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異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第1話 グレイウルフの森全滅事件
29/83

解決

(……確かにリュウジさんが言ったとおりだわ。ズーホフの口座には大金が預けられた形跡がない)

 

 アオイは夜遅くまで調査室で調べ物をしている。リュウジに事件の黒幕を探すよう依頼されていた。やっていたのは資金の流れの調査である。

 ズーホフは全滅したパーティの財産を相続しているのだが、自分の口座には大した金額を入金していない。例えば、金貨500枚を相続しても、自分の口座には50Gほどしか入れていないのだ。


(分かっているだけでも、金貨4000枚の収入があったはず。だけど、ズーホフの預金は300Gにも満たない……)


 金貨は重い。大抵の人間は、数十枚くらい残してギルド銀行に預ける。その方が安全だし、必要ならば24時間開いている冒険者ギルドで出金することもできる。


(あれ?)


 アオイはズーホフの金の流れを調べていて、気になることがあった。2年前に郊外に別荘を金貨2500枚で購入している記録があったのだ。


(これだと……ズーホフは不動産購入に儲けたお金を使っていることになる……だけど……)


 アオイはさらに調べると、その別荘の現在の所有者は、カタリナという名前の女性であった。


(おかしいわね……このカタリナという女性……24歳で職業は町のレストランのウェイトレスだったとある。とても金貨2500枚を出せるとは思えない)


 アオイの疑問は調べるとすぐに理由が分かった。なぜか、ズーホフはこのカタリナという女性にわずか金貨1枚で別荘の所有権を売っているのだ。


(……どういうこと?)


 考えられるのは、このカタリナという女性がズーホフの愛人か何かで、こういう形で財産を譲渡したということ。

 だが、アオイはその線は違うような気がしていた。ズーホフがいくら金を持っていても、何だか生理的に受け付けない感じがして、女性は相手にしないと思ったのだ。

 アオイはカタリナについても調査を進めた。彼女は羽振りがよく、このワミカの町でも高価な宝石やドレスを買っていることが分かった。

 今はウェイトレスもやめて、どうやら2年前からある男の愛人となったようだ。

翌日、アオイは知り合いのエージェントに命じて、カタリナを尾行させた。

 彼女を囲っている羽振りのよい男の正体を調べたのだ。愛人は町でも派手な生活をしていたから、そしてエージェントは見事にカタリナと一緒にデートしていた男の写真を撮ることに成功した。

 今、アオイの机の前にあるのが、その写真の入った封筒である。夜の冒険者ギルドのオフィスは静まり返っており、向かいの建物の酒場で騒ぐ冒険者たちの乱痴気騒ぎがかすかに聞こえる。


(この2日間、調べて来たけど……この封筒の中の写真の人物が黒幕かもしれないと考えると少し怖いわ……)

 

 自分の信念でここまで調査を行い、核心部分まで迫ったのだが、ここへ来て、リュウジと支配人の言葉が重くのしかかる。


「黒幕は追及する人間を闇から闇へ葬る……」

「黒幕を追及すると命にかかわるぞ……」

(……いいえ。悪は許してはいけない。ズーホフの金の流れをたどって、やっと掴んだ手がかりなんですもの)


 アオイは勇気をもって封筒を破った。そう言えば、この写真を撮ったエージェントは姿を見せていない。この写真を郵送で受け取った後、連絡が取れなくなった。本来なら、アオイに手渡しするはずだったのに、郵送にしたことは不審であった。


「えっ!」


 封筒から取り出した写真。そこに映っていた人物。

 金髪の長い髪が美しい女性と中年の男。その人物は、よく見知った顔であった。


「うそ!」


 思わず声を出してしまったアオイ。

 その時だ。

 突然、明かりが消され、物音がした。何者かが侵入して来た音。


「うっ……」


 一瞬で首が紐のようなもので背後から絞められた。息ができない。だんだんと意識が遠のく。


(こ、これが……黒幕を追った代償……)


 今から思えば、アオイが調査を依頼したエージェントもこうやって始末されたのかもしれない。

 

