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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
1章 天才数学者、転生する
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8 数学者、基準を作る


・ガイアの地理について


 ザビンツ国は確認されている中で最大の大国であり、王都を中心に放射線状に街道が伸び、地方の領と結ばれている。王都と地方の領の間には方角によって深い森やステップ(背の低い草でおおわれている平原)、山脈などが存在する。また、地方の領より先は開拓されていない土地がおおく、他の国との国境も曖昧である。国や領を移動する人を把握し税を徴収するために、どの領も関所を主要な入り口に設けている。


―大神学『地球とは異なる異世界について』p.7より引用



―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


Side レオン・カール 6歳


 家族とマリーさんに自分の前世について打ち明けてしばらく日にちが経つが、何かが大きく変わるということはなかった。変わったことといえば、こちらが唐突に何かをやりたいと言い出してもに驚かなくなったこと、あとはエドガーが10歳になり、王都の魔法学校に通いはじめたことくらいか。


 王都の魔法学校は10歳で入学し、12歳で卒業という3年制の学校だ。魔法学校では魔法が必修であり、他に選択で経営学、歴史、作法、算術、魔道具製作、などの科目を勉強することができる。エドガーは地方領主の長男なので当然経営学、歴史、あと作法を学ぶようだ。エドガーのように、地方の領から通う人は王都の寮で3年間生活をする。体ばかり鍛えているエドガーにはぜひともしっかりと勉強してもらいたい。


 俺は6歳になり、依然魔法の訓練、朝の体力づくりを毎日欠かさず続けている。ライナーは領主らしく領に関する書類と格闘する毎日、クレアは去年から頻繁に王都に出張している。ライナーとクレアが忙しいので、もっぱらマリーさんといる時間が増える。


「それにしても驚きましたよ。レオさまに全く違う世界の前世があったなんて。それに前世では17歳だったんですよね」

「はい。まあ、17歳になるのと同時に死んでしまったから前の世界で生きていたのは16年ですけど。いまこの世界で6歳だから、合計したら22年は生きていますね」

「そう考えると、私とほぼ同い年ですね。ふふふ」


 マリーさんはだいたい22歳なのか。実際のところ何歳なのだろうか…いや、女性に年齢を聞くものじゃないな。


「地球という世界の知識に興味があります」

「そうですね。役に立つ知識は共有したいと思いますが、ガイアの人々にとっては危険すぎるものもあります。そのあたりは時と場合をしっかり見て考えていこうと思います」

「それほど地球の知識は発展しているのですか」

「はい。魔法が存在しない世界なのですが、魔法の代わりに科学というものが発展していました。高度な道具を次々と発明し、魔法なしに空を飛べる道具もありました」

「それはすごいですね」

「武器も発達していまして、やろうと思えばこの領をまるまる吹き飛ばすような爆弾もありましたよ」

「…恐ろしいです。むやみに知識を広めるのが危いという意味がよく分かりました。地球はとても危ない世界なのですね」

「ははは。私がいた国は比較的安全で平和な国でしたよ」

「そうなんですね」



「さて、今日は振り子を作ろうと思います」

「振り子ですか、何に使うのですか?」

「振り子は往復するのにかかる時間がほぼ一定なので、それで時間を計る道具にします。あと詳しい機構は分かりませんが、振り子を使ってズレの小さい時計が作れたはずです」

「それは興味深いです。紐と重りを用意しますね」

「それくらい自分で…いや、おねがいします」

「はい。メイドの仕事ですから」



 マリーさんが必要なものを持って来てくれる間に、1秒で往復する振り子の紐の長さを計算しておこう。これも運動方程式から導くことができる。重力加速度をg、紐の長さをℓ、周期をT秒とすると、T^2=4π^2×(ℓ/g)という式が導ける。今は周期を1秒、重力加速度は9.8とするから、T=1、g=9.8を代入して、ℓはおおよそ0.248mとなるか。


「レオさま…この記号は?」

「あ、これは地球で使われている数字、文字です。地球では算術が高度に発達していて、好きな秒数で往復する振り子の紐の長さを計算で求めることができるのですよ」

「地球の知識でそんなことまで分かるのですね」

「よし、24cm8mmの振り子がほぼ1秒になるから作ってみよう」

「分かりました。紐を切りますね」



 そしてあれこれ工夫すること数分。「ほぼ1秒で往復する振り子」を4つほど作った。


「不思議ですね。どの振り子もまったく同じ速さで往復します。重りの形や重さが違うのにどの振り子も同じ速さで往復するなんて、この目で見るまでは信じられませんでした」

「重りに関係なく周期が同じになる理屈も、地球では物理という学問として論理的に説明がされています。まあ、これらの振り子は人間が認識できない程度に微妙にずれているでしょうけど」

「地球の人々は何でも知っているんですね」

「いや、これでも分からないことだらけですよ。一つ新しいことが分かると、百個新しく分からないことが見つかるんです。研究は永遠に終わらないんですよ」

「なるほど…ところで、1秒の振り子を作りましたが、2秒、3秒の振り子も作れるのですよね?」

「紐の長さは往復にかかる時間の2乗に比例するから…1往復に2秒なら0.248mの4倍で0.992m、紐を99cm2mmにすると、理論上2秒の振り子ができます」

「やってみましょう」



「できました。これが2秒の振り子なのですね」

「1秒の振り子と同時に揺らしてみましょう。2秒の振り子が1往復する間に1秒の振り子がぴったり2往復するはずですから、確かめてみましょう」

「……これは驚きました。本当にぴったり2秒の振り子ですね。地球の知識を疑っていたわけではないのですが、頭の中でさっと計算するだけでこんなにも正確な振り子が作れてしまうなんて」

「これが科学の魅力です。現象を観察し、法則を読み解く。仮説を立て、実験で実証する。科学とは、人々が長い間つみ重ねてきた叡智なのです」

「地球という世界の偉大さにため息が出ます」




 この後もさまざまな振り子を作った実験をマリーさんに見せてあげた。どれもマリーさんは目を輝かせていた。ライナーにも見せ、出張から帰ってきたタイミングでクレアにも見せると、「振り子って面白いわね」と感心してくれた。



第1章最終話です。次回から魔法学校編になります。

申し訳ありませんが、ある程度書き貯まるまで少々お休みします。

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