75 数学者、パーティーに参加する②
Side レオン・カール
「思ったよりも地球のパーティーと似てるな」
スパゲティー、ピザ、ナゲット…素材こそ違えど、既視感のある料理ばかりだ。大人数が食べることを想定するとそこまで手順のかかる凝った料理は出せないので、地球でもガイアでも似たような料理が出るのだろう。
目についた料理をとり、定位置に戻る。空いているテーブルまで皿とグラスを持って行って、4人で座って食べる。このような複数人で座れるテーブルもたくさん用意されており、さらに壁に沿って内側を向いた椅子がならんでいる。参加者はどこでも好きに座って食べるもよし、話すもよし、という訳か。
「おいひいね」
「こら、ユウ、口に入れたまま喋らないの」
「ほへんははい(ごめんなさい)」
学校主催の、ここまで大人数が参加するパーティーの料理にそれほどのクオリティを求めるものではないと思っていたが、ユウの言う通り、確かに料理はおいしい。飲み物もそれなりに上等なものであることが味で分かる。
パーティーに来たけど結局いつもの4人で食べるだけになっているなと思っていたら、俺たちが座っているテーブルに見知らぬ女性2人組がやってきた。
「ここ、座ってもいい?」
「ええ、どうぞ」
「ありがと」
俺の隣、6人座れる丸テーブルの空いている連続した2席に座る2人組。流れるように自己紹介が始まる。この2人組は学年が1つ上の第二クラスの先輩らしい。俺とシェーラは上級生の間でも『天才コンビ』としてよく知られているらしく、一度話をしてみたかったとのことだ。
「あなたたち天才コンビは知っていたけど、そちらの2人も一年生の第一クラスだったのね」
「じゃあ、天才コンビじゃなくて、天才カルテットね」
「いやぁ、ボクはこの2人と比べたら全然天才なんかじゃないし…」
「カティアもなのです。魔力量も平均ぐらいなのです」
第一クラスすごーい、というありきたりな、お決まりの展開から会話が始まった。このあとはどう立ち会いが変化していくのだろうか。俺はフライドポテトを2本まとめて口に放り込んだ。
「シェーラさんって、キース領のお嬢様なんでしょう?」
「はい、キース家の長女です」
「すごいわよね。うちの学年にはエルフは1人もいないもの」
「そうなんですか」
「そうなの。そもそもうちのクラスは人族しかいないし」
「確か…」
やはりエルフであるシェーラはとりわけ目立つ存在のようだ。さまざまな種族が集まるこの学校では種族に関する話題が鉄板のネタなのだ。人族である俺はフライドポテトを平らげた。
そもそも、俺はおしゃべりな方ではないと思う。1人で黙々と考え込むのが好きだ。何か聞かれたら答えるし、こちらからも質問をする。会話が嫌いだとか苦手だとか、そういうわけではない。
「あの魔法大会の魔法、2人ともすごかったね」
「一年生が2人も的を割るなんて、信じられないわ」
「「ありがとうございます」」
「そういえば、レオン君はカール領の次男なんでしょう?」
「ええ、よくご存じで」
「私はエルド領出身だから、お隣ね」
「ああ、お隣さんですね」
「私達、2人ともエルド領出身なの」
「お2人ともそうなのですね」
「そう。ちなみに私、実家が旅館を経営しているの。とっても絶景だから、ぜひ来てね」
おっとここでマリーさんのレッスンの成果が試されるタイミングだ。こういう時は行くというニュアンスを含めた解答をするのは避けた方が良いらしい。しかし行かないと言っては相手を下げることになって失礼に値するらしい。こういう時はどちらでもないような、当たり障りのない言葉を選ばなければならない。
「それは魅力的ですね」
「でしょう?ぜひ検討してみてね」
「じゃあ私達はそろそろ行くわね」
「それでは」
笑顔のまま2人組が去っていく。きっと正しく対処したのだろう。ちらっと隣を見るとシェーラは『まあ、ぎりぎり合格ね』といったような表情をしている。
「やっぱりレオン君とシェーラさんは人気だね」
「有名人なのです」
「そんなに嬉しくないけどなぁ…」
「そうね。私はエルフであることを珍しがられているような気もするし、嫌ね。さっきからすごい視線を感じるもの」
どうやらシェーラも居心地が良いわけではないようだ。お口直しにフライドポテトを…おっと、もう平らげたんだった。ピザを一切れいただく。
「2人って、一年生の『天才コンビ』よね?」
「ほんとだ、エルフじゃん」
「え、あの『天才コンビ』がいるの!?」
どうやらピザを一切れ食べる暇すら与えてもらえないようだ。俺とシェーラは集まってくる人の数を見て、平和な食事の時間はしばらく来ないことを悟った。




