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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
4章 天才数学者、初めての夏休み
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59 数学者、夏休みを満喫する②


Side レオン・カール


「乗り合い馬車って私、初めてだわ。意外と楽しいわね」

「でも、シェーラさんはこんなのよりもっと豪華な馬車を持っているんじゃないの?」

「確かに馬車は持っているけど、やっぱりみんなと一緒に乗る馬車にはかなわないわ」


 学校が休みだからか、馬車の乗客は俺たち4人だけだ。俺はシェーラたちが楽しく話すのを聞きながら、流れる風景をぼんやりと眺める。王都の中心から少し離れると、とたんに畑が広がるのだ。今は道の両脇に背丈ほどのトウモロコシが育っている。この光景は南側特有のものなのだろうかと、馬車に揺られながら考える。


「あとどれくらいかしら」

「いまトウモロコシ畑だから、あと20分くらいなのです」

「なにか面白い時間つぶしないかな…ねぇレオン君、何かそういうの知らない?」

「えぇっ、俺?」


 3人が楽しく話しているのを聞きながら風景を見て満足していた俺に話題が振られる。ユウに聞かれたら答えてあげないわけがない。よし、こういうのはどうだ。


「じゃあ、面白いゲームをひとつ、やってみようか」

「お、なになに?」

「おもしろいげーむ、なのです?」

「あら、何かしら」


 全員食いつきが良い。


「これは2人でやる勝負なんだがな、もし俺に勝てたらお弁当のおかずを1つ分けてあげようじゃないか」

「いいね、ボクそういうの好きだよ」

「ルールは簡単。お互い交互に1から数を数えていって、先に20を数えた方の勝ちだ。ただし、一度に3つまで数えることが出来る」

「はいはい、じゃあまずボクがやる!」

「よし、じゃあユウからでいいぞ」

「ユウ、レオンに勝つのよ」

「頑張るのです!」

「1!」

「2、3、4」


 よし勝ったな。俺は内心ほくそ笑む。シェーラとカティアは楽しそうにユウの応援をしているようだが、残念だったな。この勝負は俺の勝ちがほぼ確定している。


「5、6」

「7、8」


 ユウは全く気づく様子がない。


「9、10、11」

「12」

「13、14」

「15、16」

「うーんと…あれ?」


 ユウが気付いたようだ。


「もしかしてボク、もう負けじゃない?ボクが17って言ってもレオン君が18、19、20って言って勝ちだし、ボクが17、18、19って言っても20に届かなくて負けじゃない?」

「あら、本当ね」

「ユウが負けちゃったのです」

「ほらほらユウの番だぞ、はやく数えなよ」


 ちょっと意地悪になってユウを煽ってみる。


「うぅ…17、18、19!」

「20」

「負けちゃったよ、悔しいなぁ」

「次、私がやるわ。ユウの仇を討ってみせる」

「シェーラさん、お願い!」


 次はシェーラか。意外とシェーラは好奇心旺盛だし、こういうことを積極的にやりたがるんだよな。


「じゃあそちらからどうぞ」

「待って。さっきユウが先攻で負けたから、私は後攻にするわ」


 うっ、なかなかするどい。これだと必勝法が使えないが、うまく勝ちパターンに持っていくしかないか。


「1」


 あくまで平常心を装って1つだけカウントする。


「2、3、4」

「5」

「6、7、8」

「9」

「10」

「11、12」

「13」

「14、15、16」

「17」

「18、19、20。ふー、危なかった」

「うー、悔しいわね。私も負けちゃったわ…」


 実はかなり危なかった。最初はもしかして必勝法に気づかれたかと思ったが、そうではなかったようだ。あとはカティアともやってみて、頃合いを見てネタばらしをすればいいかな。

 さて次はカティア、と思ったが、シェーラもユウも負けず嫌いのようで、2人はすぐに再戦挑んでくる。向こうに後攻を取られたりしながらもなんとか全勝する。2人を合計6回程負かした頃、シェーラとユウは俺に挑戦するのを一度止めた。


