56 数学者、魔法大会で魅せる⑦
Side シェーラ・キース
「何よ、これ」
思わず声に出てしまった。レオは同時に2つの的を割って見せたあと、3つ目を浮かせて爆発、バラバラにさせた。浮かせた方法なんて全く分からない。ただ、とてつもなくすごい、という感想だけが残る。
もはや羨望の感情も嫉妬の感情も湧かない。レオが積み重ねた研究の量は知っているし、たぶん頭の構造からして私とは次元が違いすぎる。子供の中に一人だけ大人が混ざっているような感じ。
「ふぅ、理論通りにできて良かった」
そんなことを言いながらレオが待機場所に返ってくる。あんなにすごい魔法を見せたというのに、まるで出来て当然かのような態度。相変わらずいつも通りね。
「昼休憩の時間をとります。再開の時刻は…」
一年生の部が終わったからお昼の時間ね。カティアとごはんを食べましょう。…あれ?1組の点数発表がまだだけど、昼休憩の後にされるのかしら。まあいいわ。的が無事割れたことで満足したから、点数があまり気にならないの。
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Side マリーさん
なんということでしょう。レオさまは浮遊魔法まで習得されていたとは。それに、浮遊魔法は直接触れたものに対してしか発動できないので、最初に位置調整として触ったときからずっと魔法の発動を待機していたのでしょう。もはや奇術です。魔法の威力も規格外ですし、アイデアも非常によく練られています。やはり天才です。いえ、本人は自分を天才とは思っていないとおっしゃっていました。今回の魔法についても、地球でまともに勉強すれば誰だってこれくらい思いつく、とおっしゃることでしょう。
「あれが一年生か?三年生ではなく?」
「ありゃあ卒業時に王家直属の魔法部隊からスカウトが必ず来るな」
やはり周りの方々も驚愕されているようです。仕える身として非常に鼻が高いです。
さて、お昼休憩になりました。今日は数少ない保護者、従者が校内に入れる日、そして食堂がいつも以上に混雑する日です。レオさまのためにお弁当をお持ちしました。渡してきましょう。
シェーラさまと歩かれるレオさまを発見しました。シェーラさまもお弁当をお持ちのようです。
「レオさま」
「あ、マリーさん」
「お弁当をお持ちしました。どうぞ」
「ありがとう」
「マリーさんこんにちは。いらしていたのですね」
「ええ。シェーラさまもレオさまも大変すばらしい魔法でした」
「ありがとう。マリーさん、レオってあれが普通なのですか?」
「…いえ、私もここまでとは」
「マリーさんにとってもあれは驚きだったのですね」
「えぇ。では私はこれで」
私の任務は終了です。レオさまと一緒にお昼を頂きたかったのですが、寮に戻って家事をしなければなりません。いつもより早起きして作ったお弁当でレオさまが笑顔になって下さることを祈りながら学校を後にします。
そういえば、シェーラさまもお弁当をお持ちしていたということは、セバスさんがお作りになったのでしょうか。
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Side シェーラ・キース
レオと待機場所を出て、第一クラスのみんながいる場所へ向かう。カティアとユウが一緒に分かりやすいところで待っていてくれた。
「カティア!」
「シェーラ」
勢いよくカティアに抱きつく。レオの魔法が全てを持って行ったようなものだけど、私達だって誇らしい結果を出した。
「カティア、私達本当にやったのよ!」
「うん!見てたのです!嬉しいのです!」
「カティアの協力が無かったら絶対に成功しなかったわ。ありがとう」
「そんな…でも、シェーラの役に立ててよかったのです」
「二人とも仲がいいね」
「だな。そういえば、ユウがいなかったら俺もあんな魔法をやることはなかっただろうな」
