野営
リュウジは調査にあたるときには、いくつかの仮説を立てて行く。
その立てた仮説に引っ張られて証拠を見誤る危険性もあるが、仮説があることによって見つけにくい証拠を発見することもできる。
(全滅する原因が冒険者たち自身の場合、最も多い理由は仲間割れだ……)
これは今まで多くの冒険者の失敗の原因を調査してきたリュウジの経験から、導き出した答えだ。ただ、それはリュウジの真の目的に迫るものではなかったため、少し落胆していた。
「どうやら、この事件に奴らは関わっていないようだな」
「それはある意味、いいことだにゃ。うちはリュウジが死んでしまうのを見たくないにゃ」
「何を言っている、寧々。俺は勝って……いや、よそう」
そうリュウジは言いかけて言葉を飲みこんだ。なにやら考えて行動をしないので、寧々がしびれ切らした。
「リュウジ、そろそろ次の行動をしないと困るにゃ」
「そうだな……ここまで思ったよりも時間がかかってしまった」
もう日が傾きかけている。夜の森は危険だ。
特に夜行性のグレイウルフが活発になる時間。しかも、リュウジは一人だ。安全な場所を確保する必要がある。
「この場所はいいと思うにゃ。下もいいけれど、ボッチのリュウジじゃ、寝ている時にガブリで終わりだにゃ」
「ここは崖の上だからな」
冒険者がグレイウルフと戦った場所は、崖や岩に囲まれた非常に守りやすい場所である。
多人数ならこの場所に野営できる。現に全滅した冒険者たちも後からやって来た救援部隊もここを拠点とした。
しかし、リュウジは一人である。もし、グレイウルフがやって来たなら、そこでは防ぎきれない。となれば、今いる崖の上の場所がシェルター設営の候補地となる。
崖を登ったところは、岩場で5mほど平らであるが、あとは3方向木々や草、岩に囲まれている。
小動物なら近づけるが大きな動物はやって来れそうもない。少なくとも、何か近づいてくれば、音がするだろう。
「あの木がいいんじゃないかと思うにゃ」
木彫りの寧音がそう言った。リュウジは木を見る。
斜めに幹が曲がっている木を見て、今夜のシェルターの設置先を決定した。周辺には森らしく適当な長さの倒木が何本も地面に転がっている。
それらを組み合わせ、吊り下げ型のシェルターを作る。これは高床式なので、地面から来る冷気を防げるのだ。
まずは長い二本の倒木を曲がった木の幹に結びつける。それを横へ突き出させ、先端を曲がった木の上から吊り下げたロープに結び付ける。
2本の倒木の間はロープで巻き付けて床にする。葉がたくさんついた枝を切ってきて、ロープの上に置いていくと一人用のベッドが完成する。
さらに左右に建てかえるように葉が付いた枝を置いてゆけば、シェルターになる。雨が本格的に降るとさすがにもたないが、夜露と風からは十分に身を守れる。まるでミノムシになったような気分を味わえるベッドである。
さらに葉の中に体を沈めれば、臭いも消せる。ギルドから迎えに来るのは、2日後の朝である。ここで二晩過ごさなければならないから、拠点づくりは重要である。
「少々、寝心地は悪いけれど、贅沢は言えないにゃ」
「これで十分だ」
さらにリュウジは太い丸太を2本、橋のように置いてロングファイヤー型のかまどの基礎を作る。そしてその2本の丸太の間に細い木を置き、枯れた葉を焚き付けにする。
準備ができたところで、リュウジはウェストポーチからファイヤースターターを取り出した。軽装を主とするリュウジが、厳選されたアイテムの中から、必ず持っていくのがこれだ。
ファイヤースターターは、マグネシウムでできた棒だ。それをナイフで削る。削れて粉が積もる。さらに激しくこすると火花が散って削ったい粉に引火するという仕組みだ。慣れは必要だが、これで火を起こす労力がかなり削減できる。
リュウジは何か一つだけしか道具を持っていけないとなったら、ファイヤースターターを持っていくと決めている。
町にいるとそうは思わないが、火を起こすというのは、道具がないと大変な労力を使うのだ。
危険な場所で過ごす時に、木と木をすり合わせて火を起こすという悠長なことでは命とりとなるのだ。
やがて、火がついて木の下から舐めるように火が起きてくる。火は薪の間に存在するといわれるが、こういう状態になると火持ちもよいし、調理するにも便利だ。
ただ、リュウジが焚火をしたのは、調理のためではない。動物除けと暖房のためである。また、携帯してきたボトルに水はあるが時間も経っているために悪くなっているかもしれない。ここで沸かして飲むのだ。
食事はウエストポーチ内にある携帯食。これは冒険者用の携帯食で、ナッツ類をチョコレートで固めたバーだ。
カロリーはこれで取れるから、2日くらいは問題ない。
下手に肉などを現地調達して、ここで焼くとその臭いで危険な生物を呼び寄せるかもしれない。一人だと危険回避には常に気を遣わないといけないのだ。
携帯食をかじり、沸かした湯を飲んだリュウジは、残った湯で歯を磨いて先ほど作ったベッドに潜り込んだ。
ウォーン……ウォー……。
遠くで狼の遠吠えが聞こえる。また、奇怪な鳴き声が時々聞こえてくる。高台だけに森中の音を拾うようだ。
「リュウジ、お疲れ様」
「ああ……。寧音も疲れただろう」
「うちはいつでも眠れるにゃ。周りは警戒しているからリュウジが寝るにゃ」
「では、任せるとしよう」
リュウジは目を閉じた。




