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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第2話 御曹司のダンジョン転落死事件
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死霊の騎士

 寧音がそう言うよりも早く、リュウジには不気味な這いずるような足音を耳に捉えていた。


「報告にあったグールだな……」


 グール。屍人とも言われるアンデッドモンスターである。動く死体が魔法の力で動いている化け物なら、グールは呪いで人間がアンデッド化した化け物である。体の崩壊がない分、動きが早く、そして知能がある。

 人間を見ると食料だと認識し、食べるために襲ってくる。その汚れた牙や爪には様々な病原菌を宿し、戦闘に勝ったとしても後に病気を発症してしまうこともある。


「ぐるあああああっ……」

 グールはリュウジたちを見つけてやってくる。目は充血し、汚い緑色のよだれをたらしながら近づいてくる。


「う、うああああっ……。頼む、ロープを外してくれ!」


 ロディはそうリュウジに懇願する。だが、リュウジはロディの縛っている両手を引っ張り、自分の後方に転がした。


「お前はそこで少し黙ってろ……」


 そう言うとリュウジはウェストポーチから、小さな瓶を取り出した。グールはアンデッドである。

 剣で切りつけた程度ではひるませることができない。武器で攻撃するのなら、鈍器で頭を完全に潰すか、剣で粉々に切り刻むしかない。


「ど、どうするにゃ。あれはアンデッドにゃ。殺すには一工夫いるにゃ」


 寧音はそうリュウジに尋ねる。リュウジはウェストポーチから取り出した瓶を寧音に見せた。


「これを使う……」

「なるほどにゃ」


 リュウジはグールめがけて、瓶をぶつけた。頭にあたってガラスが砕ける。中には、黒くてべったりと粘着した液体が入っていた。


「ぐるあああああっ……」


 液体をかけられて、怒り狂うグール。その隙にリュウジは10mほど下がる。

 すぐにしゃがむと背負い袋から松明を取り出した。それにファイヤースターターで素早く火を付けた。


「これでも喰らえ!」


 リュウジは松明をグールに近づける。頭についた黒い液体に炎を付ける。

 たちまち、炎はグールの頭を覆う。


「ゲフゲフゲフ……」


 炎に包まれながらも、グールはリュウジめがけて攻撃をする。口から緑色の液体を吐き出したのだ。

 リュウジはその攻撃を予想していた。緑色の液体を避ける。液体は地面に落ちると煙が上がった。


「うああああっ……」


 後方でロディが転がって、液体を避ける。ちらりと後方を見てそれを確認したリュウジは、落ち着いてグールの様子を見守る。


「強烈な酸の胃液による攻撃か……。この胃液はあらゆるものを溶かす」


 これがつり橋のロープを切った正体である。

 通常のグールの胃液に金属を溶かすほどの力はない。だが、生息する場所によりそういう性質を受け継ぐことはある。このダンジョンで恒常的に食べているものによって、胃酸が強酸性化したと推測された。

 やがて、炎で焼かれたグールは地面に崩れ落ちた。


「ふう……」


 思わずそう息を吐いたリュウジ。グールは難敵だが、冒険者がCランクで構成されたパーティなら、撃退は可能だ。リュウジはランクBだが、単独だと数が来たらさすがに苦しい。


「あああああ……」

「グルグルグル……」


 不気味な呻き声が近づいてくる。そしてひんやりとした嫌な空気が暗がりの中からこちらへやって来る気配を感じた。


「リュウジ……冗談抜きでヤバいにゃ」

「……ああ……。これは詰んだかもしれない……」


 リュウジはそう呟いた。後方で転がって腰を抜かしているロディに駆け寄り、短剣で縛ったロープを切った。

 ロディは相変わらず、地面から立てないが、リュウジに迷いはない。このままにしておけば、このスカウトは必ず死ぬ。

 ロープを切って、少しでも戦闘に貢献してもらわねば、リュウジも同じ運命である。


「おい、状況は分かるよな!」


 そうリュウジはロディの胸ぐらをつかんで顔を近づけた。血の気を失ったロディの唇が辛うじて動く。


「お前も戦え」

「わ、わかった……」


 リュウジに怒鳴られ、ロディは正気を取り戻した。腰に差したショートソードを抜く。

 ロディが共闘するとはいえ、リュウジの頭の中はいかにしてここから逃げるかの1点しか考えていなかった。それはロディも同じであろう。戦闘しながらも隙があれば逃げ出そうと考えているに違いない。

 それは正しい判断である。ベテラン冒険者であるなら、100%そうする。

 なぜなら、現れたのはグールの集団を率いた死霊の騎士。前衛にはゾンビとなったファイアリザードが腐った体を引きずるようにして歩いてくる。

 この陣容ではCランク冒険者で構成されたパーティでも全滅する可能性があった。ましてやリュウジたちは2人である。

 戦力が圧倒的に不足していた。ブルドーザーのように大剣を振り回すパワフルな戦士も、火炎の強力魔法が使える魔法使いもいない。戦えば死は免れない。

 リュウジは、一直線に4階の階段がある通路を目指して走ることを考えたが、死霊の騎士に追いつかれることは間違いがない。逃げる背後から襲われては勝ち目がない。


(どうする……)


 そもそも死霊の騎士はゴースト系のモンスター。ダメージを与えるには聖職者によって清められ聖なる力を宿した武器か、アンデッドを倒せる魔力を秘めた武器で攻撃するしかない。

僧侶や神官ならば退魔の魔法、魔法使いならば強力な火力系魔法ならば効果が期待できる。

 だが、リュウジには何もない。武器と言えば愛用の短剣だけだ。後ろでビビりながらもショートソードを構えているロディも同じである。


(ここは腹を括るしかない……)

 リュウジは両手に2本の短剣を握る。

 シューシュー……。

 死霊の騎士の鼻から冷やされて白くなった息が噴出される。短剣を構えて攻撃態勢のリュウジに向かって右腕を突き出した。

 それを合図にリザードゾンビとグールがひたひたとリュウジに近寄っていく。


「う、うああああああああっ……」


 ロディの激しい声。ぷつんと緊張の糸が切れてしまった。ショートソードをむやみに振りまわしながら、4階へ上る階段めがけて走り出した。

 割れ目があるから、かなり迂回しないとたどり着けない。戦線離脱であるが、アンデッドたちは恐怖に負けた人間の失態を見逃さなかった。


「ぐふっ……」


 死霊に騎士が骨の馬に鞭すると、馬は疾走した。あっという間にロディに追いつくと、背丈もあるような大剣でキャベツを一瞬で輪切りするようにロディに首を刈った。

 血しぶきが暗闇の中に溶け込んでいく。


「次はリュウジの番だにゃ。どうするにゃ」

「今、考えている……」


 後ろは岩の割れ目。向こう岸までは跳べない距離。左右に走れば、死霊の騎士に後ろから襲われる。ここで動かなければ、ファイヤーリザードゾンビと対決。その後ろにはグールの集団である。


 絶体絶命である。

 その時だ。


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