60 数学者、夏休みを満喫する③
Side レオン・カール
「やっと着いたね!んーーー、はぁ」
馬車から降りてユウが目一杯伸びをする。王立魔法学校から乗り合い馬車で揺られること40分。石畳で舗装された道だったため振動などは気にならなかったが、座りっぱなしだったことは間違いない。さて、現在11時ごろ。王立公園に行く前に一度カティアは家に戻ってお弁当を受け取る必要がある。まずは全員でカティアの雑貨屋に行ってみよう。そう話がまとまった。
「あ!忘れてたのです」
「どうしたの、カティア」
「今日はお店、午後からなのです」
「じゃあボクたちは帰りにもう1回寄ることにしようか」
「そうだな」
歩くこと5分くらい、向こうの家と家の合間に見えるのが公園なのだろうかと気になりながらも雑貨屋に到着する。『雑貨屋 オルティス』と書かれた年月を感じさせる木の看板が軒上にかけてある。ここの2階に住んでいるようだ。
「じゃあ、すぐにお弁当をとってくるのです」
そういってカティアはスタスタと店の裏に回り込んで消える。雑貨屋は明かりはついておらず、営業していないが、俺たちはガラス越しに店の中をのぞいてみる。
大小さまざまな食器、手ぬぐいやタオル、小さなポーチや手提げかばん、ネックレスやペンダント…ハンドメイドの雑貨が所狭しと並んでいる。外から差す光だけでは店内の全てを把握することは叶わないが、とても居心地の良さそうな空間であることはよくわかる。
「うわぁ…色んなものがあるね」
「当たり前じゃない。雑貨屋なんだから。でも、見るからに素敵よね…」
「なぁ、あっちの四足歩行の動物を模したものって…」
俺は、ふと目に入った地球では見たことのない動物の置物を指さして尋ねる。犬あるいは狼のような見た目をしているが、額に大きな角が1本生えている。ガイアではよく知られた動物なのか?
「あれはホーリーウルフでしょ?」
「ユウ、そのホーリーウルフって何だ?」
「レオは相変わらずそういうことを知らないのね。ホーリーウルフは縁起がいい魔物よ」
「そ。王都の北の森にいる、とっても強い魔物でね、他の魔物と違って人間と友好的なんだよ」
「へー、どれくらいいるんだ?」
「ちょ、あはははは、笑わせないでよ」
「ふふ。ホーリーウルフは一匹だけよ」
「おまたせなのです~!」
「あ、カティアねぇ聞いて。レオったら、ホーリーウルフを知らないし、『それってどれくらいいるんだ?』なんて…ふふっ…聞いてくるのよ」
「ぷっ、あははは」
「そこまで笑うことだったのか…」
それほどホーリーウルフと呼ばれる狼は一匹しかいないことって常識だったのか…俺をバカにしてるような笑い方ではないから全く不快にも思わなかったが、少し自分が取り残されるように感じられて悲しかった。
「あらあら、こんにちは」
2人が笑っていると、カティアの後ろから一人の女性が現れる。間違いなくカティアの母親だろう。
「いつもうちのカティアと仲良くしてくれてありがとうございます」
「あ、お母さん、来ないでっていったのです…」
「お母様、初めまして。カティアの親友のシェーラです」
真っ先にシェーラが挨拶をする。自分から親友って言うとは、なかなか度胸があるというか、何と言うか。実際、客観的に見てもその通りだからいいのか。
「まぁ、やっぱりあなたがシェーラさんね。いつもカティアから聞いているわ。今日はシェーラと図書室で何した…って毎日食卓で教えてくれるのよ」
「お、お母さん、恥ずかしいのです…」
「シェーラさんはカティアと違ってしっかりした子でとっても可愛らしいわね。帽子もよく似合っているわ」
「ありがとうございます」
特にエルフであることには触れなかったようだ。王都ではまず見ないくらい珍しいはずなのだが、色々と気遣ったのだろうか。
「そちらのお二人はレオン君とユウ君ね」
「はい。レオンです」
「ユウです」
俺たちのことも知っていたようだ。俺とユウはそろってペコリと頭を下げる。
「シェーラさん程じゃないけど、カティアから聞いているわよ。あ、そういえば魔術大会、すごかったわねぇ。シェーラさんの魔法、見たわよ。的を割るなんてすごいじゃない」
「いえ、私もまだまだです。カティアさんがいなかったら割れていなかったでしょうし」
「その話もカティアから聞いたわ。シェーラの役に立てたんだって、あの日の夜は何回も話してくれたもの」
「はううぅ…」
女三人寄れば姦しいとはまさにこのことだ。俺とユウは半ば置いてけぼりで会話が進む。
「にしても、あのあとすぐ用事があって見れなかったのだけど、シェーラさんの次の人が的を3つも割ってみせたんですって?前代未聞よねぇ。どんな人なのかしら。逆に怖いわ」
「はは…確かに、彼は色々と常識が通用しない人ですから」
「しょうがないのです」
シェーラとカティアはちらっと俺の方を見る。ユウはわざとらしく咳をする。怖いなんて言われたら名乗りにくいし、別に話さなくていいだろう。このままカティアの母親には俺たちではない別の人がやったと思ってもらおう。というか、カティアは俺の魔法の話は一切しなかったのか。よほどシェーラが好きなんだな。
「カティアたちはもう公園にいくのです」
「あら、もう行っちゃうの?もっとお話したかったのに」
「お母様。また後で改めてお話しましょう。帰りに雑貨屋に寄らせていただきますから」
「シェーラさんがそう言うなら、お店で待ってるわ」
「話が終わったみたいだな」
「だね。ボクたち完全に蚊帳の外だったね…」
「じゃあ、行ってくるのです」
「はい、いってらっしゃい。みんなも気を付けてね~」
「「「はーい」」」
普段のカティアの性格とは逆で気さくで明るいカティアの母親と別れ、ついに王立公園に足を踏み入れる時が来た。




