とある冒険者たちの記録 その2
ヒーラーのラディが加わって、3日ほどが経った。天候は徐々に悪化して、明日には雨が降りそうな感じであった。
冒険者ギルドで昼間から酒を飲んでいたのは、レンジャーのルース。戦士のブルーノも魔法使いのフランもいない。リーダーのゴードンは、明日からの出発の準備に忙しい。
「おや、ルースさん、昼間からヤケ酒ですか?」
そうルースに話しかけたのはラディ。ニコニコした好々爺な表情でルースの目の前に腰かけた。
「ああ、ラディさんか」
エールのジョッキを煽ってルースはそう答えた。
「随分と機嫌が悪そうですが……もしや、フランさんのことで?」
ラディにそう言われて、ルースは酔いがいっぺんに冷めた様子で、ラディのニコニコした笑顔を思わずにらんだ。
「ど、どうして……それを?」
「そんなこと分かりますよ。この3日間、あなた方を観察していれば」
そうラディは何でもないという表情である。そして、核心に迫った。
「あなたとフランさん……できてるんでしょ」
「な、なんで!」
「驚くことはありません。あなたの彼女を見る目。あれは男女の仲になった目ですよ。わたしくらい年を取れば、雰囲気で察しがつきます」
驚くルースに事も無げにラディは答えた。その答えを聞いて、ルースは今の悩みをこの中年男にしゃべってもいいような気になってきた。
パーティの加わった年長者である。今、自分が困っていることに対して、なにかよい助言ができるかもしれない。
「フランに告白したのは、2週間前。前回のクエストを成功させた晩なんだ。前から好きだったので、思い切って告白したんだ」
「それで……」
「ダメ元だったんだけど、フランはOKしてくれた。その晩、抱き合って寝たんだ。彼女の体、ほんと、とろけそうで最高だったなあ……」
先ほどのしかめっ面とは違い、ほんわかとした情けない表情になるルース。
「それは羨ましいですなあ……。フラン嬢はなかなかの美人でグラマーですからな。まあ、この枯れたわたしには関係のない話ですがね」
ラディはそう話したが、口元が少し上げてさらに続けた。
「そんな彼女が最近、冷たくなったとかですかね」
ルースはギョッとしてラディに視線を向けた。どうして知ってるのだと言う表情である。
「どうしてそれを?」
「おや、あてずっぽうでしたが……当たりましたか?」
「当たったと言うか……。フランの奴、金を無心するんだ。一緒に寝るたびに金貨3枚。それに冒険で得た報酬の半分。故郷に残してきた家族への仕送りとか言ってるけど……」
「そりゃ、彼女に経済的な援助するのは男の務めじゃないですか」
そうラディは言ったが、ルースの疑惑への答えにはなっていなかった。というより、ラディ自身、フランの行動について何か知っているような雰囲気を出していた。
「……家族に仕送りって言っても、彼女の装飾品、相当に値が張ると思いませんか。それに噂じゃ、夜な夜な高級クラブで遊んでいるというし……」
「そうですね。派手な感じの女性ですからね。家族に仕送りと言っても、ちょっと信じられないかもしれませんね。まあ、ちょっと、気になることもなくはないし」
そうラディは意味深なことを言って黙った。そして視線を送ってルースの反応を見る。その言葉にルースは過敏に反応した。
「気になるって……ラディさんは何か知っているんで?」
「いや、ちょっとね。先ほど、フランさんがゴードンさんの部屋に入っていくのを見たので」
「えっ……」
驚いた顔のルース。フランは冒険の準備のため、魔法具の補充に行くと話していたからだ。
「ゴードンさんと打ち合わせとは思いましたが、何だか雰囲気がちょっとね」
「ど、どういうことですか?」
ルースの反応にラディは慌てて訂正をする。
「あ、いや。たぶん、作戦会議だと思うんですけどね」
「作戦会議って……。リーダーの個室で会議なんかできないよ。あの部屋はほぼベッドしかなくて……」
「ああ……。それは知らなかったです」
ラディは少しだけ唇の端を釣り上げた。ルースは頭を抱えている。
「今から見に行きましょう。大丈夫ですよ。たぶん、打ち合わせだと思います。恋人であるあなたを裏切るようなことはしませんよ。フランさんもゴードンさんも立派な方だ」
そうラディはトントンとルースの肩に手を置いた。そして立ち上がるように促した。少し酔っていたルースは、ラディに支えられるように立ち上がる。