「えっ、なんで?」
突拍子もないことを言い出すレオにユウが尋ねる。なんでかしら。
「ユウが俺の魔法を楽しみにしてるって言ってたから全力を出すことにしたんだよ」
「ふふ、なによそれ。レオはどれだけユウのことが気に入ってるのよ」
「そりゃあ、こんなにかわいいんだからなぁ」
「もー、かわいくないってば!」
「ふふ」
正直なところ、ユウはとってもかわいいと思うわ。真ん丸な頭はなで心地が最高だし。
「そうそう、カティアとユウはお弁当持ってきた?」
「持ってきたのです」
「えっ…ボク、持って来てないよ。持ってこないといけないんだっけ?」
「今日は保護者がたくさんいて食堂がいつも以上に混むからお弁当を持ってくるといいのよ」
「お弁当がないならカティアのを分けてあげるのですよ?」
「いやぁ、申し訳ないよ。購買でパンを買ってくるから」
「じゃあ、とりあえず場所取りをしましょ。空き教室の机は使えるのかしら」
「第一クラスの教室を使ってもいいってランプ先生から聞いたのです。そこがいいのです」
「じゃあボクは購買に行ってからそっちに向かうね」
第一クラスの教室は誰も使っていなかったので、私達4人で独占できた。ユウもやってきて、4人でお弁当を広げる。
「レオのお弁当、とっても豪華なのです」
「マリーさんが早起きして作ってくれたらしい」
「わ、これ、ワイバーンのから揚げなのです」
「本当だ。一つ食べるか?」
「えっ、いいのです?わーい」
ワイバーンのから揚げって、確か寮の初日に夜ご飯で食べたわね。あの時はとってもおいしかったわ。カティアが幸せそうに食べている。
「ボクにもちょーだいっ」
「いいぞ」
「ん~~~~!」
「それにしても、レオン君の魔法、ほんとびっくりしたよ。どうやったの?浮かせるやつ」
4人でごはんを食べていると、当然さっきの魔法の話題になる。
「ああ、あれはね、魔力で軽くなるダンベルから着想を得たものでね、魔力を反重力子として実現させることで物体に斥力を…」
「レオン君に真面目な説明を求めたボクがバカだったね…こうなるんだった」
「物を浮かせる魔法ってあまり実用的じゃないって聞いたわよ?」
「え?そうだね、あまり自由自在に動かすのは難しいらしいからね。ただ上昇させる程度が限界みたいだね」
「とにかくレオン君が規格外ってことがよくわかったよ…それと、シェーラさんも的を割る時点でボクからしたら雲の上の存在だなぁ」
「ありがと。カティアが色々計算して魔法を撃つ向きを考えたのよ。本当にすごいわ」
「いやいや、計算した通りにピッタリ魔法を撃てるシェーラもすごいのです」
「二人ともすごいな。あの方法は俺も思いつかなかったからな」
「え、本当なのです?」
「レオ、本当?」
「うん」
ちょっと悔しそうに卵焼きを口に運びながらレオが答える。
「やったね、カティア」
「目標達成なのです!」
思わずカティアとハイタッチをした。スプーンを持っていない方の手で。
「なになに、どういうこと?」
「あのねユウ、実は私達、レオをぎゃふんと言わせるっていう秘密の目標があったのよ」
「はは、じゃあ今回は俺の負けか」
「ふっふっふ…そういうことよ」
1人では決して届かなかったであろうレオにも、カティアと力を合わせれば手が届く。これがとっても嬉しい。
「二年生、三年生の部ではどんな魔法が見られるか楽しみなのです」
「そうだな」
「レオが言うとイヤミに聞こえかねないわよ?」
「いやいや、俺も見たことない、知らない魔法がたくさんあるから素直に楽しみなんだよ」
「レオン君なら、『俺ならあの魔法をもっとうまく魅せることができる』とか言い出しそうだよね」
「ふふ、確かに」
「簡単に想像できるのです」
「いやいや、俺ってそんなにヤな奴か?」
「あはは、ごめんごめん」
こうして大成功を収めた私達は楽しく昼ご飯を食べた。




