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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第4話 梟の巣団全滅事件 前編
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オロチ退治

 

 身長は160cmあるかないかの小柄の女性。しなやかな体躯は敏捷性の高さを思わせた。肩までで切りそろえられた髪は基本ベースは赤毛であるが、ところどころメッシュのように黒と白が混じる三毛であった。

 何より人間と違うのは頭部に猫を思わせる耳が生えていること。そして尻には尻尾。これだけ見れば獣人と思われるが、尻尾は普通ではなく根元は1本の尻尾が3本に分かれている。

 顔から見る年齢はまだ10代か20代前半に見えるくらい幼さが残っているが、その目つきはちょっと吊り上がってお世辞にもいいとは言えない。


(獣人にしては……少し違和感が……)

 

 リュウジは何も言わないその女の子をじっと見る。体に獣人特有の毛が生えていることもなく、猫耳と尻尾さえなければ普通の人間の女子と変わらない。


「その新入り、使えるのかにゃ?」


 そう寧音と呼ばれた女の子はリュウジをちらりと見てつぶやいた。他の仲間はやれやれと言った表情になる。


「ああ、リュウジの能力は俺が太鼓判を押す」


 そうブライトンは低い声でそう言った。寧音はゆっくりと頷いた。


「団長が使えるというのなら、仲間になればいいにゃ。だけど、うちは信用しないにゃ。実力を見せてもらわないとにゃ。うちは腹が減ったから、下で何か食べてくるにゃ」


 そう言って寧音は部屋ゆっくりと出て行く。ブライトンがこの後、作戦会議をするからと引き留めようとしたが、『それは団長に任せるにゃ』と言って部屋を出たのであった。


「リュウジ君、気を悪くしないでね。あの子、初対面の相手には人見知りするから。特に男の人は苦手みたいで」


 そう司教のリリーゼがフォローする。


「めんどくさい女だが、能力は超一級なんだぜ」


 そう戦士ラノンも言った。このベテラン戦士が言うくらいだから、実力は大したものなのであろう。


「彼女は猫又なんだ」

「猫又?」


 聞きなれない団長の言葉にリュウジはそう聞き返した。


「猫又……獣人とは違う種族。どちらかというと、精霊に近い存在」


 そう説明し始めたのは薬師のテルー。テルーの説明によれば、猫又族は超人的な身体能力があり、さらに精霊魔法の使い手であるという。猫又は女性しかいなく、子どもを作るには人間の男と交わらなくてはいけないこと。生まれる子どものうち、男の子は普通の人間になり、女の子のみ猫又の性質を受け継ぐとのことであった。

 大変珍しい種族であるが、その兼ね備えた能力で周りから一目置かれ、社会的に成功している例が多い。冒険者となる猫又も珍しくなく、ほとんどが上級冒険者と行動を共にする。


「猫又族は長生きするからな。通常の寿命は300年。寧音はあれでも60歳らしいが、見た目は10代後半の少女って感じだろ。だが、冒険者としての経験は20年以上あるらしい。ちなみに今まで男と付き合ったことはなし。」

 

 そう戦士ラノンは補足にリリーゼがそんな余分なことを言うから、寧音からセクハラ親父と罵られると注意を受けた。

 リュウジは説明を受けて、寧音の態度を理解した。


(人間とは違うからこそ、初見の人間に警戒心をもつものだ)


「では、一応紹介が終わったところで、リュウジのデビュー戦も兼ねて、このクエストに挑もうと思う。みんなの意見はどうだ?」


 そうブライトン団長が冒険者ギルドから取り寄せた依頼書と関連資料をテーブルに広げた。


「アデン湖沼地帯のオロチ退治ですね」


 資料を一目見たウィザードのクルーベが顎に右手を当てて、そう呟いた。表情には肯定的な色合いが強い。


「リュウジさんのデビュー戦にはいいのではないですか?」


 そうリリーゼがクエストを請け負うことに賛成した。オロチ退治の難易度はランクA。冒険者ギルドの判断は、普通の冒険者では請け負えないというものだ。

 オロチは単に巨大な蛇というものではない。頭が8つに分かれ、それぞれが違うブレスを吐くという情報がある。

 今までランクBとAの冒険者パーティが4度挑戦したが、いずれも失敗に終わっている。何かを守っているのか、生息する沼から追撃はしてこないからまずい状況になれば、逃げ出すことが可能であるから、これまで全滅するほどの被害は出ていない。


「攻撃は噛みつきと尻尾による殴打、体を巻き付けて骨を砕く。ブレスは酸、毒、眠り、麻痺、炎、氷、粘着、石化の8種類」


 クルーベがオロチの攻撃方法を確認する。司教のリリーゼと薬師のテルーが頷く。


「8種類のブレスに対しては、あらかじめ、リリーゼとテルーの防御魔法と薬効効果で緩和しよう。耐性は雷撃に弱いとのことなので、雷撃系魔法と直接攻撃を繰り返せば倒せぬ相手ではないだろう」

