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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
4章 天才数学者、初めての夏休み
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番外編9 お嬢様、帰省する


Side シェーラ・キース


 馬車の中、一人でぼーっと外を眺める。視界に入るものは木のみ。こんなに大きな物体が音を立てて走れば森の動物も隠れてしまう。木の種類が変わって、キース領に入りつつあることが分かる。

 森に囲まれた、王都の半分程度の広さしかないキース領。エルフしかいない、自然との調和を重んじる生活。不自由を感じたことはないけれど、王都のような華々しいものは少ない。

 そんなキース領に帰ってきた。こんなつまらない生活が嫌だから王立魔法学校を目指したはずなのに、また帰ってこないといけないなんて。

 たった数ヵ月だけど、何もかもが新鮮で楽しかった。同い年の友達も出来て、エルフ以外の種族の人と一緒に勉強して、遊んで。いつも傍にカティア、レオ、ユウがいた。一人じゃなかった。


「お嬢様、到着しましたよ」


 セバスが御者席から降りて私に手を差し出しながら言う。この馬車を降りたら、私は一人。セバスの手を取る動作がぎこちなくなる。




「お父様、ただいま帰りました」

「うむ。第一クラスを卒業出来そうだな?」

「はい、問題ありません」


 屋敷に帰ってお父様との最初の会話。『おかえり』すら言わずに、私が第一クラスを卒業出来るかの確認だけ。いつもそう。私ではなく私の称号しか見ない。

 屋敷のかつての自分の部屋に入る。ずっと勉強していた机。いつも外を眺めていた窓。半年も経っていないのに、懐かしさを覚えた。それだけかつての屋敷の生活と王都の生活があまりにもかけ離れているのだろう。王都の生活が楽しすぎて、濃すぎたのだ。

 一冊の本を本棚から引っ張り出す。『薔薇の騎士と眠り姫』だ。屋敷から外に出ることがほとんどなかった私は勉強の合間にこの小説を読んだ。何度も何度も。

 王都では、王立公園に行って、この小説の有名なシーンの元となったて薔薇の庭園を訪れた。あの風景を思い出しながら、ページをめくっていく。


「お嬢様、夕食のお時間です」


 熱中して読んでいたら、セバスがノックして知らせに来た。名残惜しいけど、本を閉じて食卓に向かう。




「シェーラ、セバスから王立魔法学校でよい成績を修めていることを聞いた。頑張っているそうだな」

「はい、お父様」

「うむ。第一クラスを卒業ともなれば貴族としてかなりの箔がつく。必ず卒業するのだ」

「はい、お父様」

「第一クラス卒業ともなれば嫁ぎ先にも困らない。これでお前もようやく我が領に役立つわけだ」


 出された食事は最高級のもののはずなのに味が分からない。レオ達と公園で食べたお弁当の方がずっとおいしかった。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


 ある日、お父様に連れられて隣の領で開かれるパーティーに参加することとなった。白いドレスを着させられ、各地から集まったたくさんの貴族の人と挨拶をする。

 お父様が次々と話しかけるのに後ろからついていって、私も挨拶をする。


「おぉ、あなたが第一クラスに進学されたあのシェーラさまでしたか」

「お美しい…さらに聡明でもいらっしゃるとは」

「やはりエルフは美しい方が多いようだ」


 褒められて悪い気はしないし、きちんと笑顔で対応していたけど、もしかして、私はこんな人達の誰かに嫁ぐのかしら。向こうの貴族様は私より年上だし、目つきがいやらしいし、そのご子息も横柄な態度をとる人ばかり。

 お父様はいかに力のある貴族に私を嫁がせて関係を築くか、ということしか考えていない。そうして小さくて力のないキース領は発展してきた。だから、誰も私の声なんか聞いてくれない。

 私の人生は誰のもの?


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


 屋敷にいてもやることはなく、友達も、話し相手もいない。ずっと部屋で教科書か『薔薇の騎士と眠り姫』を読むだけの日々。私に帰省するよう言ったのはあのパーティーに出席し、そして卒業後の結婚相手を探すためだったということくらい、言われなくても分かる。


 お父様に形式的な挨拶を済ませ、『薔薇の騎士と眠り姫』を持って王都に戻る。やっぱり王都の生活の方が楽しいし、自由。できれば帰省する日数は次から減らそう。そう決めた。

 馬車に揺られながら『薔薇の騎士と眠り姫』のお気に入りの場面を読み返す。…はぁ。このお姫様を助ける騎士みたいに、周りをあっと言わせるような華麗な方法で私を連れ出してくれる人が…


 …レオの顔が思い浮かぶ。確かにレオは常識外れなことをするし、とっても頭が良くて、魔法大会の時もあっと驚いたしすごかったけど、レオは結婚なんて全く興味ないって言ってたし…いや、別にレオと結婚したいってわけじゃないんだけど…


「お嬢様、このようなものを頂きました。いかがでしょう」

「え?…ええ、ありがとう」


 セバスから紙を受け取ると、それは期間限定の劇の上映のお知らせだった。脚本の名前に見覚えがあって確認すると『薔薇の騎士と眠り姫』の作者と同じ名前だった。これは観るしかないわね。


「ん?何かしら…って、!?」


 カップル推奨のため予約は2人以上限定!?

 確かに、王都の劇場は定番のデートコースらしいし、一緒に鑑賞した男女は末永く一緒にいられるという噂があるのは知っていたけど…。

 どうしよう。セバスはしばらく用事があって寮にいないって言っていたし、誘える人がレオしかいない。レオに何と言って誘えばいいのかしら。とにかく絶対この紙をレオに見せるのだけはダメね。私がレオのことが、す、好きだって言っていると思われたらこれ以上なく恥ずかしいし…


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