ヒーラーの証言
「本当の犯人は別にいるですって?」
アオイは思わず声を上げてしまい、慌てて手のひらで口を押えた。レンジャーの男が仲間を殺害して、グレイウルフを落とすために作った落とし穴に死体を埋めた。
落とし穴は柵の後ろに設置され、万が一、柵を突破された時に落とすようになっていた。
ロープをつかった吊り下げ式の蓋で覆われ、ロープを切れば作動する。深さは3mほど。人間なら3人は入れる深さと広さだ。
それならば、合点がいく。そんな穴をグレイウルフが襲って来るのに一人で掘るなんてことはできない。
そして実際にリュウジが指摘した通り、穴からは3人の遺体が見つかった。
「リュウジさんは、真の犯人は誰だと言うのですか?」
そうアオイは聞いたが、もうアオイにも犯人は分かっていた。この時点においてパーティでただ一人、行方不明の男である。ただ動機が分からない。
(そして……なにより……)
ドンドンと扉を叩く音がする。アオイは思考を止めてドアを開ける。
「大変です。全滅したカルバドスのメンバーの一人が生還しました」
扉を開けた人物は、ドアを閉める間もなく、そうまくしたてた。この事件がこのギルドでは重要事項なだけに、得られた情報を急いで告げようと思ったらしい。
まだ、10代後半で見習いと思われる少年は、慌てて走って来たらしく息を切らしながら続けた。
「ヒーラーをしていたラディという男の人です」
「なんだと……すぐ、事情聴取を行おう。生き残りがいれば、問題は解決したのも同然だ」
そうタンゾウは言い、アオイとリュウジに同意を求める様に視線を送った。確かに、生き残ったラディから事情を聞けば、この事件の真相は明らかになる。
リュウジは両手を軽く上げて同意した。アオイは怪訝そうにリュウジの表情を見る。そして小声で尋ねた。
「ヒーラーの男が生きていることをリュウジさんは予想していたのですか?」
「……ああ。予想通り、早く動き始めたようだな」
「予想通りって……」
「ギルドから調査官が来るって話を聞いて、急いで動き始めたのだろう。だが、調査官が俺だったことが奴には誤算だった……」
「誤算だったって……」
アオイは何が何だか分からない。先ほどまで、パーティは仲間割れで全滅し、その犯人はレンジャーの男だとリュウジは話していたではないか。
(それじゃ、まるで……)
ラディの姿はまさに死地から生還したという状態。服はボロボロで全身擦り傷だらけ。疲労困憊した様子で椅子に座っていた。
「森から脱出し、道端で倒れているところを行商人に保護されたとのことです。自分からここへやってきたようです」
やって来たタンゾウとアオイ、リュウジに状況を説明するギルド職員。さっそく、タンゾウはラディに尋ねる。
「お前がカルバトスのヒーラー、ラディか?」
「はい……」
「パーティが全滅したことは知っているな」
「……はい」
「話してくれないか。一部始終を……」
ラディは疲れ切った表情であったが、ゆっくりと目を閉じ、時折、顔をゆがめていたが、ゆっくりと頷いて話し始めた。
「我々はリーダーのゴードンの作戦で、クエストはほぼ成功しそうだったのです。グレイウルフの群れの半数を撃破して、いよいよ、明日にはとどめをさせる状況だったのに……」
そこでラディは息を止めた。そして興奮を抑える様に続きを話し始めた。
「殺ったのはレンジャーのルースです。奴は魔法使いのフランとできていました。ところが、フランはパーティ仲間のゴードンとブルーノともできていた」
アオイは調査書の書類をペラペラとめくる。ラディの話す内容を裏付けした調査内容があったことを確認したのだ。
「フランさんの交友関係の広さは、ギルド内でも密かに有名でした……あの……その……」
「アオイ、はっきり言いなさい」
言葉を濁すアオイにそうギルド長のタンゾウは叱責する。アオイは慌てて、言いにくいワードを口にした。
「お金をもらって誰とでも寝る売女と言われていたそうです」
「そうなのですよ。それを知らなかったのはルースだけ。それで奴はフランの奴がゴードンとブルーノに脅されて手籠めにされたと思い込んだのです」
「それで、ルースが冒険中に不意をついて仲間を殺したと?」
タンゾウの質問にラディは頷く。だが、それだけでは納得はさせられない。
いくら不意をついたところで、ルースはレンジャー。ベテラン戦士であるゴードンとブルーノを簡単に殺せるはずがない。