「かなりの消耗戦になるが、実は敵はオロチだけではない」


 そう団長のブライトンは地図を開いてアデン湖沼地帯へのルートを確認する。湖沼地帯への街道は全部で2本。そのうち、1本は先月に起きた大雨で道が崩れ、現在は行き止まり中。そしてもう1本はロックトロールの軍団が占拠している。実はこのロックトロールを排除するために軍隊が派遣されており、現在、小競り合いが続いていた。


「ロックトロールの集団は約200。騎士団は1500。戦いは膠着状態だそうだ」

「団長、そういうことならロックトロールを軍隊が排除してからオロチ退治をすればよいのでは。もしくは行き止まりの道が直ってからでも……」


 そうリリーゼが質問したがブライトンは首を横に振った。それで仲間たちはオロチ退治の本当の意味を知った。


「なるほど……そういうことか。オロチはロックトロールの切り札。奴らの守護獣というわけだ」


 そう言ってラノンは腕組みをして目を閉じた。

 ロックトロールには再生能力がある。但し、それは瞬時に治るものではなく通常は数日かかる。しかし、この森林地帯のロックトロールは、オロチの邪悪な魔力の影響で再生能力が飛躍的に高まっていた。

 オロチとロックトロールが意図的に共闘しているわけではないが、偶然にもロックトロールが恩恵を受けているのだ。オロチも退治に来る冒険者をロックトロールの防御壁で守ってもらっているといえる。

 つまり、この任務はロックトロールの防御壁をかわし、強大な力をもつオロチを倒すという非常に困難なミッションなのだ。

ロックトロールは岩場に住む人食い巨人だ。身長は2mを越え、体重は150㎏以上。緑色の皮膚はまるで鋼鉄の鎧のように固く、そして前述した再生能力を備えていた。

再生能力はダメージを与えた傷口を炎や酸等で焼き尽くせば、再生細胞が活動を止め、再生を止めることができる。戦士が固い皮膚を切刻んだ上、魔法使いが炎系の魔法で焼くか、消し炭になるくらいの熱量で存在ごと消し去るしかない。

弱点がないわけでなく、彼らは太陽光には弱く、紫外線を浴びると石化してしまうという致命的な弱点があった。人間を凌駕する能力がありながら、太陽光が差さない深い森に生息するしかないのだ。


 ロックトロールの名前の由来は、この太陽光を浴びると石化してしまうところからきている。

 太古の神の末裔とも言われるが、知性は低くせいぜい人間の幼児レベル。人間は殺して食うか、女なら凌辱するだけで本能のままに生きる。

 武器はせいぜい手製の棍棒くらいであるが、馬鹿力があるので中堅冒険者でも苦戦する。ましてや集団ともなるとその数によっては、Aランク冒険者ですら全滅の危険があった。しかも、この森のロックトロールの再生能力は、オロチによって極めて短時間である。


「どうやってロックトロールの避けてオロチのいる湖沼地帯に潜入するのですか?」


 テルーがそうブライトンに聞いた。彼らは鼻が異様にきく。人間の臭いに敏感である。彼らに気づかれないように森をすり抜けるのは不可能と言っていい。


「前線基地から暗闇に紛れて、グライダーで沼地に直接降下する。オロチ退治が完了したら、軍が総攻撃に出る。おそらく、ロックトロールたちは大混乱に落ちるだろう。それに紛れて脱出する」


 そうブライトンは作戦を説明した。軍がロックトロールと戦端を開くのは、ブライトンたちが出発してから8時間後。それまでにオロチを倒さなければならない。


「それで軍の奴らは、安全な昼間に総攻撃。代わりに俺たちがロックトロールの活動が活発な夜に行動するのですかい?」


 そう呆れた口調で戦士ラノンが両手を挙げた。活動が鈍く、太陽光を浴びれば石化してしまうトロールと戦うのだったら、昼間の方がよい。


「肝心のオロチが夜行性だ。昼に沼に行っても出てこなくては退治もできないだろう」


 そうブライトンは説明する。ラノンは分かったと片手を挙げた。他のメンバー、クルーベ、リリーゼ、テルーも了承する。


「とんでもなく難しいが……久々に痺れる任務クエストになる」

「やってみたくなります」

「また、我が梟の巣団の名声が高まりますね」


 ブライトンはここまでずっと黙ってきていたリュウジの方をポンと叩いた。


「君のデビュー戦。派手なものになるな」

「……はい、腕が鳴ります」


 リュウジはそう頬を硬直させて答えた。リュウジが今まで経験したことのない戦いがそこで待っていた。


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