2つのパーティ
事件の概要はこうだ。
クエストはルービック砂漠の中央にある失われた都市『キューブ』の探索。
キューブは古代都市の名前で、伝説上の都市と言われていたが、砂漠で大砂蟲退治をしていた冒険者グループが偶然に見つけた遺跡である。
広大な砂漠のほぼ中心にあるということで、まだ十分な探索が行われていなく、現在は遺跡の規模、安全な通路の解明がクエストとして冒険者ギルドが発注していた。
ルービック砂漠は直径60kmにも及ぶ円形の砂漠で、砂地帯を歩くと遺跡まで3日はかかる。灼熱の太陽が常に照り付け、迷い込んだから確実に死が待ている。
ところどころにオアシスもあるが、まだ発見されていない場所も多い。何より、危険なのは砂漠に生息する大砂蟲が多数いること。
大砂蟲は体長50mにも達する大型モンスター。ベテランパーティでもかなり苦戦する強敵だ。
砂嵐を起こし、巨大な体躯で獲物をなぎ倒す。人間を丸呑みして消化してしまう恐ろしい生物である。
中心にある遺跡に向かうには、砂地を最短距離で向かう方法と少し迂回するが岩場地帯を迂回していく方法がある。
岩場地帯から行くと余分に2日かかるが、岩場で日陰もあり、水も砂地よりは見つかりやすい。岩場とはいえ、砂漠と同じ乾燥地帯で、じりじりと太陽光線に焼かれ、さらに高低差があって進む速度はかなり落ちる。
大砂蟲が出ないと言う利点は大きいが、モンスターが出現しないわけではない。
このクエストに参加したのが2つのパーティであった。1つは剣士ヘイゾウが率いる『ヒノカグツチ』。もう一つは剣士ジェーソン率いる『ローデッド』。
『ヒノカグツチ』は岩場ルートを選択し、『ローデッド』は砂地ルートを選択した。『ヒノカグツチ』は2日早く、砂漠近くの町を出発し、『ローデッド』は後から向かった。
いずれもベテランパーティで結成から10年の経験があった。2つのパーティとも、危機的な困難を乗り越え、そこまでに何人かの死傷者を出しつつも、経験を積んで来た。
「2つのパーティの評判はかなりよかったようです。特にリーダーの二人は絶大な信頼がありまして、他の冒険者からも尊敬されていました。しかし……」
アオイは言葉を濁した。『ヒノカグツチ』も『ローデッド』もこの砂漠の失われ都市の探索をするにふさわしい実力をもっていた。
しかし、出発して3日後に岩場地帯を進んでいた『ヒノカグツチ』は全滅。
全滅した原因が鉄砲水に巻き込まれての全滅であったため、ここまで築き上げてきた栄光は地に落ちた。
「リーダーのヘイゾウさんの評判はがた落ちです。基礎的な判断ミスでパーティを全滅させたということで、大きく批判されています」
『大砂蟲から逃げて水に飲み込まれて死亡』
『パーティメンバーの進言を聞かず強行して全滅』
『砂漠をなめて全滅』
『油断することの恐ろしさを命で宣伝』
ギルドの酒場ではヘイゾウの判断を馬鹿にする話題でこと欠かなかった。どうせ死ぬなら戦って死ぬ。災害に巻き込まれて死ぬなんて惨めだと冒険者たちは口々に話した。
「砂漠地帯の経験がある冒険者なら、岩場でのキャンプは注意をはらう。水の通り道にキャンプした判断は軽率だと批判されるだろう。だが、冒険者の死亡原因のうち、モンスターと戦って死ぬ確率より、自然の驚異に負けて死ぬ方が多いことは知られていないようだ」
リュウジはそう答えた。
これにはアオイも同意する。アオイも長く冒険者ギルドに勤めていたから、冒険者がなくなる原因をいくつも知っている。
モンスターに殺されるよりも、川に流されて死亡。崖から転落して死亡。暑さや寒さに耐えきれなくて死亡ということの方が圧倒的に多かった。
もちろん、モンスターとの戦闘で命を落とす者もいるが、多くはサバイバルができなくて死ぬのである。
(『軽率だ』とリュウジさんは言ったけれど、なぜかしら。その言葉には当然だと言う含みがないわ。リュウジさんには何か引っかかることがあるかしら?)
アオイはリュウジが何か考えている様子を見てそう思った。冒険者ギルド内部では、事故として片づけられるとの判断であった。
一応、全滅なのでクエスト調査官の調査は入るだろうが。
「ヘイゾウさんは、トップダウン型だったようで、パーティメンバーの意見を聞かない頑固者だったとのことです。掟にも厳しく、違反者は問答無用でパーティから追放するとのこと。ここ最近のパーティメンバーの入れ替えが激しく、結成以来のメンバーはリーダーのヘイゾウさんと魔法使いのガーフィールドさんだけです」
「……これまでのヒノカグツチのメンバーは分かるか?」
「はい」
アオイは短く答えてリストを渡す。ギルドの依頼を受けるたびに提出されるメンバー表の一覧だ。
リュウジはそれをじっくりと見る。そして大きく頷いた。
「なるほど……。一つ仮説が立てられた」
「仮説ですか?」
リュウジはアオイにもう一つのパーティのことを聞いた。『ローデッド』はヒノカグツチと同時期に設立。リーダーのジェーソンはヒノカグツチのヘイゾウとは昔パーティを組んでいたことが分かった。
「2人は3年ほど同じパーティで組んでいました。3年後、それぞれが別パーティを組織して独立。それ以来、互いを切磋琢磨して冒険者たちに一目置かれるパーティを作り上げました」
「……分かった。あとは実際に事故現場の検証をするだけだな。アオイ、あと調べておいてほしいことがある」
そういうとリュウジはいくつかアオイに指示をした。アオイはそれを聞いて驚いた。賢いアオイにはそれだけで今回の事件が仕組まれたものであるとリュウジが考えていることが分かった。
(そんなことがあるのだろうか……この事件は単なるリーダーの判断ミスだと思われているけど……)
「アオイ、この事件は裏が深そうだ。調査は慎重にやれ」
そう言うとリュウジは出かける準備をする。
「リュウジさん、また飲みに行くのですか?」
「明日は過酷な砂漠の任務だ。ちゃんと厄を払っておかないとな」
アオイはため息をついた。だが、そのため息は呆れた気持ちからではない。リュウジがどんな事件にもマイペースでルーティンを守る律義さに感心したものであった。




