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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
4章 天才数学者、初めての夏休み
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68 数学者、夏休みを満喫する⑨


Side レオン・カール


 劇場を出て、帰るのかと思いきやシェーラとマリーさんに連れられるがままカフェに入る。どうやら2人はまだ感想を言い足りないようだ。

 シェーラとマリーさんは「あの場面の彼の心の中はきっとこうで…」「あの彼女の登場の仕方が…」などと盛り上がる。対して俺は置物と化している。俺の飲み物だけ2倍の速さで減っていく。

 2人の声を聞き流しながら、改めて俺も劇について振り返ってみる。戦争のシーンからこの世界の戦争の常識を見ることができた。杖を持ち、後方で魔法を放つ魔法兵という存在が特徴的であった。小さな火球を飛ばしていたが、簡単に盾で防がれる場面は記憶に残っている。


「ねぇ、レオはどう思う?」

「…ん?ごめん聞いてなかった」

「世の男性は戦姫みたいな強い女性に守られたいかって話よ」


 そんなことを話していたのかこの2人は…と思いつつ、自論を展開する。


「そう思う人は多くはなさそう。なぜならザビンツ国は戦争がなくなって久しいし、世の中全体が強さを必要としなくなってきているから」

「…じゃ、じゃあレオは?」

「自分の身は自分で守るべき」

「あー、うん。レオはそうよね」


 そっちから聞いておいてその反応はなんだ。と言いかけたが、こういう場面では向こうの想定した解答をしないとほぼ確実にこうなることは学習済みなので言わない。


「レオさまはかなり強い魔法が使えますから、そうお答えになるのでしょうが、多くの男性は、女性もそうですが、それほど強い魔法が使えるわけではありません。そういう人が強い魔法が使える人に対して憧れを抱くのは自然なことでしょう」

「そう、そうよね!それで戦姫のあの戦場で放った魔法が…」


 1人だけグラスを空にした俺は劇場でもらったパンフレットを広げた。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


「申し訳ありません。所用を思い出しました。お二人は先にお帰り下さい」

「もしかして商店街で何か買うの?それくらいだったら一緒に戻るけど」

「いえ、心配には及びませんから、私1人で行ってまいりますから」


 帰り道、商店街を通り過ぎた所でマリーさんが突然離脱してしまった。


「なんだかマリーさんの様子が変じゃなかった?」

「ええ、そうね。でも心配しなくていいって言ってたから、信じましょ」

「そうだね、じゃあ行こうか」


 商店街を抜けて数回曲がればとたんに静かになる。2人の靴音だけが響く。


「…レオ、今日は楽しかった?」

「楽しかったよ。生まれて初めて劇というものを鑑賞して、こうなってるんだーって思ったね」

「本当に?」

「うん」

「本当の本当に?」

「うん」


 何をそこまで聞いてくるのだろうか。わざわざ嘘をつく程のことでもないだろうに。


「…良かった。劇が終わってからレオがあまり楽しそうに見えなかったから。私とマリーさんが楽しく話してる時もレオは傍観するだけだったじゃない?もしかしてレオはあまり劇が面白くなかったんじゃないかと思って」

「そんなことはないよ」

「なら良かった。ただ私が観たいってだけで無理やりレオを連れ出して、それでレオが楽しめなかった、なんてことになったら本当に申し訳なくて…」


 なるほど。俺が楽しくなさそうに見えたから、劇に誘ったことに対して負い目を感じていたのか。


「劇を初めて観たし、人に向かって感想を言う経験が皆無だから、結果的にカフェで静かにしていたんだ。実際は劇について色々と考察していたから、それが楽しくなさそうに見えたのかもしれない」


 これも数学しかやってこなかった弊害の1つだろう。


「でも実際は心の底から楽しいと思ったから、シェーラが気にすることはない。誘ってくれてありがとう」


 確かにこの世界で生きていくためにこういった経験を積む必要があると理解した。そうでないとシェーラに申し訳ないと思わせてしまうからだ。シェーラがこう思っているなら、マリーさんも同じように負い目を感じているに違いない。

 大切な人と同じものを見て、感動して、気持ちを共有する。この世界では家族を大切にすると決めたならば、大切な人を悲しませてはならないのだ。


「レオにこんな風にありがとうって言われたの、初めてかも」


 シェーラが嬉しそうに笑う。

 おそらくこの笑顔は俺の人生の中で重要な意味を持つだろう。そう直感的に悟った。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


「ただいま戻りました」

「おかえり。マリーさん、所用って何だったの?」

「クリーニングに出したメイド服を受け取るのを忘れていたのです」

「ああ、そうなんだ」


 そういえばマリーさんは同じメイド服を何着持っているのだろうか。と、そんなことよりも言うべきことがある。


「マリーさん」

「はい」

「前世も含めて初めて劇を観たけど、とても面白かった。誘ってくれてありがとう」

「ええ、どういたしまして」


 マリーさんも嬉しそうに笑う。真っ白な八重歯が見える。


「結局、この劇を観ることで、どういう貴族としての素養が養われるの?」

「貴族同士の社交の場では劇の話をすることが多いのですよ。ですから少なくとも1つは見たことある劇があったほうが良いのです」

「なるほど」

「…というのもありますが、私があの劇を観たかったからお誘いしたのもあります」

「絶対主な理由、そっちじゃん」

「ふふ」


総合評価256pt、ありがとうございます。目指せ1024pt。

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