アイテム屋
「リュウジさん、ルミイさんという方がリュウジさんを訪ねて来ましたが」
そう言ってリュウジの部屋にワカバがやって来た。その名前の人物の来訪は、あらかじめ知っていたのであろう。リュウジは軽く頷いただけであった。
やがて、ルミイがやって来る。大きな荷物を背負った小さな女の子である。体の何倍もある荷物からすると随分と滑稽な感じを見る者に与える。
「よいしょっと……」
そう言うとルミイは荷物を降ろした。ショートカットの髪が男の子みたいであるが、体つきはれっきとした女の子。年は15~16歳といったところだ。
「親父に言われてやって来たけど、ここまで遠かった~。リュウジさん、特注の品物やっと完成したので届けに来たよ」
そう言いながらもルミイは降ろした荷物の荷解きをし始める。どうやら、リュウジから頼まれた品物を運んで来たらしい。
「あの……ルミイさん?」
そうアオイはルミイに話しかけた。ワカバにはお茶を持って来るように目で合図しつつだ。
「何ですか、ギルドのお姉さん」
「あなたは?」
「ああ、これは失礼しました。自己紹介もせずに……。ボクはルミイと言います。冒険者ギルド公認のアイテム屋です」
「アイテム屋さんですか……」
「そうです。まあ、扱っているのはエンチャントアイテムですけどね」
エンチャントアイテムとは、魔法を付与したアイテムである。魔法の効果でそのアイテムがもつ効果を高めたり、攻撃力、防御力を高めたりする。
「リュウジさんが注文していた装備品を持ってきましたよ」
そう言ってルミイは、ゴーグル付きヘルメットを取り出した。黒い色のガラスで覆われたゴーグルであるが、ヘルメットと一体になっているところが変わっていた。
「これはガラスに特殊なライトの魔法がかかっているから、真っ暗なダンジョンの中でも敵を視認できる代物だよ。ガラスは魔法で強化されているから、戦闘でも大丈夫」
「助かる……」
「リュウジさん、あとトラップアイテムの補充しておく?」
そうルミイは聞いた。前回の調査で使ったトラップの補充である。リュウジはルミイが持ってきたトラップ魔法が封じ込められた玉をいくつか補充する。
「あとダンジョンで役に立ちそうなアイテムがあるのですが、買いますか?」
ルミイは片目を閉じて茶目っ気たっぷりにリュウジにそう尋ねた。
こういう時は、そのお勧めアイテムが大抵はしょうもないものであることが多いとリュウジは知っていた。
誰も興味を示さないレアなアイテムであるが、価格は安くお買い得といったこともある。
「どんなアイテムだ?」
ルミイはカバンの中をごそごそと探す。そして取り出したのは小さなガラスの瓶である。
「なんだそれは?」
リュウジは怪訝そうにそうルミイに尋ねた。
「魔物を捕まえられる収集瓶ですよ」
「収集瓶?」
「捕まえられるのは、身長30センチくらいの小さなモンスターですけどね。クエスト調査官なら、証拠収集のために必要かもしれないでしょ?」
「モンスターを捕まえるようなことはまずない……それに身長30センチって、ネズミやウサギの類しか入らないだろう……」
「てへへ……。親父にも同じことを言われました。でも、役に立つこともあるかもしれないですよ。解放したいときには瓶を割るだけですし」
「……使えないな」
「じゃあ、これはどうです?」
そう言ってルミイはガラス製の小さな玉を取り出した。これはエンチャントアイテムの定番。魔法玉である。
この中に魔法が封じ込められていて、地面に叩きつけて割ると封印されていた魔法が解放される。魔法が使えない人間にとっては、大変便利ではあるが、封じられているのはせいぜい中級程度の魔法である。
また大変高価なのでコストパフォーマンスが悪く買うのは、よほど懐に余裕のある者しかいなかった。
「封印されている魔法は?」
「鉄化……」
「……」
リュウジは沈黙している。どんな音でも聞き逃さないクエスト調査官が、聞こえなかったはずがない。
「鉄化魔法ですよ……」
再度、ルミイは封印された魔法名を口にした。
鉄化魔法とは、神官や僧侶が使う防御魔法。使用した術者の体を一定時間だけ鉄にする。この間の物理的ダメージはほぼ無効である。
これだけ聞くと非常に強力な魔法であるが、実はほぼ実戦では使えない。
なぜなら、鉄化状態は一度の衝撃でキャンセルされてしまう程度のものであるからだ。
そして鉄化が解けるとしばらくは体が硬直して動けなくなるという副作用もあった。
「よく封印できたな……」
リュウジはそうルミイを褒めた。使えないとは言ったが、このアイテムはレアである。なぜなら、鉄化魔法は僧侶や神官が使う神聖魔法の一種。
神による恩恵がもたらす奇跡だからだ。魔術師が使う古代ルーン語の組み合わせで起こる現象とは、根本的に違うのである。
「そうでしょ……。それを考えたらこれは、ものすごいアイテムだと思いますけどね」
「誰がこれを作ったんだ?」
「ガーフィールドさんですよ」
そうルミイはリュウジが知っているエンチャンターの名前を上げた。オリーバー・ガーフィールド。
70歳を越える老エンチャンターであり、国でも有名人であるが、こういう職業の人間にはよくある変人でもあった。
「あのじいさんらしいな……」
リュウジはそう言って3秒ほど考えたが、何かを感じたようであった。
「……よかろう。先ほどの収集瓶とこの鉄化魔法の玉。購入する。代金は?」
「はい、ありがとうございます。全部で金貨10枚はどうでしょう?」
「8枚と銀貨5枚だな」
そうリュウジは銀貨25枚ほど値切った。これはケチったと言うより、商習慣に従ったまでである。
「はい。それで結構です。いつもありがとうございます」
そう言ってルミイはぺこりとお辞儀をした。即決で決めたところを見ると、予定よりも高く売れたようだ。
「1週間はこの町にいるので、何かあったらこの宿へ訪ねて来てください」
そうルミイは言い残した。この町に住むエンチャンターに発注した品物を受け取ってから都へ帰るらしい。




