82 番外編10 お嬢様、決心する
Side シェーラ・キース
パーティーであんなことがあって、土日を挟んだ翌朝。交際することになったと言っても、結局何も変わらないだろうなんて話をしていた彼は、いつも通りぶつぶつと考え事をしながら寮の玄関先にいた。
「おはよう」
「…おはよう」
いつもよりちょっとだけ胸が高鳴るのを抑えつつ、レオに声をかけると、レオはこちらへ振り返ることなく挨拶を返す。
「じゃあ、行きましょうか」
「う、ん」
いつもと同じ光景。いつもと同じ道。でも私達の関係はこれまでと違う。
「何ぎこちなくなってるのよ。レオらしくないわよ?」
「いや、思ったより気恥ずかしくてね…」
何も変わらないさ、なんてすました顔で言っていたのに恥ずかしさを感じているレオが、どこかかわいらしく見える。私のことを友達でなく1人の女性として見てくれて、そういう反応を見せてくれるのが嬉しい。
「あら、いつもの冷静で達観的なレオはどこへ行ったのかしら?」
「いや、大丈夫だ。俺はいつもの俺、俺はいつもの俺…」
「ふふ、そういうことを言っている限りはダメじゃないかしら」
もう、私だって部屋を出る前、何度も何度も鏡を見て、おかしな所が無いか細かく確認したんだから。何も変わらないだろ、とすました顔で言ったレオの隣に立つために、いつも通りの可憐なお嬢様でいようと何度も深呼吸して心を決めていたのに、まさかレオがこんなにうろたえるなんて。
そんなレオがとってもとっても愛おしくて、からかいたくなってしまう。突然、レオの手を握ってみる。指と指を絡ませて繋がる。
「し、シェーラ…」
「あら、もう恋人なんだから、こういうことをして当然でしょう?」
「あ、ああ、そうだ、よな…」
ふふ。びっくりして耳を赤くしながら静かになってしまうレオが見れた。こんなに弱々しいレオはめったに見ないわね。
学校に到着して教室に入って、机に座ろうとするタイミングでレオがぱっと手を離した。
「あっ…」
思わず声に出てしまった。出来ることならずっと手を繋いでいたかったけれど、仕方ないのもよく分かっている。何事もなかったかのように鞄から教科書類を取り出すレオを横目に見ながら、そっとレオと繋がっていた手を頬に当ててみる。温かい。
「おはよー、レオン君、シェーラさん」
「おはようなのです」
教室にユウとカティアが入ってくる。あの2人も先日のパーティーで交際に至った。
「2人ともおはよう。朝からお揃いで仲が良いわね」
「ははは。たまたま門で一緒になっただけだよ。というか、ボクたちよりそっちの方が毎朝お揃いで仲が良いんじゃないの?」
「え、ま、まぁ…そうかしらね」
カティアとユウにどんなタイミングで打ち明けようか考えていなかったので、こういう質問には答えにくい。ちらりと横のレオを見てみる。いつも通りすました顔をしている。
「…シェーラ、もしかしてレオと付き合うことになったのです?」
「…っ!」
私の焦るさまを見たカティアが言い当てた。
「え?ホントなのレオン君?」
「ああ、その通りだ」
「わぁ、お祝いなのです」
レオの言葉を聞いたカティアとユウが嬉しそうに喜ぶ。
「ねぇ、ねぇ、どっちから告白したの?」
ユウがわくわくしながら聞いてくる。私は急に顔から火が出るかのように恥ずかしくなってしまう。
「え、えと…」
「黙秘だな」
「えー、つまんないのー」
私がオロオロしながらレオをちらっと見ると、察したレオがそう答えてくれた。やっぱり、レオはなんだかんだ頼りになると感じた瞬間。
放課後。レオは学会に向けた準備があるからとペアノ先生の研究室に向かっていった。カティアとユウは2人で先に帰ってしまった。今は1人で帰り道を歩いている。
レオは研究に打ち込んでいる。それは、きっと私のお父様に認められるための実績づくりもあると思う。レオはあまり多くを語らない所があるけれど、しっかりと私のことを考えてくれる。
「私は何をすればいいのかしら」
私はただレオから与えられるだけでいたくない。私はレオの隣に立ちたい。同じ景色を見たい。自由を求めて屋敷を飛び出した私がやっと見つけたやりたいこと。
「…セバスを説得してみようかしら」
レオの手を握った手の温もりを思い出しながら、私は戦うことを決意する。




