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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第2話 御曹司のダンジョン転落死事件
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動く死体


「リュウジさん、本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

 ワカバはダンジョンへ入っていくリュウジの後ろ姿を見ながら、アオイにそう話しかけた。

アオイは以前、リュウジが危険な森から生還したことを知っているので、ワカバほどは心配していないが、それでもダンジョンは地上よりも危険度合いが大きい。

 一人だと戦うよりも回避が主体となるのだろうが、ダンジョンは狭く道も限られている。危険なモンスターに追い詰められれば、それで終わりだ。


「大丈夫よ。彼はクエスト調査官よ。それも凄腕という噂の……。なぜ、一人で調査するのかは分からないけれど、勝算のないところへは出かけないと思うの」


 そうアオイは答えた。幾分、妹分のワカバの不安を取り除くために自信ありげな口調だったが、実のところ、アオイも心配していた。


(リュウジさんは、なぜ、一人で調査に行くのか……)


 アオイの疑問は膨らんでいた。

 一方、リュウジは嘆きのダンジョンに足を踏み入れていた。左手には松明を握り、暗い道を黙々と歩いている。松明はダンジョンに入る前に作った自家製である。

 まっすぐな木の枝の先をナイフで十字に10cmほどの裂け目を入れる。そこに油脂を含む樹皮をはいで挟むのだ。油脂の多い樹皮は松系の木から調達した。

 松明によって照らされる範囲は限られる。しかし、多少、薄暗く歩きにくいだけで、1階は問題なく通過できた。問題はモンスターが現れる2階からだ。

 2階へ降りるとリュウジは松明を地面に落とし、土をかけて消した。そして、それを階段の壁に立てかける。帰りに再使用するのだ。

 松明を消すと暗闇となる。リュウジはゴーグルをバッグから取り出すとそれを頭に装着した。これは暗闇でも見える『暗視』の能力を秘めたマジックアイテムだ。


「リュウジさん……出発前に最新情報を入手しました」


 歩きながらリュウジは、ギルドから出発する前にアオイがリュウジに告げたことを思い出した。


「スカウトの男……ロディという名ですが、どうやらこのダンジョンに単独で入ったらしいという情報が得られました」

「単独で?」


 リュウジは思わず聞き返した。危険なダンジョンに一人で入ったということは、何か重要な目的があったからだと推察される。


(何のために……?)


 転落事故のキーマンの、常識ではありえない行動である。


(まず、証拠隠滅というのが考えられるが……。あとは……)


 ルインを殺すよう依頼した人間が、クエスト調査官が調査に入ると聞いて、命令を出したというのはあり得ない話ではない。

 もう一つの可能性は、依頼主がルインの死に疑問を感じたというケース。確かにルインが死んだという証拠を持って来いと命じられたことが考えられる。

 さらにリュウジを殺して調査の妨害をするということも考えられなくはない。証拠を探すのに邪魔であるからだ。スカウトなら、デストラップを設置してリュウジを殺すことも可能だ。

 だからと言って、調査を止めるわけにはいかない。リュウジを亡き者にすることを企てたら、逆に捕らえて真相を白状させることもできる。

 暗闇の中をリュウジは進む。松明なしに歩けるのは、頭に被った魔法のゴーグルのおかげである。 

 ダンジョンに徘徊するアンデッドは、明かりと音に反応してよってくる。このゴーグルは動くものを感知して対象を視認し、さらに認識しているモンスターについては判別して、視覚的に使用者に伝えてくれる優れものである。

