仲間の証言
「落ちたのは伯爵の孫だけではないようだな」
「あ、はい。彼に続いてつり橋を渡っていた女僧侶が一緒に落ちました」
「その女僧侶の年齢は?」
「えっと……23歳」
「ルインは21だったな」
リュウジはそんなことをつぶやいた。一緒に聞いていたワカバは疑問に感じて、リュウジに尋ねた。
「年齢は何か関係あるのですか?」
「……仮説の1つだ。気にするな」
リュウジはそう言うと、一緒に行動していた冒険者たちへの聞き取りを要求する。既に冒険者ギルドの方で、一緒に行動していた冒険者たちには証言を聞いていたが、再度行うと言うのだ。
幸い、ルインと同じパーティの冒険者は、冒険者ギルドにクエスト探しで来ており、ちょうどギルドの酒場で昼ご飯を食べている最中であった。
リュウジたちは、その冒険者たちのテーブルで話を聞くことができた。
テーブルにいたのは2人。あと1人いるがダンジョンから帰ってからパーティから離脱したらしい。
「またルインとサラの話か……。この前、証言したとおりだよ」
最初に話を聞いた戦士でパーティリーダーの男は、そうリュウジに面倒くさそうに話した。ただ、話すのを拒むような素振りはない。前の調査で話したことと同じことを話した。
「嘆きのダンジョン地下5階。あそこは難関なフロアだ。俺たちはオークゾンビ2体との戦闘をした。何とか勝利したものの、次に現れた死霊の騎士とグールの数体には勝てないと判断し、撤退を決めたのだ」
「オークゾンビに攻撃魔法を使い過ぎたので、これ以上は難しかったのですよ」
そう魔法使いの男も補足をした。地下5階までで予想以上にモンスターと遭遇し、だいぶ消耗したのだ。
「……それでルインとサラを殿にして、4階へと続く通路途中の岩の裂け目を通ったと」
「そうだよ。つり橋は辞めたスカウトが作った。スカウトはそういう仕事が専門だから、短い時間で設置できた」
そうリーダーの男は説明した。スカウトは、工具を使って岩の裂け目にロープで仮設のつり橋を作ったのだ。このつり橋のおかげで4階への階段までショートカットすることができた。
「騎士と僧侶はアンデッドには強いからな。神聖魔法と神の奇跡で死霊どもは寄ってこない。それにそれを2人が志願したからな」
そうリーダーの戦士は2人を残した理由を話す。その話におかしな点はない。仮にリュウジがリーダーだったとしても同じ判断を下したであろう。
「それで死霊の騎士とグールをひるませた2人は、つり橋を渡る途中にロープが切れたと……。つり橋の許容人数は?」
「頑丈に作ってあったからな。大人2人は問題ない。現に俺は重装備のままでウィザードと一緒に橋を渡ることができた」
リュウジは考え込んだ。代わりにアオイが質問を続ける。
「つり橋を渡った順は、リーダーとウィザード。次にスカウトで間違いはありませんか?」
リーダーは頷く。リュウジが再び質問を続ける。
「ロープの耐久力は?」
「かなり丈夫なロープで構築したばかり。ロープの摩耗は考えられない」
「となると誰かがロープを切ったことになる」
「それは何度も言ったが、2人が落ちた時、ロープに触れていた奴は一人もいない。それに切れたのは足を乗せていた1本と右のロープだ」
つり橋は3本のロープで作られていた。1本は足を乗せるもの。あと2本は左右の手でつかめるように張られていた。
これについては、リーダーの男を始めとして、つり橋を設置したスカウトの男。魔法使いの男がこれまでの取り調べで同じ証言をしていた。
ただ、3人とも口裏を合わせている可能性もあるし、ロープが摩耗で切れたのか、刃物で切断されたのかは証言でしか分からなかった。
(これは実際に現場に行ってみないとわからないな……)
物証についてはやはり現場で調査しないと分からない。リュウジは死んだと思われる2人の関係性を聞いてみた。
冒険者たちの答えは一様であった。パーティ仲間というだけで特につながりはなかったと言うのだ。
「新しい証言はなかったようですね」
そうワカバはリュウジにそう言ったが、リュウジはまんざらでもないという表情であった。それでアオイがさらに突っ込んでリュウジに聞いてみた。
「リュウジさんは、彼らの証言から何か分かったことがあったのですか?」
リュウジはアオイにちらりと視線を移した。そしてぼそりとこんなことを言った。
