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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
4章 天才数学者、初めての夏休み
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69 数学者、夏休みを満喫する⑩


Side レオン・カール


 王立公園へ遊びに行く、帰省する、劇を鑑賞するといった用事のある日以外はほとんど勉強、研究漬けの夏休みだ。この世界では人とのつながりも大切にするといっても、人と連絡する手段がないならばどうしようもなく、必然的に1人でいる時間ばかりになってしまうのである。

 最近は気分転換に王都を散歩するのが趣味となりつつある。地球にいた頃も数学の休憩に外をぶらぶら歩くことは多かった。体を動かし自然と触れ合っていると、急によいアイデアが思い浮かぶことがあるのだ。おやつを食べたので、腹ごなしに今日も散歩しよう。


「あらレオ、どこへ行くの?」


 寮のドアを出てすぐ、たまたまシェーラと遭遇する。


「散歩。最近適当に歩くのにハマってね」

「じゃあ私もついていってもいい?ちょうど用事がないのよ」

「いいよ」

「ありがと。ちょっと待ってね」


 シェーラは自室に戻り、麦わら帽子をとってきた。耳を隠すためだ。


「じゃあ、行くか」

「うん」


 シェーラが麦わら帽子を深くかぶったのを確認して、寮から出た。

 王都の中心部、王立魔法学校近辺は十分に区画整理がされているようで、直交する道が多い。ただ気の赴くままにジグザグと曲がってみる。

 すこし離れた所まで行くと、小さな噴水広場があったので休憩も兼ねてベンチに座る。水が躍るのを眺めながら、シェーラが口を開く。


「私、帰省したの」

「うん知ってる」

「…楽しくなかったの。お父様は私にただ『第一クラスを卒業しろ』としか言わないし、貴族のパーティーに参加させられたし」

「貴族のパーティー?」

「隣の領の貴族のお屋敷でパーティーがあったの。私だけお父様に連れられて、参加した貴族全員に挨拶をしたわ」

「つまんなかったの?」

「挨拶は小さい頃から練習させられたから、そこまで嫌じゃなかったけど、いい人はいなかったわ」

「そうか。パーティーといったら、おいしい料理にお酒、ってイメージがあるけど、料理はどうだった?」

「美味しかったわよ。でもずっと挨拶していたからほとんど食べてないわ」

「それは残念だね」

「…私はきっとあの中の誰かに嫁ぐことになるのよ」


 なるほど。向こうの貴族に『うちの娘どうですか?』と紹介するためにパーティーに参加させられたのか。パーティーで結婚相手を決める、これも貴族社会の常識なのだろう。


「でもやっぱり、私はお父様が決めた人と結婚するなんて嫌だと思った」

「その中にいいと思える人がいなかったの?」

「そんなの、ちょっと話すくらいで分かるわけないじゃない。分かるのは階級と顔だけよ」

「確かに」

「キース領は小さくて弱い領だから、大きな領の貴族に嫁ぐことでずっと生き残ってきたの。だからお父様が結婚相手を決めるのに、階級が分かって少し会話できれば十分なのよ」

「じゃあお父様にとってパーティーは重要なんだね」

「まぁ…そういうことになるわね」


 シェーラが嫌そうに言う。よほどパーティーでいい思い出がなかったのだろう。


「自由になりたくて王都に来たのに、パーティーに参加させられて結婚相手を決められて…なんて嫌よ。少し前は魔法学校が最初で最後の自由な時間で、卒業したら諦めてお父様の決めた通りに結婚する、と思っていたけど、こうして王都で暮らしていると、やっぱりこの生活をやめたくないって思うようになったの」


 なかなか難しい問題だ。シェーラの父から見たらただの我儘な娘にしか見えないだろう。シェーラの父はただキース領の伝統に則して娘の結婚相手を決めようとしているだけなのだ。それに対して娘は自分の道を自分で決めたがる。片方を立てるともう片方が立たなくなる。この背反を解決することは可能なのか。

 この世界では嫁いだ女性の役割は「子を産む」ただ1つだ。実際、魔力も多くて教養もあるシェーラなら優秀な子供が生まれる、と誰もが考えるだろう。引く手あまたであるからこそ、シェーラの父はパーティーで慎重に、"利益を最大化"するために相手を選ぶのだろう。勝手に結婚相手を決めることなど余計に許されるはずがないのだ。


「私はカティアが好き。レオもユウも好き。卒業したら二度と会えないなんて嫌。ずっと一緒にいたいの」


 10歳の少女には不可能な命題だ。この世界は非常に残酷である。


 噴水が止まる。夕方になったからだ。噴水広場にはほかに誰もいない。


「…こんな話をしてごめんなさい。レオも困るわよね」

「…いや、話を聞くくらいならいくらでも構わない」

「レオは優しいわね」


 女子の相談というのは、解決策の提示ではなく共感を求めるもの、と地球の誰かから聞いたことがある。きっとこの返しで良かったはずだ。そもそも解決策を提示することは今の俺には出来ない。


「帰ろうか」

「ええ、そうね」


 帰り道、俺たちは一言も会話を交わさなかった。


夏休み編終了。

次回から少し数学成分を濃くした話(勉強会の時のような、)をしていくつもりです。

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