やってしまった……わ?
「うっ……朝か……」
リュウジの目に窓のカーテンの隙間からから入る日の光が入ってきた。どうやら、昨日は飲み過ぎてしまったようだ。記憶があやふやになるまで飲んだのは、何年かぶりだろう。
リュウジはゆっくりと起き上がった。
そして同時に(ギョッ)とした。
なぜなら、隣に誰か寝ているのだ。
(おいおい……俺としたことが……)
寝ている人物には心当たりがあった。
ワミカ冒険者ギルド、統括官のアオイである。
ただ寝ているだけだとリュウジは言い聞かせたが、寝ているアオイは裸であるし、ベッドの床にはリュウジの服と共にアオイの服や下着と思わしきものが散乱していた。
「ぐああああああっ……やっちまった……」
昨日は黒ビールを飲みながら、ついアオイと話してしまった。木彫りのペンダントトップを寧音と呼んでいる理由を尋ねられて、つい昔話を話してしまった。
今までそんなことを話した人間はいなかった。なんで話してしまったのか、リュウジにも分からない。
そして昨晩、どういう経緯でベッドに一緒に寝ているのかもだ。
「う……うううん……もう……朝なの……?」
アオイが目を開けた。
「え……リュウジさん……なんで……私の部屋に」
「お前の部屋じゃない。俺の部屋だ」
「え、え、え~っ」
アオイは自分が何も着ていないことに驚いた。そして、リュウジも何も着ていない。この状況で考えられることは1つしかない。
「わ、私、全然記憶がないです。そんなに飲んだ覚えはないし……何となく、リュウジさんと一緒に店を出て自分の部屋へ帰ったはずなのに……」
「それは俺の台詞だ。確か、俺の記憶ではあんたとは店を出たところで別れたはずだが……」
リュウジは記憶をたどる。本当にアオイとは店の前で別れた。アオイもそんなに酔った感じでなかったので、そのまま帰したはずだ。アオイは妙に明るい声でおやすみなさいとか言っていた記憶がある。
リュウジは部屋の扉に鍵がかかっていないことを確かめた。そして、部屋で脱ぎ散らかした服の様子を観察する。
「……これは俺が帰って服を脱ぎ、ベッドに入った後、お前が部屋に来て、ベッドに潜り込んだと推測される」
「な、なんですって!」
「これを見ろ」
リュウジが指を差す。リュウジの脱いだ服の上にアオイの服が被さっている。上着、スカート、パンストに下着……全部がリュウジの服の上にある。
「リ、リュウジさんが、全裸になって酔って意識がない私の服を脱がしたら、同じようになるのではないですか?」
「バカを言うな……そんなことはしていない。それに俺はいつも寝るときは全裸だ。お前はどうなんだ?」
「わ、私は違います。ちゃんと寝間着を着ています」
「……本当にそうか?」
「ほ、本当です……た、たまにお酒に酔って全裸で寝てしまうことはありますけど。ほ、本当です。本当にたまにです!」
アオイは必死に弁解する。そして体のあちらこちらを見る。変わった様子はない。それに違和感もない。
(も、もしかしたら……何もされてないかも……よ、よかった~……うん?)
(本当によかったの?)
(な、何だか、ち、ちょっとモヤモヤするような気も……)
「その様子じゃ、お前もベッドに入って寝たという記憶しかなさそうだな」
「……そういうことだと思います。もしかしたら、店の前で別れてからリュウジさんを尾行して、そのまま部屋に付いて行ってしまったのかもしれません」
ここへ来て、アオイの顔は(かあ~っ)と徐々に赤くなっていく。もしそうだとしたら、あまりにもはしたない。酔っていたとはいえ、やっていることは痴女である。
リュウジはそんなアオイに助け舟を出した。
「……こうしよう。俺も記憶がない。お前も記憶がない。つまり、俺たちは酔って一緒のベッドに入ったが、何もしていない。一緒に寝ただけ」
「ぷっ……リュウジさん、それ最低ですよ」
アオイはくすくすと笑い始めた。恥ずかしさで昨日の自分を殺したいと思っていたが、昨晩、リュウジが昔話を話してくれたことを思い出したのだ。
(この人……見かけによらず可哀そうな人なんだわ……)
リュウジの話は途中までであったが、アオイはその話が大変な悲劇だったと確証をもっていた。リュウジが一人で酒を飲むという行動も、恐らく死んだ彼女の形見と思われる猫の像も、全てその悲劇から生まれた産物だということも。
「最低とは何だ。俺は女性の同意も得ずにそういうことをする男ではない」
「では……」
アオイは急に口が勝手に動き始めるのを自覚した。理性が(やめ、やめて!)と連呼しているのに、口の筋肉は勝手に動く。本能が体を動かしているのだ。
「同意があったら……どうするのですか?」
「同意だと?」
「敏腕クエスト調査官がこんないい女を抱くチャンスを見逃すはずがないわ。それとも死んだ彼女さんに義理立てしているの?」
リュウジはピクリとこめかみを動かした。そして右手で顔を覆った。
「俺としたことが、お前に話してしまったのだな……。そんなことを話した人間は初めてだ」
「そうなんですか?」
何だかアオイの心のモヤモヤが晴れて、今度はドキドキしてくる自分に気づいた。
「俺はお前にどこまで話した?」
「どこまでって……」
理性のアオイは(恐らく、悲劇につながるであろう冒険に出るところまでよ……と答えなさい)と言っているが、本能は(ここよ、ここの答え方であなたはリュウジさんの心に入り込めるわ……)と言っている。
アオイは目を閉じた。ものすごく恥ずかしいが、本能に身を委ねる。
「知りたかったら、私の体に聞けばいいわ……どうします。クエスト調査官なら調査能力で分かるのでは」
(きゃああ……な、なに言ってるのよ、私。これじゃ、積極的に誘っているのは私じゃない!)
ご丁寧にも布団をめくってそう誘うアオイ。
「お前、本気なのか?」
「あら、調査官様は慎重ですね。ここで同意をさらに得ようとは」
(ああああああ……何言ってるの、私~っ)
「後悔するなよ」
リュウジはベッドに潜り込んだ。