「ねぇシェーラさん、どうすれば勝てると思う?」

「そうね…なんとなくだけど、レオが話していないだけで、確実に勝てる方法がある気がするのよね。じゃないとこんなに負け続けるなんて確率的にあり得ないもの。何も考えずに適当にやると向こうの術中にはまってしまうような…」

「シェーラ、手ごわいな…」


 確かに、もしこれが1/2で勝てる勝負だったら、俺は1/64、約1.5%を引いた豪運ってことになるしなあ。


「えっ、てことは、レオン君、必勝法があったの?ずるいよー」

「…分かったかもしれないのです」


 その時、俺がルール説明をしてからずっと静かに考えこんでいたカティアが静かに口を開く。カティアは魔法大会でシェーラの打つ魔法の軌道を計算してみせたりと、かなり天才的な側面があるから本当かもしれない。誰かが必勝法に気付くとしたらカティアが一番だろうとは思っていたが…


「カティア、本当?」

「カティアさん、ほんとに?」

「行けると思うのです。ユウとシェーラの勝負を見ていたら気づいたのです」

「よしカティア、やってみようじゃないか」


「分かったのです。カティアは後攻なのです」


 …これは、やっぱり気づいているな。さて、マリーさんに作ってもらったお弁当に何が入っていたかな…


「1、2、3」

「4」

「5、6、7」

「8」

「9、10」

「11、12」

「13」

「14、15、16」

「17」

「18、19、20!」


 カティアがいつもより大きな声で20をカウントする。


「やったのです!」

「すごいわ、カティア!」

「なんでなんで?」


 ユウは必勝法が気になるようだ。せっかくだから必勝法を見つけたカティアに華を持たせよう。


「きっかけは最初の勝負なのです。ユウが17から始める番で、確実に負けだと気づいた場面です」

「あったわね。17だけで止めても、限界まで進めて17、18、19まで行っても負け、って話よね」

「そうなのです。その後の勝負も必ずレオは16まで止めて相手に手番を渡して勝っていたのです」

「ふんふん、それで?」


 シェーラもユウも熱心に聞き入っている。俺は何も口出さないでおくことにし、遠くにみえる風車小屋へ視線を移した。


「だから、このゲームは16で止めて相手に順番を渡せば必ず勝つのです。このゲームは16を言った方が実質勝ちなのです」

「確かに」

「でも、どうやって必ず16を言えばいいのかしら」

「12で止めて相手に順番を渡すのです」


 すると相手はいくつ進めたとしても、自分が必ず16を言えるのだ。

13    →14、15、16

13、14  →15、16

13、14、15→16

 相手がいくつ進めたかに応じて、合計4ずつ進むように自分はカウントすればよい、という仕組みだったのだ。


「分かったわ!12を必ず言うにはその4つ前の8を言えばよくて、8を言うためには4を言えばいいのよ!で、必ず4を言うためには、相手に先攻を譲ればいいのよ」

「なるほどね。そういう必勝法だったのかぁ」

「だと思うのです。レオ、あっているのです?」

「大正解。すごいよ、よく気づいたね」

「えへへ、褒められたのです」

「カティアはすごいわね」


 これほど短時間に仕組みを見抜くなんて、正直驚いている。前世の俺は本に種明かしされるまで気づかなかったしなあ。


「本当にこれが必勝法なのか試してみようよ、ね、レオン君、お弁当のおかずをかけてさ。ボクは後攻ね」

「いや、それは…」

「その次私ね。私も先攻はレオに譲ってあげるわよ」

「…参りました。許してください」


 こうして俺たちは乗り合い馬車の時間を楽しく過ごした。


小学生の時、このゲーム流行ったなぁと思って書いてみました。

ちなみにこのゲームはとある難関高校の入試問題に、必勝法を書け、というような問題として出たことがあります。(ほかにも小問がいくつかありましたが)

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