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約束

「リュウジさん、装備はそれだけでよいのですか?」

 

 アオイはまたもやリュウジの軽装ぶりに驚いた。武器は例の短剣のみ。食料はナッツ類とビスケットを少々。あとは岩塩とタオル。火を付けるファイアースターター。そして水。

 水は1リットルのボトルを2つ。金属製のマグカップをもっている。


「水が重いのでものはあまり持っていけない。水も3日の調査期間ではまったく足りない」

「足りない場合はどうするのですか?」

「現地で調達する。砂漠と言っても全く水がないわけでない」


 鉄砲水で冒険者が全滅した事件だ。全滅した冒険者たちが使った岩場ルートなら、リュウジが言うように水を入手できそうだ。


「調査期間は3日。全滅した場所までは1日で到着できる。そこから1日調査。帰りが1日だな」

「分かりました。3日後にリュウジさんを回収できるよう手配します」

「頼む」

 

 砂漠地帯へは、ワミカのゲートを使って近くの町ウルルカへ。ここから馬車で移動するが、行けるのは砂漠地帯の入り口までだ。

 アースガルド王国の国土は広い。大半は緑が豊富な森林と平野であるが南には広大な乾燥地帯。砂漠もここにある。

 北は山岳地帯で冷涼な地域もある。ゲートで自分の住んでいる地域とは違う地域に容易に行けるこの世界では、あらゆる環境に慣れる能力が必要なのだ。


「あ、あの……リュウジさん。必ず帰ってきてくださいね」

「ああ。今回は奴らは絡んでいない。生きて帰れるさ」


 アオイはリュウジの過去の話を少しだけ聞いている。リュウジが不意に口にする『奴ら』という言葉が、人間が対抗できない強大な敵であることは何となくわかった。

 その『奴ら』に自分の恋人が殺され、仲間も殺されたらしいこと。それが原因でクエスト調査官になり、仇を取ろうとしているらしいことをだ。

 あれからリュウジと二人っきりで過ごしたことはないが、最近、アオイに対するリュウジの態度が変わってきたように感じていた。


「帰ってきたら、飲み会をしましょう。また、あの話の続きを聞かせてください」


 アオイはそうリュウジにそう聞いた。少し前にリュウジの部屋で聞いた話をもっと詳しく聞きたいとずっと思っていたのだ。


「……聞いてどうする?」

「冒険者ギルド統括官として、冒険者を全滅させるものの存在を知っておくのは重要なことです」


 全然、心にないことを口にしてしまい、アオイは赤面した。リュウジはそれが分かってにやりとしているから、余計に恥ずかしい。


「統括官殿は仕事に熱心だな。だが、それを知ってどうする?」

「そ、それは……」

「それに俺は調査後の一人酒が好きなんだ」

「それは十分わかっています。だから、その後に……」

「やれやれ……」


 リュウジは両手を挙げた。そしてグイっとアオイに顔を近づけた。アオイはその圧に押されて後ろへ下がる。後ろは壁。リュウジは左手で壁を突いた。

 アオイは追い詰められて上目遣いでリュウジを見る。


「お前、もう一度俺に抱かれたら、忘れられなくなるぜ」

(ドキッ)


 アオイの心臓に亀裂が走ったような感覚があった。その後、顔が火照ってくる。


「ご、誤解しないでください。部屋に行ったからって体を許すということではないわ。ただ単に職務上、リュウジさんに興味があるだけです!」

「職務上ね……くくく……」


 リュウジはにやりと笑ってアオイの頭に手をおき、くしゃくしゃとまるで子どもをにでも接するかのように動かした。呆然とするアオイを尻目に、バックパックを背負った。


 向かうはルービック砂漠である。


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