと入る細いトンネル。そして50cmほどで広い空間を作る。そして猿に見える様にその中へ、先ほど拾った銀のプレートを入れた。

 太陽に照らされてキラキラ光るペンダントを子ザルはじっと見ている。それを確認するとリュウジはその場所を離れた。20mほど離れた場所の岩陰に身を潜める。


「リュウジ、何をするにゃ。あの猿をどうするにゃ」

「あいつを捕まえる」

「捕まえるって、どうやってにゃ。さっきの穴は罠かにゃ?」


「ロックバブーンの子供は好奇心が旺盛だ。人間の持ち物を盗むことがあるので、この辺を歩く冒険者は警戒するのだ」

「意味が分からないにゃ。今、リュウジに必要なのは水じゃないのかにゃ」

「その水に在りかをあの子ザルに吐かせるのさ」


 そう言うとリュウジは子ザルの方を見る。はじめは警戒していた子ザルも、リュウジがいなくなって安心したのか、先ほど掘った穴にそろそろと近づいてきた。そして何も起きないことを確かめるとそっと穴に手を差し込む。

 最初は少しだけ手を入れて、すぐに出した。それを2,3回繰り返したが、奥まで手を差し込み、その指先に鑑識票のペンダントを握ると素早く引き出そうとした。

 が……腕が抜けない。握るとトンネルの幅がせまくて拳が抜けなくなるのだ。子ザルはパニックになる。


「ギャーギャー」


 叫ぶ子ザル。すぐにリュウジはダッシュして近づく。難なく子ザルを捕まえた。そしてその子ザルをシャツを破いた紐で縛り付け、炎天下に2時間ほど晒した。


「リュウジ、このままじゃ、あの子ザルは干からびてしまうにゃ」

「それを待ってたんだよ」


 岩陰で体を休めていたリュウジは、2時間も砂漠の太陽にあぶられた子ザルを放す。子ザルはすぐに走って岩場へと向かう。その後を追うリュウジ。子ザルは弱っているので、いつものスピードはでない。

 よってリュウジは見失うことはなかった。そして炎天下に晒された子ザルは、自分たちが知っている水場へとリュウジを案内したのであった。

 そこは雨水が貯まった場所。岩に囲まれたくぼ地。岩から5mほど下に泥のような色の水が10mほどの直径のプールとなっていた。


「ひゃっほう!」


 リュウジは石を投げて深さを確認する。深さは十分だ。


 岩場から飛び込む。太陽に照らされて上がった体温を一気に沈める。だが、体は冷やすがこの水を飲むことはしなかった。

 十分に水浴びをすると、やがて岸へと上がった。


「リュウジ、この水は飲まないのかにゃ」

「猿が飲んだから、毒ではない。変な臭いもないので腐ってはいないが、これはろ過しないと飲めない。本当は沸かして飲みたいところだが、生憎、水を沸かす器がない」

「一か八か飲むにゃ?」

「いや、もし病気になれば激しい嘔吐と下痢になる。たちまち脱水症状で死ぬな」

「こんなに水があるのに悲しいにゃ」

「方法はある」


 そういうとリュウジは岸の砂を掘り始めた。水が染み出てくる。泥が混じった濁った水だが、やがて泥がしずむと上の方は透明度が高くなってきた。


「これをさらにこれで浄化する」


 リュウジが取り出したのは靴下。あの炭を入れた方の靴下だ。この中に砂と枯れ草を詰めて、それでこの上の水を汲み取る。そして炭を通した水を口にする。


「ああ……生き返る」


 リュウジはこの方法で十分に水分補給をした。そして帰路へとついたのであった。


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