 バキッ……。

 

 人を殴りつける音。同時に首の締まりがなくなった。アオイは床に這いつくばり、はあはあと呼吸をする。


(リ、リュウジさん……)


 アオイは自分を助けてくれた人物の顔を見て驚いた。仕事を終えてさっさとこの町を出て行ったクエスト調査官のリュウジだ。

 そして、自分を襲おうとした人物。先ほど、愛人と一緒に映っていた人物であった。


「し、支配人……」


 アオイの首を絞めて殺そうとした人物は、ワミカの町の冒険者ギルドの支配人、タンゾウであった。


「まんまと罠にはまったようだな」

「き、貴様、この町から去ったはずでは……」


 リュウジに向かって憎々し気にそう言い放つ支配人。それに対してリュウジは自信たっぷりに返す。


「去ったふりをしただけだ。黒幕が自分への追及を恐れて証拠隠滅に動くのを待ったのだ。こんなに早く動くのは予想外だったが、それはそこの統括官が優秀だったことによるが」

「く、くそ……最初からこの私を疑っていたのか……」

「俺がこの事件で派遣されたのは、ズーホフへの疑いからだが、本当の目的はあんたの調査だ。ギルドの内部調査であんたに不審な点があったからな。これまであんたは慎重だったが、この地方の町に来て油断したようだな」


 バタバタバタ……と人が駆けつける音。タンゾウも観念した。目の前のクエスト調査官は、自分が倒せる相手ではない。


「ワミカ冒険者ギルド支配人、タンゾウ。冒険者殺害の罪、財産の不当な搾取の罪により、逮捕する!」


 リュウジはそう宣言した。

 連れて行かれるタンゾウを見ながら、アオイはリュウジに話しかけた。


「リュウジさん、最初から支配人が黒幕だと知っていらっしゃったのですね」

「……疑ってはいたが、ズーホフの脱出法を知って断定した。1日早い救出の命令を出したのは支配人だろう」

「はい……。そういえばそうでした」

「ズーホフが旧仲間に出会って、それを殺害してしまったが、タンゾウはそのイレギュラーを知って慌てていただろう?」

 

 アオイは思い出した。リュウジが最初にこのギルドに来た時、タンゾウは職員からの報告で顔を青くして出て行った。あれは救出部隊に参加した隊員が一人行方不明になったとの報告であったが、思えば異様な感じであった。

 普通は隊員が帰ってきてから、失踪したと思うだけだが、タンゾウとしてズーホフの救出に行かせた救出部隊が、ズーホフを救出せず、そしてその隊員が一人いなくなったと聞けば、予定が狂ったと思うであろう。

 ズーホフは隊員を殺して入れ替わり、密かに町の安宿に潜伏していたが、そのことを自分の所属する組織に知らせることができなかった。

 やっと連絡できたのはリュウジが探索から帰った後。組織の指示を受けて行商人に助けられて生還したという演出をするわけだが、この時点でタンゾウはズーホフを切り捨てたのだ。

 リュウジの助言でアオイが町から出る人間のチェックを強化していたことも大きい。これにより、ズーホフを町から逃がすこともできなくなった。

 ズーホフは黒幕がギルドの支配人タンゾウとは知らず、タンゾウが作った組織の末端で冒険者パーティを全滅に導く仕事をやっていたのだ。

 組織トップのタンゾウを捕らえたのだ。その中間層の犯人たちもいずれ捕まるだろう。


「リュウジさん、お疲れさまでした。今から、飲みに行かれるのでしたら、私も付き合います。もちろん、私の驕りで」


 そうアオイはリュウジを誘った。命の恩人でこの事件の解決の立役者である。それくらいのお礼は当然だ。曲がりなりにも自分は若い女性で、若い女性と飲みに行く誘いを断るおっさんはそうそういない。


 だが、リュウジの答えは素っ気なかった。


「断る!」

「え、えええええええっ!」

「任務後の酒は、ぼっち酒に限る!」


 呆気に取られて立ち尽くすアオイを置いて、リュウジは颯爽と出て行った。


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