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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
5章 天才数学者、研究する
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85 数学者、学会に行く③


Side レオン・カール


 ポアンカレ予想。地球では2000年にクレイ数学研究所が発表した、100万ドルの懸賞金がかけられた7つの問題のうち1つとして知られており、俺がこの世界に来る時点で唯一解かれたものであった。主にペレルマンにより解決されたこの問題は、解決にほぼ100年かかった難問だったのだ。


『単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である』


 この予想は位相幾何学の問題であるが、ペレルマンはリッチフロー、リーマン多様体の崩壊理論といった微分幾何学の概念を用いて解決した。俺も地球にいた頃、異世界の存在定理は微分幾何の手法を取り入れた理論で証明したのだ。ポアンカレ予想によって宇宙の形状としていくつかの可能性が示唆されたことは俺の理論の中で用いている。

 この世界ではスカイという、地球には存在しなかった新しい概念に興味を持っている。このスカイの言葉でポアンカレ予想の主張を言い換えて証明に必要な道具を作る試みは非常にこれからの研究テーマとして相応しい。


 ポアンカレ先生の発表が終わり、ぞろぞろと座って聴講していた人が散っていく。自分のポスター掲示に人がやってくることを期待してそちらに向かうことにした。


「あれ、ペアノ先生」

「ああ、レオン君。ちょうど今、私の知り合いに君のポスターを紹介していたところだよ」


 ペアノ先生が3人、他学校の教授を連れて俺のポスターを紹介してくださっていた。ペアノ先生の知り合いなので、当然ペアノ先生とほぼ同年代の人しかいないが、臆することなく話しかける。自分の研究成果を多くの人に見てもらいたいと思っていたので非常に嬉しい。


「レオン・カールです。ペアノ先生の研究室でこの研究をしていました」

「ほう、まだ若いのに立派だねぇ」

「さすがペアノ先生の教え子だ」

「いえ、私はあまり彼に指導していないんですよ、彼がスポンジのように知識を吸収していくのですよ」

「なんと!ではせっかくだから色々と質問してもいいかね?この補題の証明で省略された部分について、mとn-1がpを法として合同な場合、シャーク台の局所乖離性は…」

「その場合はまずシャーク台の無限巡回被覆をとってから基本群の射影を考えて…」


 自分の研究成果を見て熱心に考えてくれる人がいることに感動し、相手の質問に真摯に答える。ポアンカレ先生とのときと同じ説明を繰り返すこともあったりしたが、複数の教授と議論を交わし、濃密な時間を過ごす。

 気づくと、俺達の周囲には小さな人だかりが形成されていた。会話が盛り上がっていたため、足を止めて目を向ける人がいたのだ。俺達の議論を聞きながらうなずいたり、メモを取る人もいる。

 いつの間にか、奇妙な研究結果を発表するポスターがあるということで、学会中で噂になっていたようだ。ペアノ先生が予想した通りである。ポスターを見に来た偉そうな人がペアノ先生を呼びつけて何かを話しているのを目撃した。自分のキャリアアップに関わる話だろうか。


 しばらく自分のポスターの前で研究成果について話した後、お手洗いに行ってから、会場をぶらぶらすることにした。あちらこちらで算術を研究する人が集まって会話に花を咲かせている。


「…それで私は彼に言ったのだよ。『それじゃあ逆関数が定義できないじゃないか!』とね」

「ハハハハハ!やはりいつ聞いても先生のジョークは面白い」


 この世界における、算術のジョークってなんだ?最後のオチだけ聞いてもさっぱりなんだが…

 この国特有のジョークはあるのだろうか。そんなことを考えながら歩いていると、机に向かい合って話す、とある2人組の会話が耳に入る。


「最近、素数の分布について興味深いことを発見してね、差が600以下の2つの素数の組というのは、どんなに素数が巨大になっていっても見つけることが出来るんだよ」

「え、それってとてつもないことじゃないか!双子素数の予想の解決に飛躍的に近づくぞ!」


 おお、双子素数の話をしている。双子素数とは、差が2である2つの素数の組のことだ。例えば3と5、11と13などだ。数が大きくなると素数から次の素数までの間隔が広がることがある。例えば113の次の素数は127で、その差は14。370261の次の素数は370373でその差は112だ。しかし、双子素数も大きな素数で見つけることが出来るのだが、そんな双子素数は無限に存在するか、地球でもまだわかっておらず、ポアンカレ予想以上に難しい問題なのだ。

 ちなみに、もっと大きな数を探せば連続して1000も10000も素数が出てこない区間を見つけることも出来る。なんなら好きなだけ素数が出てこない区間を自由に作り出すことも出来る。


「しっ!大声だすな!これから論文にまとめて発表する予定だから、まだ大きな声で言ってはならんのだ。誰かにアイデアを横取りされても困るからな」

「あ…すまん」


 どうやら聞いちゃまずい話だったようだ。研究の世界では、当然ながら誰かが既にやった研究を発表することは意味が無いので、早い者勝ちの世界なのだ。そのためどんな研究をしているか人に明かさない研究者は少なくない。この人もそのタイプのようだ。俺も聞かなかったことにして早いこと立ち去るとしよう。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


 学会が終わり、寮に戻る。他のどの研究者より早く帰ることが出来るというのは、寮住まいの利点の1つだと気づいた。


「おかえりなさいませ、レオさま。学会はいかがでしたか?」

「ただいま。楽しかったよ。かなりためになる話が聞けたし、研究のモチベーション向上にもつながった」

「それはよかったです。夜ご飯はどうされますか?」

「後でいいや。先に1人で食堂に行ってていいよ」

「何か作業をされるのですか?」

「うん、ちょっとね。学会で聞いた話で確かめたいことがあるから」

「レオさま、これはちょっと集中するといって3,4時間部屋にこもるパターンですね?」

「…たぶんね。いや、いつもちょっとで終わらせるつもりなんだけどね?計算しているうちに気になることがどんどん増えていくもんだから…」

「ふふ。いつも通りですね。分かりました。先に夜ご飯を頂いてきます」


 俺は学会で仕入れたアイデアを忘れないうちに紙に書きだすだめ、自室に籠るのであった。


素数間隔については、現在差が246以下である素数の組は無限に存在することが分かっています。

まず差が7000万以下の素数の組が無限にあると分かり、次に600以下と分かり(急に狭まりすぎ!)、現在は246まで差が縮められています。

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