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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
3章 天才数学者、魔法大会に出る
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55 数学者、魔法大会で魅せる⑥


 披露を終えた2組の代表の一人、昔シェーラに難癖をつけていた彼は、結界内にシェーラが現れたとき、憎悪で顔を歪ませていた。一度校長先生からお叱りを喰らったものの、時間の経過と共に、下等種族であるエルフが自分を差し置いて第一クラスに在籍しているという事実に鬱憤を溜めていたのである。

 彼の出身地であるドーラ領は、ザビンツ国で最も差別意識が残っている領である。彼にとって自分より優れる亜人の存在など決して許されないのだ。

 しかし、そこで彼が目にした光景は…


「的が…割れているだと…」


 彼が必死に練習に練習を積んで3本の雷矢でやっと出せた紫の威力は魔術的の示す最大威力のはずだ。いや、はずだった。しかし彼女はその上を行って見せた。

 彼が一番でなければならなかった。一番であることを見せつけ、第一クラスに繰り上がることで自分の優位性を示すつもりだった。


「ありえない…エルフのくせに…俺の方が…ありえない…」


 虚ろな目をしながら彼は壊れた機械のように同じ言葉を発していた。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


Side レオン・カール


「ついに的が割れました!なんということでしょう!」

「いやぁ素晴らしい魔法だ。複数の魔法の軌道を完全に理解して同時に当てる技術。これを一度で成功するには、途方もない回数の練習をしたことだろう」


 ランプ先生と校長先生の講評が拍手の波に混ざって聞こえてくる。シモン君の魔法でこれ以上盛り上がることはない、と思っていたが、今の盛り上がる様子は完全にシモン君の時を上回っている。客席では立ち上がって拍手をする大人もちらほら確認できた。


「お疲れ、すごかったな!」

「私、感動しちゃった!」


 待機スペースに帰ってきたシェーラにシモン君とハルさんが声をかける。シェーラは満面の笑みを浮かべている。


「二人とも、ありがとう。本当に成功して良かったわ」

「最後に指で押して割れた的が落ちた瞬間、俺思わず飛び上がっちゃってさぁ」

「私も私も!あのとき、やったーーって叫んじゃった」


「お疲れ、シェーラ」

「レオ…見てた?どうだった?」


 俺が声をかけると、シェーラは俺のすぐ目の前に来てそう尋ねてきた。


「ああ、見てたよ。すごいじゃないか」


 俺がそう答えると、興奮冷めやらぬシェーラは小さく飛び跳ねて喜びを表す。


「やったっ…レオ、本当にありがとう!」


 エルフのお嬢様は初めて10歳らしい感情表現を見せた。


「やっぱり二人ともお似合いだな」

「ひゅーひゅー」


 シモン君とハルさんが何か言ってくる。するとシェーラは急に慌てて俺から離れてしまった。


「はぁ。俺は同じことを二回も言わないからな。じゃあ行ってくるから」


 再び否定するのも億劫だったのでそのまま俺は結界に向かうことにした。


「おう、割ってこいよ」

「頑張ってね」

「あ…れ、レオ!」


 結界に入る直前に俺は立ち止まって振り返る。


「何だ」

「私が割ったんだから、レオも絶対割るのよ」

「ああ、大丈夫だ、俺は3()()割るからな」

「「「えっ?」」」


 そう答えた俺は、困惑する3人を放ってそそくさと結界に入った。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


「まさか3人目で的を割るなんてなぁ…いつもだったら第一クラスの4人目が割れるかどうかっていうので一番盛り上がるはずなんだがなぁ」

「そうか。まだ3人目だったのか。的が割れたからもう4人目が終わった気分だったぜ」

「だな。にしても、3人目が的を割ったってことは、4人目も割るってことだよなぁ。今年の一年は紫も2人出たし、強い奴が多すぎないか?」


 一年生の部を見ていた上級生全員が同じことを話していた。3人目が割った。なら4人目は割るだろうと。もしかしたらただ割るだけではない、と予想する者もいた。


「ここで主席が出てきたってことは、もう残っているのはあいつしかいないだろうな」

「あいつって?」

「知らないのか?あのエルフに並ぶ天才だって言われているレオン・カールだよ」


 少し時間が経ってから、ランプ先生が4人目のアナウンスをする。


「最後に、第一クラス4人目、レオン・カール君の実演に移ろうと思い…少々お待ちを。

…えー、確認しましたところ、本人の届け出により、魔術的を3つ使った実演をするそうです」


 そう。彼は本番前日、披露の順番の紙を提出する際に、自分は魔術的を三つ使うことを申請していたのだ。二年生、三年生の部では的や人形を3つまで任意で使うことが許されているが、届け出さえ出せば一年生でも的を複数使用することができるのだ。ただし、ルールとして一年生は必ず的を使うという制限があるため、人形は使えないが。




