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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第2話 御曹司のダンジョン転落死事件
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暗殺指令

 その入り口には青く光る球のようなものが浮遊している。時折、小さな青い稲妻を発しながら、空中を漂っているのだ。


「あれはプラズマボールだにゃ……」


 そう寧音がリュウジに話しかける。リュウジはその言葉に頷いた。プラズマボールは、意志をもたない生命体である。青白い光を発し、ダンジョンや森の中を浮遊している。

 冒険者がちょっかいを出さない限り、襲ってくることはないが、気まぐれのように電撃を発することがある。その電撃は強烈で喰らえば気絶させられてしまうほどである。

 知らない初心者の冒険者が剣で斬りつけようものなら、体を膨張させてものすごい電撃を発して自爆してしまう。この時の電撃は人を十分に黒焦げにしてしまうほどである。


「……困ったな。階段のところを浮遊していて、先に行けない」

「足音が近づいてくるにゃ……」


 ここへ来るときに避けたスケルトンの群れと思われる足音が近づいてくる。ここでプラズマボールがどこかへ行くのを待つ時間はない。


「ここで役立つとはな……」


 リュウジはルミイから買った収集瓶を取り出した。小さなモンスターを捕獲することができる魔法の道具である。この力を使えばプラズマボールを排除できる。

 リュウジはプラズマボールに近づき、そして瓶のふたを取った。魔法による吸引力でプラズマボールをたちまち吸い込んで閉じ込めてしまった。

 青く光る瓶をウェストポーチにしまうと、リュウジは4階への階段を下りて行った。 

「P案件のことで担当者と話がしたい。至急にだ!」


 ワミカの冒険者ギルドに立派な8頭立ての馬車が止まり、そこから豪奢な服を着た老人が下りてきた。大きな樫の木でできた扉を開けるとそう大声で係官を呼んだ。

 慌ててギルド職員が駆けつけた。その職員に老人はこう告げた。


「わしはガルマ・ソード伯爵。このギルドに依頼をしたスポンサーだ」


 すぐに奥の部屋へ通されて、アオイとワカバが対応することとなった。

 2人が部屋に入ると、老伯爵は右の親指の爪を噛み、イライラしている様子であった。


(これはクレームですね……)


 老伯爵の様子を見て、そう判断したアオイは、笑みを浮かべた。


「いかがなさいましたか、伯爵様」


 アオイは努めてそう静かに聞いた。すると老伯爵は思いがけず、こんなことを言ったのであった。


「もうクエスト調査官はダンジョンへ出発したのか?」


 伯爵の問いにアオイはその真意を測りかねた。仕事の催促に来たと思ったが、それとは違うニュアンスを言葉尻に感じたのだ。


「調査官は今朝ほど、出発しましたが……」

「クエスト調査官に救出部隊を出した方がいい」

「伯爵様、それはどういう理由ででしょうか?」


 アオイは落ち着いて、そう伯爵に理由を聞いた。


「わしの次男がルインの殺害を依頼した証拠をつかんだのだ」


 そう伯爵は吐き捨てるように言った。アオイは詳しい事情を伯爵に聞く。

 伯爵の次男オズワルド男爵は、伯爵家の跡継ぎになろうと画策。ルインが冒険者パーティ、ウオッカのメンバーの一人を買収したという。

 買収された仲間は、冒険の途中に事故に見せかけて、ルインを暗殺することを命ぜられたと言うのだ。


(そのメンバーは、スカウトのロディのことね……)


 アオイは買収されたとしたら、その人物が誰かすぐに分かった。どう考えても、冒険後に離脱したスカウトの男に違いない。

 ロディはルインを転落死させて、次男から報酬を得ようとしたが、次男からルインが確かに死んだという証拠を示せと言われたらしい。

 殺したという話だけでは証明にならない、何か証拠を持って来るようにと命ぜられたと言うのだ。


「これはわしが、ルインがまだ死んだと決まっていないと発言し、次の後継者指名を中断してしまったためなのだ。奴にとっては、ルインが死んだということを明らかにする必要が出て来たからだ」

(なるほど……)


 アオイは納得した。ルインが死んだということが確認されなければ、次男は家督を継ぐことはできない。

 焦った次男は、ロディに証拠を持って来るように命じたのだ。


「たぶん、今頃、その男はルインの死んだという証拠を探しにダンジョンへ潜っているはずだ」


 そう伯爵は言った。アオイもワカバも、伯爵の話には裏付けがあった。ウオッカのメンバー、スカウトのロディがダンジョンへ単独で入ったという情報を掴んでいたのだ。


「でも、ルインさんの死んだという証拠を取りに行った人が、どうしてリュウジさんを殺そうとするのでしょうか?」


 そんな疑問をワカバが口にした。伯爵はその疑問に答える。


「決まっていよう。調査官に殺害した証拠を掴まれたら、次男は逮捕されるだろう。今は刺客を送ったことをしらばくれている。裁判になれば奴が刺客を送って、わしのかわいい孫を殺したという証拠がないのなら、奴は無罪になろう」

「そういうことですか……」

「しかもだ。どうやらもう一人、刺客が雇われたらしい……。雇い主は不明だが」


 そう老伯爵は自分が知ったことを話した。これは次男のことを調べている途中で、知りえた情報である。伯爵はこの第2の刺客も次男が放ったと考えているようだ。


「刺客を雇ったと言いましても、今、あのダンジョンはギルドの管理下にあり、誰でも入ることはできません。いるのはクエスト調査官とウオッカに所属していたスカウトの男。そして、ギルドが雇った攻略のための冒険者です」


 そうアオイは話し、伯爵の言う第2の刺客については否定した。そのような人物はダンジョンには入れないはずだ。


「だが、この情報はかなり信ぴょう性があるのだぞ」

「と、言いましても……」


 ダンジョンの入り口には守備兵が守っており、その警備体制は24時間である。スカウトの男は、前の冒険で発行した許可証を持っていたため、うっかり通してしまった。

 それ以外だとA級冒険者のパーティしか侵入していないのだ。伯爵が言うように、第2の刺客がいたとしても、ダンジョンには入ることができなかったと見ていい。


「伯爵様。大丈夫です、クエスト調査官は強いですから。どんな妨害にも負けず、証拠をつかんで帰ってきますわ」


 アオイはそう自分に励ますように伯爵に告げたのであった。


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