団長への疑惑
「マジック・ミノタウルス?」
間髪入れずにラノンが茶々を入れる。その言葉には少々、舐め切った感があった。
「魔法を使うミノタウルスだそうだ」
ブライトンは静かにそう説明を続ける。使う魔法は自分の能力を高める補助魔法。攻撃魔法は炎系でレベル3までの魔法。攻撃力は巨大なバトルハンマーで人間なら2,3人をなぎ倒す馬鹿力がある。
「強敵だが単体なら怖くない。我々なら楽勝の部類だろう」
冷静にそう言ったのはクルーベ。魔法を使えるといっても、単体なら詠唱する時間を与えないで連続攻撃で押せば、問題なく倒せるとの判断だ。
「楽勝過ぎるな。そもそも、ミノタウルスなんて2流モンスターはランクCの連中に任せておけばいい。我々が引き受ける程のクエストか?」
ラノンは両手を広げて周りを見る。団長のブライトン以外のメンバーの意見を伺う。メンバーも乗り気ではない空気がある。
「報酬は金貨200枚。加えて秘密の部屋にある宝物だ。推定で金貨3000枚は下らぬ……」
そうブライトンが空気を変える発言をした。
「ひゅー」
反対していたラノンが思わず口笛を鳴らす。報酬としては申し分ない。
「それは破格ですね。誰がスポンサーなんです?」
クルーベがそう尋ねる。
「西部地区の冒険者ギルドだ。この秘密部屋から新たなルートが見つかる可能性がある。そうなれば未回収の宝物が見つかるだろう」
「なるほど、ギルドとしては十分に投資費用が回収できるというわけだ。俺は乗るぜ。クルーベ卿は参加だよな。リリーゼ司教様とテルーはどうする?」
ラノンの問いにクルーベとテルーは頷いた。リリーゼは胸から下げたアミュレットに手を置き、目を閉じた。
「ちょうど、新しい孤児院を建てる計画があります。報酬をそれに充てましょう」
「よし。そこのバカップルは参加だよな?」
ラノンはリュウジと寧音に同意を求める。寧音はリュウジの顔を見た。どうやら、リュウジ次第のようだ。リュウジはと言うと少し考えている。
というか、ブライトンがこの話をもってきたときから、何かを考えているようであった。
(何か嫌な予感がする……)
リュウジは先ほどから自分の心が酷く乗り気でないことに戸惑っていた。ブライトンのもってきた破格の条件があまりにもおいしい儲け話であること。それをもってきたブライトンの様子がいつもと違うことも気になっていた。
パーティの仲間がブライトンの様子については、気づいているのか、気づいていないのかは測りかねていたが、ブライトン自身、おいしい話を持ってきた割には表情が明るくない。
(それほど困難なクエストではないのに、ブライトンのどこか深刻そうな様子はどうなんだ?)
リュウジは口を開いた。参加するにしろ、今回は見合わせるにしろ、自分の疑問は解消しておきたい。
「団長、何か不安でも?」
「不安だと?」
「何だか、時折、深刻な顔をしているもので……何か、心配なことがあるのかと?」
取り繕ったようにブライトンは笑顔を見せた。
「いや、心配なことはあるにはあるが、大したことじゃない。部屋のボスは我々なら楽勝だが、そこに至るまでの道中で数多くのモンスターと遭遇する。そのリスクは考えないといけないと思っただけだ」
「……そういうことですか」
まあ、団長としてはあらゆるリスクを考えないといけない、そういう心配は当然であるが、積極的にリスクを取る正面突破型の指揮を執るブライトンにしては、慎重な考え方だ。
「リュウジはどうする?」
ブライトンはそう確認した。リュウジは頷く。リュウジが参加するなら寧音も参加となる。
「それでは明朝。第3ゲートに集合」
ブライトンはそう告げて酒場を後にした。クルーベ、リリーゼ、テルーは用事があるからと後に続き、後にはラノンとリュウジと寧音が残った。
「どうしたリュウジ、浮かぬ顔だな」
「そうだにゃ。何か気になることがあるのかにゃ?」
「団長の様子が変だと思わないか?」
そうリュウジは2人に聞いてみた。リュウジは1年の付き合いだが、この2人は3年以上の付き合いだ。
「ああ、それは俺も思った」
「何だか、人が変わったようにゃ」
2人もリュウジと同じことを感じていたようだ。だが、ラノンはその理由を説明した。
「団長は助っ人に行っていたパーティと冒険に参加していたが、団長残して全滅したと聞いている」
「……全滅?」
「にゃ?」
「ここだけの話だ……。参加したパーティの奴らが団長の助言を無視して、強敵との戦闘をしたそうだ。団長の働きで倒したけど、パーティは力尽きて全滅。クエスト調査官が乗り出して、団長は事情聴取されたと聞いている」
「クエスト調査官か……」
リュウジはその職業の名を聞いたことがある。パーティが全滅し、クエスト依頼を失敗した時に、その原因を調査する仕事だ。今回のように一人残してほぼ全滅したようなケースでも調査することがある。
「団長の過失はなかったとの報告だけど、やはり助っ人として参加したのに、その任務が果たせず、死なせてしまったというのは後味が悪いだろう。それに団長の名声にも傷がつく。まあ、俺はそれでも団長の信頼度は変わらないけどな」
(なるほど……)
自分が関わった人間が死んでしまっては、心穏やかではないだろう。団長のような百戦錬磨の冒険者でも、精神にダメージを受けても仕方がない。
(だが……)
リュウジはもう一つの疑問を口に出そうとしたが、それは引っ込めた。それを言うことは、チームワークを崩すことにつながりかねないと判断したのだ。これから、力を合わせる仲間にわずかな懸念を抱かせることは、パーティの力を損ないかねない。




