第2の暗殺者
キーン……。
するどい金属音がした。結果的にリュウジは自分に向けられた凶器を避けることができたが、同時に腹部に衝撃を受ける。
「うっ……」
思わずかがみ込む。そこへ強烈な蹴りが来る。慌てて、手をクロスさせて顔面を守るが、その衝撃で地面に転がった。
「サスガ……クエスト調査官……」
抑揚のないぎこちない声が響く。リュウジは態勢を立て直し、そっと顔を上げた。
(アサシンの男じゃないか……)
先ほど、自分を助けてくれたアンリ率いる冒険者パーティ、ディスティニーの一員である。
「貴様……なぜ、俺を攻撃する……」
「ククク……ココデ死ヌ、オ前ニ話スコトハナイ……」
感情の欠片もこもっていない口調がこの男の恐ろしさに拍車をかける。手に持った短剣がリュウジに向かって来る。リュウジは左手に持ったソードブレイカーで辛うじて跳ね返す。
すかさず蹴りが来るが、それをかがんでかわす。防戦一方で攻撃する機会がない。
「うっ!」
強烈なパンチを受けて、バランスを崩したリュウジに追い打ちをかけるように回し蹴りが炸裂。
リュウジは床に転がった。
そこへ短剣を突き刺してくるアサシン。リュウジは体をずらして、紙一重で避ける。
リュウジもランクBの冒険者レベルの戦闘能力がある。しかし、アサシンはそれを軽く凌駕する攻撃力だ。
「チッ……シブトイ奴メ……」
「お前の雇い主は、ソード伯爵の次男か、それとも長女か!」
リュウジはそうアサシンに向かって叫んだ。そんなことを聞いて、暗殺のプロであるアサシンが答えるわけがないが、実際の雇い主が含まれた場合、一瞬だけ動揺する。そんな僅かな動揺で十分であった。
「ソンナコトヲ話スワケガ……」
リュウジはトラップが封じられた、魔法玉を地面に投げつけた。それはスパイダーウェッブの罠。
細かいクモの巣のような細い糸が幾重にも絡み合い、捕らえた相手を束縛する罠だ。
「……」
ものの見事に、アサシンは捕らわれた。この罠に捕えられたら、大抵の人間は身動きができない。
「これで終わりだ。雇い主を吐いてもらいたいが、ちょっとやそっとの拷問ではしゃべる奴じゃないな」
「うちもそう思うにゃ……」
リュウジは右手の短剣でぐるぐる巻きにされて、大きな糸繭みたいになったアサシンをポンポンと叩く。寧音も軽口を叩いた。
が、それはリュウジらしくない油断であった。
「うっ!」
「来るにゃ!」
糸繭が8の字に裂け目ができる。
そして一瞬で糸は細かく切り刻まれ、中からアサシンが飛び出した。
「しぶとい奴だ……」
リュウジは再び、出て来たアサシンに向かって戦闘態勢を取る。だが、急に脱力感にとらわれる。
「ううう……なんだ……体に力が……入らない……」
「リュウジ……奴が糸繭から出ると同時に何か薬品をまいたにゃ」
かすむ視界に映るのは地面からあがる3本の細い煙。
「くぞ……眠り薬か……」
リュウジはその場に崩れ落ちた。完全に意識がなくなってしまっている。
「クエスト調査官……手強イ奴ダッタ……。ダガ、ソノ煙ヲ吸エバ、20分ハ目覚メナイ……」
アサシンはずるずるとリュウジを引きずって、その体を岩陰に隠した。そして、岩陰で燃やされていた木樽を見た。
「……ナルホド……木樽トハヨク考エタモノダ……」
アサシンは天井を見る。そこから垂れ下がったロープを見て、おおよそを理解した。
「奴ハ……生キテイルトイウコトカ……」
アサシンは岩陰に隠したリュウジをひと思いに殺そうと考えていたが、それを実行はしなかった。
「コノ男ニハ、マダ聞クコトガアル……」
アサシンはルインとサラが生きている可能性があることを知った。次に気になるのは彼らの行先である。クエスト調査官は、ルインが生きていると仮定して、ここまで進み、そして確かな証拠を掴んだ。
ならば、ルインの行先も予想しているあろう。殺すのはそれを聞きだしてからで十分だ。
「チッ……モウ来タカ……」
そうアサシンは呟いた。時間があれば、リュウジに拷問を加え、情報を得て次の行動に出られるのだが、アサシンにはそうする時間がなかった。
彼は冒険者パーティ、デスティニーのメンバーで今は任務中である。そして、彼の裏の仕事である伯爵の孫の生死の確認の仕事は、仲間には秘密なのである。
「仕方ガナイ、オ前ハココデ眠ッテイロ。後デルインノ居場所ハ吐イテモラウ」
そう言うとアサシンは、何事もなかったかのようにそっと岩の上に立った。彼はパーティから離れ、先行して偵察を行っていたのだ。




