表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ぼっち酒 ~クエスト調査官リュウジの事件簿~  作者: 九重七六八
第1話 グレイウルフの森全滅事件
27/83

誤算

「予定が狂ったのだろう?」

「え?」

 

 アオイはこの瞬間にラディの顔色が変わったことに気づいた。顔から汗がたらりと流れ始めた。


「当初は救出部隊に助けられる予定だったが、やって来たのが想定外の人物だった。それがこいつの誤算」

「……」


 沈黙するラディを尻目に、リュウジはアオイにこんな質問をする。


「なあ、あんた。ギルド職員なら知っているだろう。全滅したパーティの共有財産の取り分はギルド法でどう決まっている」

「そ、それは簡単です。全滅したパーティの財産は個人の私有物を含めて、ギルドで整理しして遺族に引き渡します」

「生き残りがいた場合は?」

「その場合は、共有財産は生き残った冒険者に100%譲渡されます。個人の持ち物や個人名義の財産は遺族に。引き取り手がない場合は、それも生き残った冒険者のものです」


 これはギルドに加盟した冒険者に適応されるきまりだ。生き残った冒険者に手厚いのは、再起を支援するという意味と敵討ちという意味合いがあるからだ。 

 また、冒険者は家族のつながりがあまりない者もおり、遺族を探し出すのも困難なケースが多い。


「冒険者パーティ、カルバトスの共有財産はいくらだ?」

「ええっと……。ギルド銀行で保管してあるものは、金貨120枚。宝石、貴金属が金貨80枚相当」

「中堅パーティとしては結構な財産だったわけだ」


 リュウジはじろりとラディをにらむ。ラディの額からは汗がどんどん流れ、慌ててポケットから出した布で抑えている。


「わ、わたしがパーティの財産狙いでルースの奴をたきつけたと言うのですか……何を証拠に!」


 やっとラディはそこまで言い返した。よくよく考えれば、ルースをたきつけたという証拠は何一つ提示されていない。


「確かにしれっと救出部隊に名乗り出て、町へ帰って来たのならお前は疑われずにパーティの財産をまるまる受け取れるはずだった。ところが、お前を探し出したのは、前パーティで一緒だった男だったのだろう。全く、悪事はできないよなあ」

「し、知らない。そんな架空の話をされても知らない」

「お前が沢で出会ったのは、前パーティで一緒だった、ルロイ。ちなみに前パーティは全滅して、お前が共有財産を全額受け取った。ルロイはダンジョンで全滅したと思われていたが、奇跡的に生き残っていた。彼はお前のことを探していたのだ」

「ルロイ、一体誰だよ。それに何だよ、お前はさっきから偉そうに。知ったかぶりでそんな作り話をしやがって!」


 怒り始めたラディ。言葉が急に乱暴になる。だが、リュウジはそっと腰に付けてある金属プレートを取り出した。その紋章を見たラディは驚いて黙る。『真実の目』と呼ばれる人間の目玉を象った紋章である。


「クエスト調査官……」

「ラディは偽名。本当の名前はズーホフ。マルディン・ズーホフ。本当の職業はシーフ。もうな何年も前から調査対象として出頭命令が出ている男だ」


 その名前を聞いてアオイは慌てて、冒険者ギルドから指名手配されているリストをめくる。


「マルディン・ズーホフ。所属するパーティがことごとく全滅することで、疑惑をもたれ、何回か取り調べを受ける。今回はレーティフダンジョンのパーティ全滅事件で疑惑があり、出頭命令が出ている男です」

「ち、ちょっと、待ってくれ……。ズーホフなんて知らない。私はラディ。ヒーラーのラディだ」


 慌てて否定するが、リュウジは先ほどの話を戻す。


「救出部隊に参加していたのは、前パーティで生き残った男。偶然にもお前は出会ってしまった。彼はお前の行状を知っており、当然ながら今回の事件にも疑問をもつ。それでは困るお前は彼を殺して、彼になりすまし、救出部隊の一員として町に帰還した」


 救出部隊はギルドで募集する。いわば、寄せ集めの集団である。初めて会う人間も多いし、単独で参加するものも多い。

 ラディこと、ズーホフは隠れて観察するうちに、この男が単独で参加していることに気が付いた。

 このまま、名乗り出れば気づかれて、通報されてしまうことは確実。単独ならば人気のないところで殺して、すり替わってもばれる可能性もない。

 背格好も同じくらいだし、なにより、マスクで顔を覆っている風貌であったからなおさらであった。


「町に帰ったお前は宿に潜伏し、ほとぼりが冷めたら名乗り出て、パーティの財産を全てかっさらうつもりだった。だが、クエスト調査が行われると知って慌てて名乗り出た。調査で万が一、疑惑を持たれたら困るからな。名乗り出て、嘘の証言をすれば、ほぼバレないと考えたのだろう」

「うっ……嘘だ、いくらクエスト調査官でもそんな妄想が通じるはずがない」


 トントンとドアが叩かれて、先ほどリュウジがメモを渡したギルド職員が現れた。そしてラディをちらりと見ながら、耳元で何やらしゃべった。


「支配人、この男が5日前から北地区の冒険者宿に宿泊していたことが判明しました。偽名を使っていましたが、特徴、人相すべて一致しています。あと、彼を助けたと言う行商人は確認できません。そもそも、彼が助けられたと言う日に北門から入ってきた行商人は30人ほどですが、全員に証言が取れました。そのような男は助けていないと」

「な、何だと!」


 ラディは森から脱出して商人の馬車に救われたと言って出頭してきた。それが真っ赤な嘘であったことが事実として提示されたのだ。


「ラディ、いや、ズーホフ。お前を今回の事件の容疑者として逮捕する」


 ギルド支配人のタンゾウがそう命ずる。ラディは暴れたが、冒険者ギルドの警備員が3人がかりで取り押さえる。床に組み伏せられたラディに、リュウジが話しかける。それは部屋にいた全員に聞こえる声であった。


「まだ終わりじゃない。この犯行は貴様のような小物の金目当ての犯行じゃないよな。貴様の背後にいる黒幕のことを話せよ」


 アオイは驚いた。そして今までのリュウジの言動が全て黒幕というキーワードでつながった。


(この人……最初からその黒幕がターゲットだったということ?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ref="https://narou.dip.jp/rank/index_rank_in.php">小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