魔法トラップ その1
「数は……10にゃ」
「多いな。勘弁してくれ……」
10匹が一斉にリュウジに飛び掛かってきたら、間違いなく殺されてしまうだろう。リュウジのメイン武器は2本の短剣。
危険な場所に赴くクエスト調査官にしては、あまりにも軽装である。
但し、2本の短剣は一般的な短剣であるが、それぞれ形状が違っていた。1本は右手用。『バゼラード』と呼ばれる短剣である。
これはガードと並行した棒状のパメルが特徴で剣身は楔型。刃厚は薄く平ら。短剣ながら斬撃にも適したものだ。
もう一本は左手用。これはパリーイングダガーと呼ばれるもの。
防御のためのもので、主に相手の剣撃を受け流すのに使う。リュウジのものは歯が櫛型になっている。
これは受けた瞬間にひねり、剣を折ることができる、『ソードブレイカー』と呼ばれるものであった。
今の状況ではソードブレイカーは意味がないので抜いていない。かといって、グレイウルフにバゼラードの攻撃力は心もとないが、これがメインの武器である以上、頼るほかはない。
リュウジはバゼラードを握って、ひたすら走る。しかし、人間よりもグレイウルフの方がはるかに足が速い。
「リュウジ、来るよ、右後方!」
「がううううっ……」
足の速い一頭が飛び掛かってきた。寧音の声に反応し、リュウジはわずかに左へ体をそらせ、そして右手に持った短剣で突き刺した。
「キャウウウン……」
鋭い悲鳴を浴び、血を飛ばして一頭は後方へ飛んでいく。さらに左から近づいてくる音がする。
「リュウジ、もうすぐ到着にゃ!」
リュウジは目を凝らす。ここへ来る前に木に目印として付けてきた黄色いリボンをだ。
「よし!」
最初のリボンを見つけた。リュウジは走りながら、前方へジャンプする。上には太い枝が。それにつかまると勢いをつけてさらに体を前へ投げ出す。
あまりの勢いに体勢を崩し、前方へ3回転してしまう。最後は受け身を取った。
その瞬間、ボン、ボン……と鈍い音が炸裂する。同時に甲高い、狼の鳴き声が2つ聞こえる。
「やったにゃ!」
リュウジは振り返る。血まみれになった2頭のグレイウルフが転げまわっている。前足がきれいに吹き飛んでいる。
「これで3頭……」
「魔法トラップ大成功にゃ!」
魔法トラップとは、トラップ魔法を仕込んだ魔石によるもので、込められた魔法によって様々な罠を発動することができた。
今回のトラップは、その1つ。魔法地雷である。魔法効果が及ぶエリアに踏んだ瞬間に起動する罠で、火炎を巻き上げ、小爆発するタイプのものだ。
威力は足を負傷させるものであるが、その威力は2頭のグレイウルフを見れば分かる。
リュウジはこの森に入ってまずやったこと。それは退路の確保。あらかじめ、帰りのコースを想定し、魔法トラップを仕掛けていたのだ。
「リュウジ、まだ追って来るにゃ」
「ああ。仲間を傷つけられて怒り狂っている」
「捕まったら、八つ裂きにされるにゃ」
追って来るグレイウルフは、まだ7頭もいる。
再び、リュウジは走る。
「リュウジ、次の黄色いリボンまであと8m」
リュウジは2,3歩進んで跳んで枝につかまる。しかし、今度は爆発音はしない。
グレイウルフは賢い。2度も同じ手に引っかかることはない。追ってきた2頭はすぐに左右へ飛んで地雷を踏まないように避けた。
「そう来ると思ったよ!」