 さらにリュウジが履いているブーツの裏は軟らかいゴムが張り付けてあり、石造りのダンジョンの床でも音を立てない。


「リュウジ、前方にスケルトン2体……こちらへ向かって来るにゃ。リュウジには気が付いていないみたいにゃ……」

「ああ……」


 リュウジは右に合ったくぼみにそっと体を隠す。

 カシャ……カシャ……。

 骨と石の床、金属の剣と骨があたる音がダンジョンの壁に反響する。アンデッドのスケルトンは、明かりと音に反応して対象物を攻撃する。

明かりを消し、音を立てずに物陰に隠れているリュウジを発見することはできない。

やがてスケルトンたちはリュウジが潜む場所から遠ざかっていく。十分遠くに行ったことを確認し、リュウジは再び、先に進む。


「リュウジ……何かあるにゃ」


 不意に寧音が警告をする。リュウジも感じ取っていた。歩みをゆっくりと慎重に行う。そして立ち止まり、地面にそっと手をついた。


「トラップがあるな……魔法トラップじゃない、手製の奴だ……」


 リュウジは小石を拾うと前方へと投げる。その石が地面に落ちた瞬間、その石めがけて四方八方から矢が飛んできた。合計8本が地面に突き刺さった。


「あ、危ないにゃあ……」


 リュウジは矢が飛んできた方向へ視線を向け、近づいて確認する。そこにはボウガンが置いてあり、安全装置が石の衝撃で外れるよう糸で止めてあったことを確かめた。

 明らかに人間が設置したトラップである。何も知らずに進んでいたら、暗がりから飛び出した矢にハリネズミのようになってしまっただろう。


「リュウジ、これは先に潜入したスカウトが設置したにゃ?」

「分からない……だが、可能性は高い。今、このダンジョンへ足を踏み入れているのは俺とそのスカウト。そして後から来るA級冒険者だけだ」

「厄介だにゃ。ダンジョンには面倒なアンデッド。そしてスカウトの罠もかわさないといけないにゃ……」

「……だが、それは真相を知る手がかりでもある」


 伯爵家の次男と長女のいずれかが、スカウトを雇ったと思われるが、スカウトを捕らえて口を割らせれば、一発で後継者の座を失う。


「さあ、ここからが本番だ」

「くさい臭いが充満してるにゃ……」


 やがて3階へと降りる階段。3階はアンデッドの巣である。主に徘徊しているのが『動く死体』。

 冒険者の死体に悪霊が憑りつき、生きている者を見つけると襲い掛かって来るのだ。

 ただ、体が死体だけに痛みが激しく、歩くときはゆっくりとした動作しかできない。時折、腐った汁を吹き出しながら、生きているものを追い詰めていく。

 冒険者パーティの場合、こういうのは攻撃して排除する。攻撃力が緩慢なため、初級レベルのパーティでもなんなく倒せるモンスターだ。


(だが、こいつの怖さは攻撃力ではない……)


 動く死体の本当の怖さは、その腐った体そのものである。それは病原体の塊で飛び散った血肉が目や傷口に入れば、様々な感染症を引き起こすのだ。

 できれば距離をとって倒したいモンスターである。

 リュウジは前方に10数体の『動く死体』を見つけると、そっと壁に背をつけて動きを止めた。

 動く死体たちは、まだリュウジを感知していない。「動く死体」も明かりと音で反応する。リュウジが動かなければ、こっち来ることはない。


「リュウジ、どうする……あいつらを排除しないと4階へは降りられないにゃ」

「……わかっている。道はまっすぐと右。右にも動く死体が3体。迂回するにしても戦闘は避けられない」


 リュウジは思案する。右に通じる道はさらに左へと曲がり、やがてまっすぐの道と合流する。3体しかいない右の道の方が危険が少ないが、戦闘に戸惑ると音を聞きつけた数十体が背後から襲い掛かることになる。


「おや……あそこの床、違和感がある」


 リュウジはそっと近づき、腰をかがめて手をつく。


「巧妙にカモフラージュしてあるが、これは落とし穴だな」

「先行しているスカウトが設置したにゃ……」


 先ほどの矢が飛んでくる罠と同様、以前の冒険者が探索した情報にはない罠だ。最近仕掛けられたものであることは間違いがない。


(これを使えば、動く死体共は排除できる……よし……)


 リュウジは落とし穴の構造を注意深く調べた。この罠は単純に床の上に乗れば落ちると言うものではない。床板が細いワイヤで支えられ、壁のレバーに取り付けられている。

 レバーを動かすと床が落ちる設計になっている。恐らく、スカウトがここに潜み、ターゲットが来たらレバーを引いて落とすつもりであったのであろう。

 そうじゃないとせっかく設置した落とし穴も、使う前にランダムに歩いている動く死体が踏み抜いて先に作動させてしまう。


(ここで待伏せしようとしたが、何かの理由で断念したか……。それとも先に進むチャンスを優先させたか……。どちらにしても、この罠は利用させてもらう)


 リュウジはそっとカバンを下ろすと、中から2つの石が革製の紐で結ばれた道具を取り出した。ボーラと呼ばれる鳥を捕まえるための道具である。

 武器として使う場合もあるが、相手を殺傷するという目的ではなく、足を絡めて動きを止めることができる。

 石の重量は2つで400gほどあり、レバーに引っかかればその重みで下げることは十分に可能だった。

 さらにリュウジは小さな箱を取り出した。そこには4つの車輪がついた車が入っていた。後ろの車輪を交代させるとゴムが巻かれて離すと進む構造になっている。

いっぱにゴムを巻けば、20mは進むことができる。だが、リュウジはゴムを目いっぱいは巻かない。

 その車にさらに小さなオルゴールを乗せた。ねじを巻けば3秒後に音楽が流れるものだ。


「これで奴らの関心を集めさせる」

「リュウジ、頭いいにゃ。ゴムの巻き加減も絶妙だにゃ」


 リュウジは車を地面に置いて手を離した。シュルシュルと車は地面を這うように進む。そして3秒後にオルゴールが鳴る。


 右側にいた3体の動く死体は、音のする地面を見る。正面にいた数十体の動く死体たちもきょろきょろと見えない視線を動かし、音のする方へと移動を始めた。


「グワグワ……」

「アーアー……」


 不気味な呻き声を鳴らしながら、動く死体たちは右側通路に集まる。車のおもちゃはリュウジがスタートさせたところから、12mの距離のところで停止した。相変わらずオルゴールは静寂なダンジョンの壁に似つかわしくない美麗な音楽をぶつけていた。


「よし……」


 車の止まったところへ、右にいた3体。正面から来た12体の動く死体が集中した。リュウジはボーラを頭上で振り回す。

 壁のレバーに絡みつくよう縦回転をさせる。

 やがてオルゴールの音楽が止まった。動く死体たちは、獲物の手がかりを失い、きょろきょろと挙動が乱れる。同時にボーラを投げたリュウジ。

静寂な空気を乱すブンブンという回転音に動く死体たちが視線をゆっくりと向けた。

 ボーラは回転しながら、壁のレバーに絡みつく。くるくると両端に取りつけた石が回転し、やがてカチンと石がぶつかって地面へと方向を変えた。

 ギギギ……。

石の重みでレバーが下がる。

ドサドサドサ……。

 床が落ちて動く死体たちは落ちる。ぐしゃぐしゃと肉片が潰れる音がしたが、リュウジは確かめることもなく、元の道を真っすぐに進む。その先には4階への階段がある。


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