 結界内に入った彼はゆっくりと的まで歩き、2つを20cm間隔で立たせ、のこり1つをやや離れたところに置いた。今、彼の目の前には魔術的が確かに3つ並んでいる。


「ランプ先生…まさか彼は3つを割るつもりなのですか?」

「ええ、そのまさかのようね。正直私も予想外よ」


 先ほどのエルフの少女が的を割ったということ、彼の目の前に的が3つあること。この2つの事実から1つの仮説にたどり着いた観客は慌てだす。


 的の位置調整を終えた彼は横に並んだ2つの的の前に立ち、それから見えない結界外の観客に向けて一礼した。ついに披露が始まることを察知した観客は一斉に押し黙った。


 少年は両手を前に突き出し、魔力をためる。右手に火属性、左手に水属性の魔力を。


「魔力密度は十分。500MPaに圧縮。直径0.1mmで射出」


 両手から熱線とウォータージェットが飛び出す。極限まで圧縮された熱線と水流は的の中央に当たる。超高密度の魔法を連続的に一点に集中させることで魔術的はものの1秒足らずで自壊する。これが彼の実験データから導き出された最適化された破壊方法だった。

 彼の地球の知識から考案されたウォータージェット。これは高威力で細く水を噴射することであらゆるものを切断する技術で、一般にダイヤモンドでさえ切断可能である。彼はこれを魔術で再現し、さらに威力を高める手法を研究していたのだ。


バコン!!


 2つの的が同時に音を立てて割れる。いとも簡単に当然であるがごとく的を割って見せた彼は休憩を挟まずに3つ目の的の前へ移動する。


 観客は完全に置いてけぼりである。なんとか創意工夫を凝らしてやっと的が割れたエルフの少女に大興奮していた群衆は目の前の光景がどれほど異常であるかが判断できなくなっている。


 3つ目の的の前で少年は右手を的に向け、そのまま右手を持ち上げる。するとどうだろう。


「な…的が浮いている…」


 まるで上から糸で引っ張られているかのように上昇する的を見た観客は自分の目を疑った。


 発想は彼が体育の授業で手にした、魔力で軽くなるダンベルだった。魔力を負の重力として働く反粒子に変換する機構があると踏んだ彼はその機構を解析、応用し、独自である程度の重さの物体を浮かせることに成功したのである。今彼は自身の魔力でもって的に対して負の重力を発生させ、地球と反発させることで宙に浮かせている。


 最後の仕上げに、30cmほど的を浮かせた彼は、その右手を握る。


 的が爆ぜた。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


 彼のしたことを正しく理解できた人はどれだけいるだろうか。そうランプ先生は大騒ぎする観客を見ながら考えていた。


 まず前半で同時に2つの的を割ったこと。異なる属性の魔法を発動するとなると、一発当たりの威力が小さくなるのが当たり前だ。しかし炎と水をどちらも圧力をかけて細く打ち出すようにしたことで高い威力を実現した。これは科学の知識を魔法に組み込んだ結果である。


 そして後半。物体を浮かべる魔法は確かに存在するが、必ず一度物体に触れて魔力を流し込み、浮かべている間も素の魔力を供給し続けなければならないのだ。しかし彼は何の準備もせず、的に触れずに浮かべたように見せた。否、実は彼は一度的に触っているのだ。


 そう。最初に的の位置調整をした時に。


 位置調整をしながら的に触れる間に的に直接素の魔力を流し込むことが出来る。一度触れて流し込むことが出来れば、後から離れても素の魔力の供給は可能である。しかし一度でも途切れさせてはならず、彼は別の魔法を発動して2つの的を割りながら、常に3つ目の的への魔力供給を継続しなければならない。彼はそのことを一切悟られないように行い、何食わぬ顔で的を持ち上げ、そして素の魔力を遠隔で魔法に変換し爆発を引き起こした。これが彼のトリックの全てだ。


 確かに不可能ではない。魔法理論を究めているランプ先生だからこそ、彼の一つ一つの行動を理解でき、そう判断できる。しかし一般の人はどうだろうか。的が持ち上がる理由も、何の前触れもなく的が爆発する理由も分からないだろう。もはや一種の奇術に見えるはずだ。

 また、これだけの魔法を可能にするにはそれだけ魔力量が必要である。人族の中で一番の魔力量である彼だからこそできる芸当であり、決して他者が全てを真似することは出来ない。


 丁寧にお辞儀をして結界から去る少年を見て、彼女は彼に対して底知れぬ恐怖を感じるのであった。



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