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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
5章 天才数学者、研究する
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77 数学者、パーティーに参加する④


Side レオン・カール


 見間違いだろうか。ユウは目を開けたまま、驚いた表情で直立不動の姿勢をとっており、カティアは目を閉じて前のめりで唇を当てに行っている。ように見えた。

 見間違いかと疑って目を凝らした瞬間には、2人はもう離れて、お互い目を合わせずにうつむいている。顔は林檎のように赤い。間違いない。カティアからキスしたのだ。

 ユウが何かを言う。カティアがぱっと顔をあげ、ユウを見つめて言葉を返す。表情は読み取れない。


「あの2人ってあんな仲だったの?」


 俺は向こうの2人に気づかれないよう、小声でシェーラに確認する。


「カティアがユウのことが好きだっていうのは知っていたわ」

「そうだったのか。俺は今、初めて知ったよ。ユウの反応を見る限り相思相愛とは言い切れなさそうだけど」


 それに俺はかつて体育の授業中にユウから、ユウには密かに思いを寄せている幼馴染がいることを聞いている。そう考えると、これは叶わない恋なのだろうか。いや、ガイアでは一夫多妻は珍しくないから、結ばれるのか。


「そっとしておきましょう。あまりコソコソと見るものでもないわ」


 こういう時、やはりシェーラは俺とは違って他人を慮ることが出来て、常識があると感じる。いや、俺が常識、配慮に欠けているだけかもしれない。

 シェーラの後をついていき、ホールに戻る。つい先ほど目撃した衝撃的な光景が頭を支配する。スタッフに何を言ったか覚えていないが、新しい皿とグラスをいつの間にか手に持っていた。気づいたら料理をとって席に座っていた。


「まさか、2人があんなことをしていたなんて」


 オレンジジュースで口の渇きを潤してから驚きを吐き出す。いつも一緒にいた、ただの仲の良い友達と思っていた2人は、あんな片思いの関係だったとは…


「実は私、数か月前から体育の授業中にカティアから色々と聞いていたのよ。ほら、下校の時、私達2人とむこう2人で別れるじゃない?別れた後、2人でよく話すようになって、いつの間にか好きになったんだって」

「いつの間にか」

「いや、本人はそう言ってなかったわよ?私が雑に要約しただけよ。実際は色々とユウに優しくしてもらったことがあったりして、好きになったらしいわ」

「ふーん」


 驚いたのはカティアが片思いをしていただけではない。


「にしても、カティアがあんな大胆なことをするなんて、まさか思わなかったよ」

「そうかもね。カティアはどちらかというと引っ込み思案で、あまり自分を出さないから」

「まだ10歳か11歳だろ?早熟というかなんというか」

「いや、あなたもまだ11歳じゃない」


 久々に年齢に関する突っ込みを頂いたが、そういえばついこの間誕生日を迎えたことを思い出す。


「それに、卒業までに結婚相手を探すのが普通の魔法学校なら、この時期には思いを伝えて交際するのも特別じゃないと思うわよ。あなたのもとにだって、たくさん来たじゃない」

「まぁ、そうかもね」


「レオン君、シェーラさん、こんばんは。パーティーを楽しんでいるかしら?」


 聞きなれたやや色っぽい声を耳にして振り返ると、そこには胸元を大きく開いた紫のドレスを着たランプ先生がいた。今日は人を惑わす魔女だ。


「こんばんは、ランプ先生」

「こんばんわ。私もレオも楽しんでいますよ」


 俺の隣に座り、グラスのワインか何かを一口飲んでから話し出す。


「あなた達はいつも一緒よね。結婚を決めているのかしら?あまりそういう雰囲気は感じないのだけれど」

「いえ、ただの親友です」

「…ふうん」


 俺が答えると、ランプ先生は俺の顔をじっと見て、次にシェーラをじっと見てから言う。ランプ先生がワインをもう一口飲む。


「あなたたちはもっと小さい頃からもっと豪華なパーティーに参加した経験はあるかしら?」

「いや、ないですね。屋敷での小さな会食なら」

「私は何回か」

「あら、そうなのね」


 しばらく3人で会話が続く。ランプ先生は俺にもシェーラにも、均等に話す機会を与えてくれる、いい先生だ。しかしだんだんとランプ先生が軽くお説教モードに移行しているようだ。


「…それでね、あなたたちはどちらもこの学校でかなり異端な存在なの。いい意味でね。皆はそんなあなたたちに興味を持つし、普段から話してみたいと思っているのよ。でもね、はたから見るとお互いがお互いを守っているように見えて、話しかけにくいのよ」

「守るだなんて、そんなことは別に…」

「そうね、レオン君はそんなこと考えていないでしょうね。でも、実際分かっていてそれをうまく利用しているわよね、あなたは。ねぇ、シェーラさん?」


 ランプ先生がシェーラに視線を向ける。シェーラは蛇に睨まれた蛙のように、ぴたりと硬直してしまい、絞り出すように答える。


「いえ…そんな…」

「いいえ、あなたはレオン君と一緒にいることで、必要以上に人から話しかけられないことに気づいている。隣にレオン君がいることで視線も分散されることを知っている。都合が良いと分かっている。そしてそれを利用している」

「…ちが、います…」

「本当にそうかしら?」


 なんだ、なんだ。いつの間にかランプ先生がシェーラを非難するような話になっている。普段の優しいランプ先生とはどこか違う雰囲気に、シェーラは表情を崩さないが、間違いなく困っているだろう。


「ランプ先生、パーティーの場でそういう話は相応しくないんじゃないですか」

「…そうね。少しお説教が過ぎたわ。ごめんなさいね」


 俺の言葉を聞いて鎮静化したランプ先生は残ったワインを一気に飲み干す。


「なにも怒るつもりはないのよ。ただね、シェーラさんはもう少し独りで色々なことが対処できるようになるべきだと思うの。王都ではエルフは非常に珍しいし、この先避けられないトラブルにたくさん遭うでしょうから、降りかかる火の粉を振り払う技術をもっと磨いてほしいの。そうじゃないとこの先苦労するから」


 なるほど。いつも俺達と一緒にいることでトラブルを未然に防いでいるのが、それがかえってシェーラの成長する機会を奪うことにもなっているかもしれない、ということか。当然トラブルは未然に防ぐに越したことはないが、起きてしまったトラブルをうまく切り抜けられるようにもなるべきで、それを今のうちに練習しとけと、ランプ先生はそうアドバイスしてくれているのだ。言い方は必ずしも良くなかったが。


 俺が沈思黙考していて、気づいたらランプ先生はどこかへ消えていた。


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