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エールとサーロインステーキのたれ焼き

「お客さん、ご注文は?」


 カウンターに座ったリュウジに店主の男が聞いた。リュウジはこの店に入る時から決めたメニューを注文する。

 ここはワミカの町にある小さなバルである。エールが売りらしく、看板にも『美味しいエールが飲める店 ワンダーウッド』とある。

 エールの文字に惹かれたこともあるが、カウンターから見えるキッチンで手際よく料理をしているのが見えてリュウジ好みの店であったことも大きい。


 また、その匂いが食欲を刺激し、今日はここでゲン担ぎの一杯を楽しもうと言う気にさせる。


「エールをくれ」


 エール。隣国リーグランドやアウルランドの伝統的ビール。それらの国でビールを注文するとこのエールが出てくる。

 原料はエール麦芽。これを強く焙燥したものを使う。通常のビールは低温の下層発行で作るのだが、エールはホップを加えて上面発酵で作る。

 通常のビールよりも色が濃く、アルコール度数は高い。通常のビールが4~5度のアルコール度数であるのに対して、エールは8度を超える。

 エールの中でもペールエールと呼ばれるものは、さらにアルコール度数が高く、ホップの苦みが強い。


「う~む……。トロトロの泡と液体の口当たりの良さ。そして後を引くこの苦み。今日はエールだと決めていた」

「エールにゃ……明日は暑い砂漠へ行くにゃ。今のうちに喉を潤しておく方がいいにゃ」


 暑いところで長時間過ごし、冷たいビールを飲むと一気に脱水症状を起こすことがある。これはアルコールに利尿作用があるためで、熱中症の予防にビールを飲むのは、自殺行為である。


「今日は1杯だけにしておこう。深酒は自殺行為だ」

「それがいいにゃ。うちも砂漠で骨になったリュウジを見たくないにゃ」

「言ってろ……」


 森やダンジョン等、危険な場所へ行くことは冒険者なら当然だ。そこに強力なモンスターがいたとしても恐れない。

 しかし、自然の驚異は恐れなくてはいけない。どんな強力な剣技や魔法があろうが、自然相手には人間は無力だ。


「はい、ご注文のサーロインステーキのたれ焼きでございます」


 リュウジが注文した料理が届いた。炭火で焼かれた肉である。醤油とみりん、酒でつくられたたれが塗られている。

 肉は150gほど。前日に軽く塩を振って冷蔵庫で半日置いておいた肉。これで水分が適度に抜けて味が格段によくなる。

 

 その肉の中心に金串を差し、左右に均等に金串を差す。そうして炭火で焼く。表面が軽く焼けたところで、たれを塗り焼く。これを3回繰り返す。

 そして裏面は色が変わる程度に軽く焼いて完成。火の通りは表面から1~2ミリ程度。極上のレアである。それをサイコロ状にカットして、マスタードを乗せてある。付け合わせは炭火で焼いたネギだ。


(うああああっ……うまい。見た目は生だが、これは十分に火が通った生だ)


 リュウジは最初の一つを口に放り込み、噛んだ瞬間に肉の軟らかさと肉汁のパレードに襲われた。肉は溶けるような感触はあるが、ぷつっとしたかみ切る感覚もあり、快感でしかない。


「リュウジ、この肉は香りがいいにゃ……」


 寧音もうっとりした声でこの料理の味を褒める。


「そうだろう。金串を差しての炭火焼きのコツはあれだ」


 リュウジはカウンターで別の客に出すために焼いている肉に視線を向けた。


「どういうことだにゃ」

「煙だよ」

「煙にゃ?」


 肉汁とたれが焼かれてぽとりと炭火に落ちる。ジュワッと音がして煙が上がる。店主はその煙を肉にまぶすようにからめる。


「煙を絡ませてるにゃ」

「あの煙が風味の元なんだ。煙で燻製にすることで味と焼き加減を調整するんだ」

「なるほどにゃ」


 リュウジは2つめを口に放り込んだ。そして咀嚼。次は焼かれたネギ。ネギの鮮烈な刺激が口の中をリセットする。そして3つ目。


 ごくんと飲み込んですかさず、よく冷えたエールをがぶりと飲む。


「ふい~っ。た、たまらん」

「たまらないにゃ!」


 全く炭火というのは、遠赤外線でじりじりと焼くことで、素材の旨味を引き出すことができる。

 4つ目からはエールも少ないので、ジョッキをちびりちびりと飲みながら、肉を味わう。わずか150gのステーキだがゆっくりと味わい、1杯のエールだけで1時間かけて食べた。


「店主、すまなかった」


 リュウジはそう言って銀貨1枚をカウンターに置いた。1時間もいたのにエール1杯とステーキしか頼まなかったことへの謝罪だ。


「いえいえ、あんなに美味しそうに味わっていただけて、こちらも作り甲斐があります。今度ゆっくりできる時にまたいらしてください」


 そう店主は笑顔でリュウジに答えた。


「また、仕事が終わったら来るよ。次はエールを浴びるほど飲みたい」

「お待ちしております」


 リュウジは気分よく出た。たった1杯のエールだったから、酔うこともない。真っすぐに宿泊している冒険者ギルド内の部屋へと急ぐ。


「リュウジ、明日は砂漠の炎天下で今日のステーキのようにあぶられるにゃ」

「レアにはなりたくないものだな」

「そうならないように準備はしていくにゃ」

「ああ……」


 リュウジはそう言ったが、一人では持っていけるものには限界がある。砂漠地帯へ行くときに重要なのは『水』である。

 人間は1日に1~2リットルの水を必要とする。食べ物は2週間食べなくても死なないが、水がなければ3~4日で死ぬ。

 何もしなくても体の水分が失われ、体温調節ができなくなり死んでしまうのだ。そこが砂漠であるのならもっと早く死ぬ。

 全く水を飲まなければ、1日で死ぬこともあり得る。それくらい砂漠は過酷な場所なのである。


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