赤い茸
さらにリュウジは背後の崖をつぶさに観察する。15mにも及ぶ土の壁は固く、ところどころ、石が表面に突き出ている。
よく観察すると、壁に足跡が薄っすらと残っている。これはアオイの調べた資料の中にあった。靴の跡はレンジャーのもので、彼はここを登ったことが推測された。
なぜなら、彼のもつ武器は弓矢で、おそらく、崖の上に登り、そこから弓で攻撃したのだと思われた。
「リュウジなら、ここを登れるにゃ」
「ああ。これくらいなら楽勝だ」
リュウジは崖の壁面を見て、登るルートを思案する。ところどころに石が顔を出しており、それに手をかけて登れば、上に行ける。
「よいしょっと……」
石に指をかけて、全体重を持ち上げる。腕の筋肉が緊張する。足を踏ん張り、次の石に指をかける。
飛び出た石から、登るためのルートを考えて、両手、両足を使ってリズミカルに登っていく。こういう崖を登る時のコツは足だ。つい腕の筋力に頼りがちだが、それだとすぐに乳酸が筋肉にたまってしまう。そうなれば力が入らなくなる。
さらに登る最中はずっと腕が心臓より高いところにあり、血の巡りが悪くなって痺れてくる。
少し休める足場があれば、そこで足を踏ん張り、交互に腕を休める。そうやって登らないと疲労で落下するだろう。15m下に落ちれば死ぬ。運よく命を失わなくても大けがを負う。こんな危険な場所で大きなケガをすれば、死んだも同然だ。
命綱はないが、リュウジにとっては、こういう経験は数多くあり、慎重に休みながら登っていくので恐怖感はない。
最後は指4本に力を込めて、体を引き上げて頂上にたどり着いた。頂上は岩場の少しだけ広い空間でその周りは林になっており、背まである下草で崖に近づけないようになっている。
登ってきたルート上に、おそらくリュウジと同じように登った人間の手の跡があり、頂上に誰かが登ったことが予想できた。
(これは調査書の中にはなかった……。パーティの中でこの10mの崖を登れるのは……おそらく、レンジャーだろうが……)
レンジャーが登ったであろうというのは、職業的に適性があるということと、登ったのは、グレイウルフの群れと戦うため。弓で上から狙い撃ったのであろう。
リュウジは地面を観察する。左足と右足で弓を構えただろうという歩幅で跡が残っている。リュウジの予想は正しかったようだ。
「リュウジ、そこから右45度前方、興味深いものがあるにゃ」
そう寧音がリュウジに話しかけた。寧音の正確な方向の指示は、臭いと視覚情報のたまものである。
リュウジは、寧音に言われた方向を見る。そこには、木の陰に赤いものがあった。それはまるで火が燃え上がったような赤い色の造形をしたキノコであった。
(これは珍しいキノコ……なるほど……)
それは木の根元から斜面にかけて、びっしりと生えている。
リュウジはそのキノコに触れないように、そっと観察する。
「びっしり生えているけど、ところどころ、ないところがあるにゃ」
「ああ……」
それは採取された跡である。この赤いキノコを狩り取ったものがいるということだ。
「このキノコでリュウジの推理がつながっていくにゃ」
「ああ……これで俺が立てた仮説が証明できることになる」