「少なくとも、今日の2人の冒険者たちは白だな。依頼を受けて殺害に手を貸したようには感じなかった……」
「え~っ。どうしてそんなことが分かるのですか?」
空気を読まないワカバがそんな質問をする。アオイは(めっ!)とワカバに目で注意を促したが、質問については興味深いと思っていた。
確かにアオイ自身も冒険者たちが嘘を言っているようには思えなかったからだ。
「装備だ……」
「装備?」
ワカバとアオイの頭の中は、先ほどの冒険者たちの格好が再現される。
「殺害を依頼されて報酬を受け取ったとする。大金を受け取ったなら、どこかに預けるか、換金できるものに変えるだろう。それに冒険者は金が入れば、武器や防具、装飾品に金を使いたくなるものだ」
「……彼らが冒険から帰った後に預けたお金は、報酬の金貨20枚だけです。これはパーティの口座もそれぞれの個人口座も同じです」
アオイは調査資料をめくって、リュウジの意見をフォローした。そして冒険者たちの格好は、ごく普通の中堅冒険者の装備であった。
特に高価なものを身に付けているものはいなかった。
「でも、宝石とかに替えてポケットに入れているかもしれないじゃないですか?」
「それだったら、町の宝石屋に問い合わせれば分かる。その報告も資料にはない」
このあたりの冒険者ギルドの調査はかなり信頼できる。各ギルドとの連携を通して、様々なことが浮き彫りとなってくるのだ。
「でも……ギルドの把握していない裏ルートとか……」
それでもワカバは食い下がる。だが、リュウジはそれには別の理由を答えた。
「彼らはルインが伯爵の息子であることを知らなかった……」
「ど、どうして、そんなことが分かるのですか?」
ワカバはますます首をひねる。冒険者と接していたのは、ほんの20分程度である。その短い時間にそれだけの証拠を集めたなんてとても思えない。
「彼らはルインのことを呼び捨てにしていただろう。もし、彼らが知っていたなら貴族に対しての不敬罪になる。どこかいいとこのぼっちゃん程度の認識ではあったが、伯爵の御曹司という認識がなかったことになる」
「それはリュウジさんの言う通りかもしれない。この事件において、ルインさんが伯爵の跡継ぎという情報は全く公開されていないわ。少なくとも事件後にも、その情報は彼らに伝わっていないはず……」
アオイもそう追従した。ただ、伯爵の御曹司と知っていて、演技をしていれば別なのだが、そう言う場合も長い尋問中に分かってしまうものだ。
伯爵の息子であることを知らないのであるならば、刺客に雇われてルインを殺すと言う任務を引き受けるはずがない。
「ただ、すぐにやめてしまったスカウトの男は、容疑者として考えられる」
「彼は取り調べ後にパーティを辞めて姿を消しました。怪しいと言えば、怪しいですが、先ほどのリーダーの方と魔法使いの方の証言ですと、直接手を下したようには思えませんが……」
「でも、アオイさん。どうしてスカウトの人はタイミングよくパーティを辞めてしまったのでしょうか。何か関わっていたから逃げたんじゃ……」
アオイの意見にワカバが突っ込む。スカウトについては、直接会っていないリュウジとしては、容疑者の一人としては考えるが、確定するための証拠は何もない。
ただ、事故が落ちたつり橋を製作し、彼が渡った次にルインとサラが渡る際にロープが切れたのなら、何らかの細工をしたのではと思える。
「スカウトの男の行方は?」
「まだ、この町にいるとの情報はあります。今、ギルドの総力を挙げて捜しています」
「そうか……」
スカウトの男に関しては、ギルドの捜査を待つしかない。リュウジは再び、推理を巡らせる。
(スカウトの男が関係していれば、その線から真相は解明される。だが、関係ないとしたら、ルインたちが死んだ理由は限られてくる……)
(1つは単なる事故。2つ目は別の刺客の存在。そして3つ目は自殺)
(そして……)
いずれにしても、これ以上は現場での調査が必要であろう。
「調査は明日に行う。今から準備だ。ダンジョンの地図と基本情報を頼む」
「では、リュウジさんがこの案件を引き受けるということで」
アオイは一応確認した。P案件はクエスト調査官が引き受けるかどうか本人次第なのだ。リュウジは何も答えずに立ち上がったが、それが引き受けると言う合図であった。




