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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第2話 御曹司のダンジョン転落死事件
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「やっと最下層か……」

「アサシンの奴、先に行きすぎだ……」

「おーい……いるか?」 


 そう言いながら、近づいて来たのは、5階でリュウジのピンチを救ったアンリたちである。別れてから2時間ほど時間が経っている。

 アサシンは偵察のために、アンリたちから先行していたのだ。途中で遭遇したモンスターを殲滅して来たアンリたちより、戦闘は避けて進んできたアサシンとタイムラグはあったはずだが、その差はわずかであったようだ。

 深さ的には地下7階相当のこの場所まで、敵を倒しながら到達したことになる。さすがはAランク冒険者パーティである。


「ここが最下層か……」

「不確定情報どおり、湖があるな……」

「そしてこれ見よがしの2つの通路」


 戦士が指を差した。目の前には地底湖。真ん中を貫くように通路があって、2つ方向に分かれている。


「おい、ここの偵察は終わったのか?」


 そうアンリは前方で立っているアサシンに尋ねた。アサシンはゆっくりと頷いた。


「ココガ最終目的地ダ……アソコニ報酬ノ宝ノ山ガアル……」

「そうか……だが、反対側は怪しげな光を放っているね。これは罠かもしれない」


 2つの光景を見てアンリはそう言った。それを受けて魔法使いの老人が杖をかざし、なにやら魔法の言葉を唱えた。


「一つはおそらく帰還用のゲートだな」


 そう魔法使いの老人が答えた。


「ハイネ師、ゲートの行先は分かりますか?」


 そうアンリは尋ねた。高レベルウィザードである老魔法使いは、杖をかざして魔力感知を行い、そして回答する。


「ダンジョンの外だ。脱出用のゲートだな」

「なるほどね……となると、反対方向はどう考えても罠だね」


 反対方向は金貨や宝石の山だ。どう考えても、こちらは罠としか思えない。


「それにしても……何だかもう一人人間がいる気がするのだけど……」


 そうアンリはリュウジが倒れている岩陰の方を見たが、アサシンがここには誰もいないと否定した。


「ま、いいか。ゴールは目の前。一応、宝の山の罠を解明しておく必要があるからね」


 アンリたちA級冒険者の目的は、このダンジョンのクリア。5階より下の階の地図と謎解きである。当然、最下層の宝の山は、最初にクリアした冒険者に所有権があるため、報酬としてもらうつもりだ。


「リュウジ、リュウジ……起きるにゃ……何だか嫌な予感がするにゃ」


 岩陰で寧音はそうリュウジに呼びかけたが返事がない。それでも寧音はリュウジの名を呼び続けた。

 アンリたちにとんでもない災厄が降りかかると寧音は確信していた。そうだとしたら、リュウジは何としてでも目を覚まさないといけないのだ。


「トラップの種類は感知できそうですか?」


 そうアンリは神官の男に聞いた。先ほどから、神官は神聖魔法を使い、トラップの種類を調べていたのだ。


「アンリ、トラップはモンスター召喚型だと思われる」


 目を閉じて何やら呪文を唱えていた神官の男がそう答えた。神官が使う神の奇跡、『トラップ探索』。魔法によって発動する罠の種類を見破る。術者の能力が高いほど、罠の種類が詳細に脳裏に浮かぶ。

 この宝物をエサにしたあからさまなトラップは、モンスター召喚型であることは分かったが、どんなモンスターが召喚されるかまでは分からなかった。


「どんなモンスターが出てくるか楽しみだなあ……ガストン」


 アンリはそう言うとガストンと名前を呼んだ仲間の戦士に目で合図した。戦士は頷くと宝が山と積まれた平らな岩に足を踏み入れた。

 これまでこのような罠は何回も体験してきた。どんなモンスターが出てくるか分からない高度な召喚魔法トラップもあったが、せいぜい、石ゴーレムや地竜などであった。

 並みの冒険者たちなら脅威となるが、アンリ率いるディスティニーのメンバーならば、問題にならない。


「リュウジ……奴……奴の気配がするにゃ……」


 岩陰で寧音が目覚めないリュウジに不安の声を上げたと同時に、戦士の足元から黒い光が湧き出た。


「うっ……」


 リュウジが意識を取り戻した。アサシンの毒ガスは20分は意識を奪う代物であったが、強靭な肉体と寧音の必死の呼びかけに覚醒したのだ。

 だが、意識は戻ったが体は動かない。神経が元に戻るには、まだ時間がかかる。


「リュウジ、奴らだにゃ……でも、気配が軽いにゃ。位は低そうだにゃ」

「低くても……危険であることに変わらない……」


 リュウジは岩陰からゆっくりと体を起こし、アンリたちが相対するモンスターの姿を確認した。ぼやけた視界にその姿をとどめる。


「あれは……寧音……お前を虜にしている奴か?」

「分からないにゃ……。印が確認できないにゃ」

「くそ……体がまだ思うように動かない……」


 リュウジは痺れる手をやっと動かし、腰に付けた二本の短剣の柄を握った。まだ、力が出ず、抜くことができない。


(このままでは、彼らはここで全滅する……)


 リュウジはアンリたちの運命をそう確信していた。そして現時点で自分ができることは何もない。体が自由に動くようにならなければ加勢にも入れない。


(だが、体が自由に動いても……すぐに助けには入れない)


 そうリュウジは心の中でつぶやいた。目の前に召喚されつつある敵には、単独で立ち向かわないといけない理由があるのだ。

 現れたモンスターは人型であった。身の丈は1m60cmほどの小柄。顔は何やら不思議な文様が描かれた白い布を頭から垂らしているので分からない。露出している首や手首は異様なほど白い。

 生者とは思えない血の気のない白さだ。位袍いほうと呼ばれる服を着ている。色は薄い緑色である。


 そしてあろうことか、空中にゆらゆらと浮いているのだ。



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