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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
4章 天才数学者、初めての夏休み
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番外編8 メイド、羽を伸ばす


Side マリー


 久しぶりにカール領へ帰る道中、私はレオさまのお向かいに座っています。レオさまは出発してからずっと手元の紙で複雑そうな計算をされているようです。時折手を止めて悩んだ様子で腕組みされたり、外を少し眺めたりされるので、見ていて飽きません。私の視線には気づかれていないのか、気にしていないだけなのか分かりませんが、レオさまが何もおっしゃることがないのに甘えてずっとレオさまのお顔を見させていただいています。

 17歳という若さで命を落とされてしまった前世の記憶をお持ちのレオさまは、明らかに10歳とは思えない落ち着き、達観された考えを備えられていて、その凛々しい表情がとても素敵です。

 ああ、いつまでも馬車が到着しなければいいのに。





「おわっ!!」

「きゃっ!」


 突然馬車が何かとぶつかって止まりました。レオさまに見惚れているあまりはしたない声を出してしまったことに恥ずかしさを覚えながら、急いで外に出て状況の把握に努めます。


 フォレストディアとの衝突でした。比較的よくある話です。今回はまだ子供だったので馬車の損傷も見られないようで、幸運でした。

 従者と馬車の点検をしている間、レオさまは気絶したフォレストディアに夢中なご様子。おそらく初めて見たのでしょう。


 息の根を止めて荷台に積み込もうと提案しましたところ、レオさまはただちにこの鹿を覆う氷を作り出して見せました。中から外へと凍っていく様子は鮮やかです。


「いつ見てもレオさまの魔法は美しいですね」

「そう?ありがと」

「なんと!レオン様の魔法がこれほどとは!王立魔法学校の第一クラスに進学されるのも納得です」


 従者の方は非常に驚かれていましたが、よく考えますとこれが正しい反応なのですよね。私は魔法大会であの魔法を拝見しましたし、普段からどんなことをお考えなのか存じ上げているのでそこまで驚きませんが、10歳でこの手際は人間離れと評価されてもおかしくありません。

 そう考えますと、やはりそのような間違いなく後世に語り継がれるであろう偉大なレオさまのお傍で仕えることが出来るのは、この上なく幸せなことなのだと改めて認識しました。レオさまが褒められますと、私まで嬉しくなるものです。




 お屋敷に帰りますと、いつもお屋敷で割り当てられていた仕事をある程度やらなければなりません。私がお屋敷から欠けたことで別のメイドが配置されていますから、そのメイドの補佐という形になるのですが。

 お屋敷で働く者は全員、互いのことを家族と思っており、たいへん良好な人間関係を築いております。私が帰ってきた時も仲の良かったメイドで集まって小さな歓迎会が開かれました。


「ねぇねぇ、レオさまってどうなの?」


 同期と3人でお酒を飲んでいますと、当然レオさまについての話になるわけです。


「どう、とは」

「魔法学校での話よ。第一クラスに進学されたのでしょう?」

「あ、それ私も気になる」

「そうですね…まず、レオさまが筆記試験で1位でした」

「え?」

「ちょっと待って、『まず』って言って軽い感じで言うことじゃなくない?」

「さらに、魔力量の測定でも人族の中で1位だそうです」

「なにそれ天才?」

「天才なのね?そうなのね?」

「筆記試験2位で、全種族のなかで魔力量1位のシェーラ・キースさまと仲良くなられまして、お二人は校内で『天才コンビ』と呼ばれているそうです」

「天才が集う王立魔法学校の中でも突き抜けた天才だなんて、将来がむしろ恐ろしいわね」

「やっぱりレオさまはすごかったのね…」

「まだ終わりではありません。魔法大会に第一クラスの代表、しかも大将として出場されました」

「ええ~!」

「もう十分よ…」


 信じられないといった表情をしていますが。


「いえ、驚くのはまだ早いですよ。直前の同じクラスの代表が的を割ったのに対して、レオさまは軽々と3つも割って見せました」

「え…」

「え…」


 ふふ。お二人が口をあんぐりと開けて固まっています。してやったり、というやつです。


「私も絶句しました。あまりにも圧倒的過ぎて校長先生も固まっていましたから」

「ちょっと待って、レオさまは目立ちたがり屋なの?」

「いえ、決してそうではないと思います。『ご学友にすごいのを期待されたから理論上可能な限界に挑戦する』とおっしゃっていました」

「なにそれかっこいい…」

「でも、そんなに目立ってしまうと、これから女性からのアプローチが増えて大変じゃないかしら」

「ええ。しかし残念ながら、レオさまはそのようなことに疎いようでして、私がいるからなんとかなるだろう、と」

「それは無いわね」

「ありえないわね」

「私もそう思うのですが、全く分かって下さらなくて…」


 そういってお酒を一口飲みますと、同期が肩に手をかけてきて言いました。


「でも、レオさまがそうおっしゃるってことは、あんたに期待してるってことよ。頑張りなさい」

「そうよ。そこで頑張ってアピールして、うまいこと第3夫人あたりに滑り込めばいいのよ」

「そうそう」

「…え?


…いえ、私はそのような邪な感情があって傍にお仕えしているのではなくて、ただ近くにいられるだけで幸せなのでして、確かにあわよくばレオさまと結ばれたいという思いはないかといえば嘘になりますが、実年齢の差を考えてもやや絶望的なところもありますし、かといってもレオさまの前世のことを考慮すれば実は私にも希望はあるのかなって思わなくもないのですけど」


「最後何言ってるか分からないけど、あんたがレオさまに夢中なのはバレバレよ」

「そうよ。私達応援してるから、レオさまを必ず射止めなさいよ」

「…はい」


 お酒を飲みすぎたせいか、顔が熱いです。




 しばらく飲み続け、お風呂の番がやってきました。同期と3人で入ります。


「見て!薔薇が浮かんでるわよ」

「え!ほんとだ、すごい!何で?」


 レオさまのお土産ですね。私達も薔薇風呂を楽しませていただけるようですね。


「はぁ~。極楽ね」

「メイドなのにこんなに贅沢させてもらっていいのかしら…」


 本当にその通りです。酔いも回って少しふわふわしながら心地よい薔薇の香りに包まれていると、もし、本当にレオさまとずっと一緒にいられたとしたら、甘やかされるあまり私がダメな人になってしまわないか心配に思えてきます。


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